明治時代に創業した老舗の重電メーカー・明電舎は、各種電気設備の製造・販売、保守を行っています。同社で女性活躍推進や障害者雇用などを含め全社的なDEIを進めるDEI推進室では、メンバーが絵本を読んで仕事に生かしているといいます。なぜ絵本なのか。どのような効果があるのか。DEI推進室の村松尚子さんと前田衣吹さんに聞きました。
DEIを理解するのにまず読んだ本
日経BOOKプラス編集部(以下、──) 明電舎は歴史のある会社ですが、どのようなビジネスを行っているのですか。
人財開発部DEI推進室 前田衣吹さん(以下、前田) 当社の創業は明治時代の1897年で、127年の歴史があります。発電・変電・送電などの電力インフラや、水処理施設向けの電気設備、電気自動車のモータ、自動車試験システムなど、生活に大きくかかわるインフラ事業を中心に、国内、海外で幅広く事業展開をしています。「電気のあるところに、明電舎がいます。」という表現が一番分かりやすいと思います。
明電舎 人事統括本部 人財開発部 DEI推進室
人財開発部副部長兼DEI推進室長 村松尚子さん(以下、村松) 当社は製造業ということもあり、創業時から男性の多い職場でした。今も約1万人の社員の85%は男性ですが、これからはDEI、つまりダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)を推進しないと、企業として経営を続けていくことができません。そうした危機感があり、2023年にDEI推進室が発足しました。DEI推進室ができたのは23年ですが、ダイバーシティには10年以上前から取り組んでいます。
現在、DEI推進室では具体的にどんな仕事をしていますか。
村松 DEIと聞いても分かりづらいですよね。そこでDEIという言葉を、「誰もが(D)、遠慮しない・遠慮させない(E)環境のもと、生き生きと(I)働く」、そんな風土や職場を目指していこうとひもときました。具体的には女性活躍推進、外国籍の人や障害者、LGBTQ(性的少数者)といったマイノリティーの人々に対する公平性を保つため、社内の制度整備を推進しています。トップダウンで進めていますが、誰かを呼ぶときは「○○さん」と呼ぶ「さん付け運動」など、全社員がDEIを自分事化できるように、「誰もが」を意識した取り組みも実施しています。
明電舎 人事統括本部 人財開発部 DEI推進室
村松さんと前田さんはずっとDEIにかかわってきたのですか。
前田 入社1年目は海外戦略の部署にいて、2年目からDEI推進室に来ました。今、4年目です。
村松 私は14年間ほど宣伝課にいて、直近の3年間は新規事業を立ち上げる部署にいました。DEI推進室には23年4月に異動したのですが、人事部門に来たのは30年近く働いてきて初めてです。実は最初、DEI推進室に行けと言われても、仕事内容がピンとこなかったんです。「ダイバーシティとは何ぞや」というところから理解するため、本を80冊ぐらい読みました。
DEI推進を相談していた社外のコンサルタントに、「あまり難しい本から読まないほうが理解しやすいですよ」とアドバイスをもらい、最初の頃に『 早く絶版になってほしい #駄言辞典 』(日経xwoman編/日経BP)を読みました。「女性なのに仕事ができるね」「男なんだから黙って働けよ」など、職場で使われがちな「駄言」が紹介されていて、参考になりました。発言するほうは悪気なく発言しているからこそ、なくならないんですよね。本の後半では「なぜ駄言が生まれるか」をスプツニ子!さんや出口治明さん、野田聖子さんらに取材していて、それも面白く、とても参考になる内容でした。
絵本で学ぶ、言葉の大切さ
本をたくさん読んで、DEIを理解できましたか。
村松 いいえ、まだDEIに対する答えは出ていません。今も引き続き「DEIジャーニー」と銘打って、さまざまな本を読んで答えを探し続けています。
そして、DEIをどうやって人に伝えたらいいのか、どうすれば人に伝わるのか──と、日々考えているのですが、周囲には『 ずーっと ずっと だいすきだよ 』(ハンス・ウィルヘルム作・絵/久山太市訳/評論社)を薦めるようにしています。
