テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作さんの連載第4回。キャリアが上がると「伝える責任」も大きくなり、大勢の前で話をすることなども増えます。大事な場面で「伝える」上で重要となるのが「視線」の使い方です。その勘所を、新刊『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(日経BP)から抜粋・再構成してお届けします。

 連載の第2回では、「メッセージを効果的に伝えるためには、究極的には『演じる』ことが必要」とお伝えしました。しかし、下手な演技では伝わりません。「演じる」ためには、いくつかの具体的な体の動きに慣れることが重要です。

 演じる上で重要な要素の一つが「視線」です。

 まずは、前を見て話すことです。例えばプレゼンで手元の原稿をずっと見たまま話すなど、話し手が下を向いたままだと、聞き手も「話し手のほうを向く必要がないのだ」という認知が無意識に広がり、やがて話を聞かなくなります。基本的なことですが、視線は伝える相手のほう、つまり前を向いている必要があります。

 最近は経営者たちもプロンプターを活用し、前を向いて話すようになっています。大企業の経営戦略説明会などでは、私たちマスコミのカメラがある側、つまり会場の後方に大きなスクリーンがあって、そこに原稿が一言一句表示され、プレゼンが進むにつれて画面が下にスクロールするようになっています。この原稿を、あたかも自分が今考えたかのように話せるかどうかが経営者の腕の見せ所です。

 また視線にはそれだけで力があります。「目は口ほどにものを言う」ということわざがあるように、視線を効果的に使うことで、言葉だけでは表現できない感情やメッセージを伝えることができます。そもそもニュースキャスターがずっと下を向いていて話をしていたら、中身は伝わらないでしょう。

「視線」の大切さを語る豊島晋作氏(写真:竹井俊晴)
「視線」の大切さを語る豊島晋作氏(写真:竹井俊晴)

 視線は、交渉や説得の場面でも非常に重要です。相手の目を見つめることは、自分の要求を伝えるだけでなく、相手の要求をどう受け止めるかを示す一種の「返答」にもなります。こうした視線のやり取りが、緊張感を高めることもあれば、相手との信頼関係を築くきっかけにもなります。

 例えば、相手の目をじっと見つめる行為。これは状況によって異なる意味を持ちます。相手と対立する場面で、相手の目を見続けることは「あなたとの対立を選ぶ」というメッセージになり、あえて目をそらせば「対立は望まない」または「こちらは弱気である」というメッセージにもなります。

 逆に、相手が真剣にメッセージを発しているときにその目を見ると、「そのメッセージをしっかり受け止めた」という合図になります。目をそらせば「真正面からは受け止めなかった」という意思表示になります。基本的に、全く目を合わせないことは、「私はあなたに関心がありません」「私はあなたを信じていません」というメッセージになるでしょう。

 また、自分の気持ちを本気で伝えたいとき、「これは本当に大事なことなんです!」と相手の目を見たまま訴えれば、言葉以上の真剣さが伝わるでしょう。

 このように目を合わせる、合わせないこと自体が意味を持つ一方、逆にリラックスした会話では視線を少し外すことが相手に安心感を与えることにつながるでしょう。自然な場面では、基本的には、相手のネクタイや首元あたりを見るようにして、適度に目を合わせるくらいがいいと思います。

 いずれにせよ、視線の動きは、あなたのメッセージや相手との関係を大きく変える強さを持っています。相手との関係性や場面に応じて、使い方を意識するようにしましょう。

つまらない話をする人は、きちんと聞き手を見ていない

 また、優れた語り手は、話しながらも聞き手をよく「見て」います。つまり聞き手をよく観察して話しているのです。

 逆に、目の前にいる大勢の人に対してつまらない話をする人は、きちんと聞き手を見ていません。だから、聞き手が退屈しているのに気付きません。

 聞き手を見ることは、聞き手が何を考えているのかを観察することです。例えば、退屈そうにしている人や、首をかしげている人、疑問を抱えていそうな人に目を向けて、「何か分かりにくいところがありましたか?」と問いかけて、より分かりやすい説明につなげることも必要です。

