MUFGグループの一員で、コンサルティングや調査・研究などの事業を行っている三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)。コンサルティング事業本部では、「最初の10冊」「基本の50冊」「発展の150冊」という推薦図書リストを作成しており、人材育成に本を活用しています。どのような本が選ばれているのでしょうか? 同社のコンサルティング人材開発室長・名藤大樹さんに聞きました。

コンサル用語を学ぶために最適な1冊

 前回「 MURC コンサル新入社員の課題図書は800ページ超の『鈍器本』 」は新入社員の課題図書である『 世界標準の経営理論 』(入山章栄著/ダイヤモンド社)を紹介しました。当社は人材育成の一環として本を活用しており、経営コンサルタントを目指す人に向けた「最初の10冊」、実際に経営コンサルタントとなった人のための「基本の50冊」「発展の150冊」といった推薦図書リストがあります。

 今回はリストの中から何冊か選んでご紹介します。まずはコンサルタントを目指す社員に向けた「最初の10冊」から。近年は新卒の社員だけではなく、他業界・他業種から転職されてくる人も多いため、コンサルタントに必要な「マインド・思考」「知識・スキル」を学べる本をそろえています。

 コンサルタント的なマインド・思考と表現方法を学ぶのはOJTが中心になります。しかし、なかには読むだけでもとても有効な本があります。その代表として10冊の頭に置いているのが、『 意思決定のための「分析の技術」 最大の経営成果をあげる問題発見・解決の思考法 』(後正武著/ダイヤモンド社)です。この本は1998年と刊行は古いのですが、今でも読み続けられているロングセラー。私自身も新卒時に読み、ずいぶん勉強になりました。今読み返しても非常に中身が濃く、面白い1冊です。

 他にも「最初の10冊」には、SWOTやNPVといった言葉でつまずかないための用語集や、「読み書きそろばん」(作文やエクセル)の本などをリストに入れています。

■コンサルタントを目指す人のための「最初の10冊」
タイトル 著者 出版社
【思考・マインド系】
意思決定のための「分析の技術」 後正武 ダイヤモンド社
採用基準 伊賀泰代 ダイヤモンド社
【知識・スキル系(プロダクションスキル)】
新装版 「分かりやすい表現」の技術 藤沢晃治 文響社
日本語作文術 野内良三 中公新書
アナリストが教える リサーチの教科書 高辻成彦 ダイヤモンド社
Excel 最強の教科書[完全版] 藤井直弥/大山啓介 SBクリエイティブ
データ分析の力 因果関係に迫る思考法 伊藤公一朗 光文社新書
【知識・スキル系(経営の基礎)】
グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50 グロービス ダイヤモンド社
グロービスMBAキーワード 図解 ビジネスの基礎知識50 グロービス ダイヤモンド社
新版 財務3表一体理解法 國貞克則 朝日新書

「基本の50冊」に選んだ名著の数々

 続いて経営コンサルタント向けの「基本の50冊」では「経営/経営戦略」「コンサルティング」「専門知識(人事制度、マーケティングなど)」「コンサルタントとしての思考法」「プロダクション(スキル)/仕事術」「教養」といったジャンルごとに本を選んでいます。

 例えば「経営/経営戦略」では『 V字回復の経営 増補改訂版 』(三枝匡著/日経ビジネス人文庫)、「コンサルティング」では『 選ばれるプロフェッショナル クライアントが本当に求めていること 』(ジャグディシュ・N・シース、アンドリュー・ソーベル著/羽物俊樹訳/英治出版)、「専門知識」では『 組織デザイン 』(沼上幹著/日経文庫)、「教養」では『 失敗の本質 日本軍の組織論的研究 』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎著/中公文庫)などを入れています。

 『V字回復の経営』は初版が出たのが約20年前ですが、今読んでも面白いですね。『選ばれるプロフェッショナル』は研修でも使い、コンサルタントとしての心構えを説いています。『組織デザイン』は組織設計の基本原理を説明した名著。『失敗の本質』は日本軍の敗因を組織的に研究した1冊。優秀な人材がいるはずの組織がなぜ機能しなくなるのか、コンサルタントなら読んでおくべき本だと思います。