こちらは絵本ですよね。
村松 はい。私は宣伝業務に従事していた際、先ほど紹介した「電気のあるところに、明電舎がいます。」というコピーを考えたのですが、「どうやって人に伝えるか」「どうすれば人に伝わるか」が、常に自分にとっての課題です。DEI推進室でも難しい専門書をみんなで読むよりも、絵本のほうが伝わるのではないかと思いました。
この絵本では、主人公の「ぼく」が犬の「エルフィー」とともに大きくなります。主人公の背が伸びる一方、エルフィーは年老いて、動きも鈍くなっていきます。それでも主人公は別れのときまで「ずーっと、だいすきだよ」と、伝え続けます。主人公は自分の気持ちを伝え続けたし、きっとそれはエルフィーにも伝わっていたはず。言葉を尽くすことの大切さを教えてくれる1冊です。
私はこの絵本を、自分の子どもに「誰かを大事にすることを教えたい」と思って20年ほど前に購入したのですが、ずっと読み続けています。
前田 私は小学6年生まで海外に住んでいたので、英語版でも日本語版でもこの絵本を読んでいます。社内で村松さんがこの絵本を紹介しているのを見て、「どうして持っているんですか!?」と驚きました。昔読んだときは悲しい話だと思っていたけれど、昨年、村松さんに借りて読み直したら、「ちゃんと言葉にして愛情を伝えていて、素敵な話なんだ」と前向きな気持ちになれました。
今、私はグローバル部署との会議を通訳することもあるのですが、この絵本を読み直して、「ちゃんと伝わるように」をより意識するようになりました。
村松 言葉を尽くすことは大事ですよね。仕事でも同じ目標を持っているはずが、いざ走り始めるとまったく違う方向に向かってしまうことがあります。お互いの認識違いや理解の差が生まれないよう、言葉を尽くすことは仕事でも欠かせません。
多様性を問うヨシタケシンスケさんの絵本
もう1冊のお薦めの本も絵本ですね。
村松 はい、ヨシタケシンスケさんの『 みえるとか みえないとか 』(ヨシタケシンスケさく/伊藤亜紗そうだん/アリス館)です。DEI推進室では障害者雇用にも取り組んでいますが、どう説明をすればいいかと考えていたときに、この絵本に出合いました。
こちらは宇宙飛行士の「ぼく」が、目が3つある人の星に降り立ちます。ぼくにとっては普通のことなのに、「後ろが見えないなんてかわいそう」「後ろが見えないのに歩けるなんてすごい」と言われます。そこで「ぼく」は目の見えない人に話しかけてみると、またその人の感じる世界は違って──という話です。障害とは多様性の1つであって、みんな違っていいんだ、と気づかされます。
前田 小さな子どもはその人に障害があることで接し方を変えたりしません。でも、大人になるにつれて、「あの人には障害があるから」と接し方を変えてしまうこともあります。まさにこの絵本に書かれていることだな、と納得しました。
そのため、日々の仕事の中で障害を持つ社員に対して、「○○の仕事をしてくれて、すごく助かります」「ありがとう」と、きちんと伝えるように心がけています。改善してほしい点がある場合も、変に遠慮をするのではなく「ここをもっとこうしてくれるとうれしい」と伝えます。フラットに接することの大事さに気づかされました。
村松 この絵本を置いておくと、他部署の人も「あっ、ヨシタケさんだ」と手に取ってくれるのがいいですね。DEI推進室のメンバーには『ずーっと ずっと だいすきだよ』も『みえるとか みえないとか』も読むように勧めていますが、絵本だと10分もあれば読めるのがいいですね。分厚い課題図書を手渡すと、イヤな顔をされてしまうので(笑)。社内の共通理解を深めたいとき、ぎゅっとエッセンスが詰まった絵本はいいですよ。
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美
心を打つ「名言」があるように、心をくじく「駄言」(だげん)もあります。駄言には無意識の思いこみ、特に、性別のステレオタイプによるものが多くみられます。本書は、そんな滅びるべき駄言を集めた辞典です。
日経xwoman編/日経BP/1540円(税込み)