 なお、プレゼンテーションなどの場面では、なるべく聞き手全員に視線を分散させるほうがよいでしょう。「私はここにいるみなさん全員に話しています」というメッセージになります。

 ニュースキャスターやアナウンサーがニュースを読むときは、基本的には無表情かニュートラルな表情が求められます。視聴者に対して公平で客観的な情報を伝える役割があるため、感情を表に出さないほうが適切だからです。

 テレビ東京は経済やマーケットの情報を多く伝えていますが、たとえ株価が大きく上昇しても下落しても、私たちキャスターの表情は基本的にはニュートラルです。

 確かに、株高のニュースは日本経済にとって、多くの投資家や年金受給者にとっても良いニュースです。大幅高でもうけた人も大勢いるでしょう。しかし、前日に売ってしまった人もいますし、逆に空売りで大損した人もいるでしょう。それに、今から買う人にとっては“高値づかみ”になるリスクもあるでしょう。株安のニュースは逆に悪いニュースと捉えられがちですが、それは“安値”で買うチャンスになっている場合も多くあります。

 一方で、人に何かを伝える場面はもちろん、社内の会議などのビジネスシーンや講演、授業などでは、むしろ表情を豊かに使うことが、メッセージの効果を高めます。

 では、どのような表情で話せばいいのか。

 「明るくポジティブな表情で話し始めるのが基本だ」という考え方がありますが、私は必ずしもそうは思いません。人間はいつでもポジティブな気持ちでいるわけではありません。心にもない表情をつくるのは、私もイヤです。

 伝えるときは感情的になってもよいときがあります。もしそのほうが話が「伝わる」のであれば、不機嫌な表情で話し始めてもよいのです。

 例えば、会議の冒頭で腕を組み、少し眉間にシワを寄せながら、低めのトーンで「正直に言います。私は今、この状況に納得していません」と切り出せば、聞き手は「何があったんだろう?」と集中して話を聞こうとするでしょう。あるいは、スピーチの最初にゆっくり首を振りながら「本当に、がっかりしました……」と言えば、その後の展開に注意を向けさせることができます。あくまで重要なのは「伝える」という目的です。

(写真=mapo/stock.adobe.com)
(写真=mapo/stock.adobe.com)

 笑顔で始めるという話し方のスタイルは、あまりに“当たり前”なので、聞き手側に驚きや意外性をもたらすことはありません。膨大な量のメッセージがあふれる社会においては、むしろ不機嫌な表情で入っていったほうが意外性があり、聞き手の関心を高めることができる場合もあるでしょう。

 また、マイナスな話からプラスな話に変わる場合など、途中から明るい表情に変えると、話の「底」と「天井」の高低差を意識させることもできます。これは演じるというテクニックであると同時に、自分の感情に率直になって話したほうが伝わるということを最大限に生かす方法でもあります。やはり、話の内容と表情を一致させることが自然に伝わります。

 もちろん、聞き手に対する感謝の気持ちや謙虚さを表現しながら、笑顔でスタートすることが基本だとは思います。相手に良い印象を与え、場を和ませることができるからです。

 自然な笑顔によって自分の人間的な安定性を示すことは、その後のメッセージを伝える上で、話し手と聞き手との間に共通の信頼の基盤を築くものです。かく言う私も、多くの場合はなるべく笑顔で話し始めます。ぎこちないときもありますが。

日経ビジネス電子版 2025年5月22日付の記事を転載、一部改訂]

テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作氏が、過去の失敗や苦い思いを通してたどり着いた「自分の考えや情報を分かりやすく人に伝える方法」、「より正確に、より多くの情報を人から聞き出す方法」について、基本的な部分から応用的な要素までを徹底解説。

豊島晋作(著)、日経BP、1980円(税込み)