コンサルタントを目指す社員に向けた「最初の10冊」リストを用意しているという名藤さん
コンサルタントを目指す社員に向けた「最初の10冊」リストを用意しているという名藤さん
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コンサルタントは経営者の考えを知るべき

 コンサルタントがさらに深く学ぶための「発展の150冊」はさらに幅広く、「戦略」「経営者」「ビジネスモデル」「企業変革」「新時代の経営」「日本的経営」「コンサルティング・プロフェッショナリズム」「専門知識」「思考法」「プロダクション」「マネジメント・リーダーシップ」「ビジネス教養」「働き方」「教養」のジャンルから本を選んでいます。「基本の50冊」にはない「経営者」というジャンルがあるのは、やはりコンサルタントは企業のトップにOKをもらわないといけないので、経営者が何を考え、何を求めているかを知っておく必要があるからです。

 ただし、「基本の50冊」にある本と優劣をつけているわけではなく、50冊に入りきらなかったもの、ビジネス書の名著、古典など、さまざまな理由で選定しています。

 一部をご紹介すると、「戦略」では『 イノベーションのジレンマ 増補改訂版 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき 』(クレイトン・クリステンセン著/玉田俊平太監修/伊豆原弓訳/翔泳社)、「経営者」では『 日本電産 永守イズムの挑戦 』(日本経済新聞社編/日本経済新聞出版)、『 本田宗一郎 夢を力に 私の履歴書 』(本田宗一郎著/日経ビジネス人文庫)、「新時代の経営」では『 マネー・ボール〔完全版〕 』(マイケル・ルイス著/中山宥訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、「専門知識」では『 クリエイティブ人事 個人を伸ばす、チームを活かす 』(曽山哲人、金井壽宏著/光文社新書)などです。

 例えば「イノベーションのジレンマ」は、言葉としては知っていても、実際に本まで読み込んでいる人は少ないかもしれません。しかし、コンサルタントとして頭一つ抜けている人は、本までしっかり読んで、自分の知識にしている印象があります。

「経営者が何を考え、何を求めているかを知っておく必要がある」
「経営者が何を考え、何を求めているかを知っておく必要がある」
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年3万円まで書籍代を補助

 また、本を人材育成に活用している当社では、「リベラルアーツ投資支援制度」というものがあります。「自己研鑽(けんさん)に役立つと自身が考える本」であれば、年に3万円まで会社が補助を出します。上司の事前承認は必要なく、ビジネス書や自己啓発本を選ぶ人もいれば、哲学や歴史、「流行を知りたい」と売れている小説を買う人もいます。「今まで興味はあったけれど、会社が補助してくれるなら」とプログラミングや語学などスキルアップの本を買っている人もいるようですね。

 どんなジャンルの本であれ、読めば知識と語彙が身に付きます。コンサルティングの仕事は語彙が豊かであるほうが有利ですし、経営理論など「抽象的な概念」と、クライアントの課題といった「具体的な事例」の両方を扱えなくてはいけません。よく若手から「どうやって語彙を増やせばいいですか」「どうすれば抽象的な概念が扱えるようになりますか」と聞かれることがあるのですが、それにはやはり本をたくさん読むのが効果的です。遠回りだと感じるかもしれませんが、それ以外の道はない気がします。

 今はリモートワークでテキストでのコミュニケーションが増えていますが、語彙力や読解力が高ければ、齟齬(そご)なくコミュニケーションが取れます。息をするかのように自然と本を読む人は、コンサルタントとしても、リモートワークシフトのような環境変化にも強い人なのでしょう。

取材・文/三浦香代子 撮影/品田裕美

■変更履歴
記事掲載当初、本文中で「リベラルアーツ支援制度」としていましたが、「リベラルアーツ投資支援制度」の誤りでした。本文は修正済みです [2023/02/21 11:30]