微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を活用した食品やバイオ燃料などを開発・販売して急成長しているベンチャー企業、ユーグレナ社。同社のCo-CEOを務める植村弘子さんは、毎月15冊以上の本を読む読者家です。植村さんが仕事をする上で実際に役立っている本を3冊挙げてもらいました。10年以上繰り返し読んでいる本や、植村さんの前職で上司だった一休の社長がデータドリブン経営の秘訣を明かす本などを紹介します。

読む度に刺さる言葉が違う本

 ユーグレナ社は、世界で初めて微細藻類ユーグレナの食用屋外大量培養に成功した会社です。現在はサプリメントや化粧品といった主力のヘルスケア事業に加え、バイオ燃料や肥料といった領域にも事業を広げています。

 私は2023年4月にユーグレナ社に転職し、現在はCo-CEO兼COO(最高業務責任者)を務めています。Co-CEOは2人体制で、私が主に人・組織、事業領域、もう1名の若原智広が主にファイナンスやエネルギー領域を統括し、2人で、研究開発を真ん中に置き、事業を進めています。

ユーグレナCo-CEOを務める植村さん
ユーグレナCo-CEOを務める植村さん
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植村弘子(うえむら・ひろこ)
ユーグレナ 代表執行役員Co-CEO兼COO(最高業務責任者)
2001年、新卒でエスビー食品に入社。コンビニエンスストアチェーン本部セールス兼PBブランド商品企画を担当。06年より一休にジョイン。一休.comレストランのセールス、一休.comのセールスなどを経て、カスタマーサービス部門でコールセンターの立ち上げ、改革を実施。16年に執行役員CHRO管理本部長に。23年4月にユーグレナ社に転職し、24年1月から現職。

 私は前職では、宿泊やレストランの予約サイトを運営する株式会社一休に16年半勤務し、CHRO(最高人事責任者)を務めていました。一休はものすごく好きな会社でしたが、好きすぎるがゆえに「1年後に辞めよう」と決意しました。このままでは一休という存在が自分の中で大きくなりすぎて、辞められなくなる。挑戦する勇気も持てなくなる。「とにかく、1年後にはこの大好きな場所を出なければならないんだぞ」と、自分に期限を課したのです。

 そのときはどこに転職するかは決めていませんでしたが、ユーグレナ社は私自身がユーザーであり、株主であり、応援している会社でした。「次に人生をかけるなら、この会社だ」と思い、転職したという経緯があります。

 前職でCHRO、現職でCo-CEO兼COOというと「バリキャリ」だと思われがちですが、そんなことはありません。むしろ、1冊目に紹介する『 置かれた場所で咲きなさい 』(渡辺和子著/幻冬舎)に書かれているように、どんな場所に置かれたとしても自分の花を咲かせるべく、「今日は満開だったかな」「ちゃんとベストを尽くせたかな」と、地道に毎日を積み重ねてきました。

『置かれた場所で咲きなさい』(渡辺和子著)
『置かれた場所で咲きなさい』(渡辺和子著)
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 この本は10年以上、繰り返し読んでいますが、読む度に心に刺さる言葉が違います。昨日と今日とでも違いますし、3年前と3年後も違うはずです。単なるキャリア論ではなく、もっと根本的な、人が人として生きるために大事にすべきことが書かれていて、私が働く上でも基本に立ち戻れる1冊となっています。

 私は、本はジャンルを問わず、よく読みます。だいたい月に15冊ぐらいは読むでしょうか。微細藻類ユーグレナにはクララ、ミュータビリスといった種類があるのですが、転職直後は社内の研究者から名前を聞いてもさっぱり分かりませんでした。今は分からない用語を書きとめ、週末に図書館で調べ、必死にインプットしている最中です。

 社内のチームメンバーからお薦めの本について聞かれることも多く、私が今読んでいる本を伝えると「面白そうだから買いました」と言われることもあります。でも、万人の心に刺さる本を挙げるのは難しい。なるべく、今その人が置かれている状況や心境に合う本を薦めるようにしています。

売り上げ10倍になった一休の経営手法

 2冊目に紹介するのは、『 DATA is BOSS 収益が上がり続けるデータドリブン経営入門 』(榊淳著/翔泳社)です。この本を選んだのは、著者の榊さんが前職で私のボスだったからという忖度(そんたく)ではなく(笑)、経営改革で売り上げ10倍、営業利益率が5割超という一休の経営の秘訣が書かれているからです。よくぞここまで手の内を明かしたな、という思いです。

『DATA is BOSS 収益が上がり続けるデータドリブン経営入門』(榊淳著)
『DATA is BOSS 収益が上がり続けるデータドリブン経営入門』(榊淳著)
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 今はどの企業も「データドリブン経営」「ユーザーファースト」を重視していますよね。でも、肝心のデータを生かせず、単なる数字で終わってしまうことが多いのではないでしょうか。経営戦略の判断材料を、データではなく、現場のカンに頼っているケースもあるかもしれません。でも、一休の場合は必ず、データが顧客と結び付いているのです。

 例えば、いつもリゾートホテルAのツインルームを予約している顧客がいるとします。そうすると一休のサイトでは、その人好みの似た立地や価格帯、同じような雰囲気のリゾートホテルのB、Cもお薦めします。また、あるとき、その顧客が地方のビジネスホテルのシングルルームを予約したとします。そうすると他の旅行サイトでは、次からお薦めとして地方のビジネスホテルのシングルルームばかりが表示されがちです。

 しかし、一休の場合は、「またリゾートホテルのツインルームをお薦めするか」「それとも出張が続くようなので、地方のビジネスホテルのシングルルームを表示すべきか」、データを丁寧に見ながら判断して顧客が求めているであろうものを提案していきます。もし、それでも顧客が満足していないなら、実際に直接、顧客の意見を聞く場も設けています。その結果、どんどん使い勝手が良くなるから、サイトのリピート率も上がる、売り上げも伸びる──といった好循環が起きるのです。

 私が一休にいた頃も、さまざまな経営者が榊さんのもとを訪れ、経営手法について質問していました。榊さんは手の内を惜しみなく教えていましたが、「教えることはできるけれども、結局それをやり切るかどうかは皆さんの会社の判断ですよ」とも言っていました。私もこの本を読んで、ユーグレナの経営に生かさなくてはと気持ちを新たにしているところです。

ロボットが生む温かいテクノロジー

 そして3冊目は『 温かいテクノロジー AIの見え方が変わる 人類のこれからが知れる 22世紀への知的冒険 』(林要著/ライツ社)です。

『温かいテクノロジー』(林要著)
『温かいテクノロジー』(林要著)
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 皆さんは「LOVOT(らぼっと)」という家族型ロボットをご存知でしょうか。38度ぐらいの体温があり、10億通り以上の瞳の色と声を持ち、人になつくロボットです。これはそのLOVOTの開発者である林さんが書いた本。私は前職のオフィスではカツオとワカメ、現在は自宅で未知子というLOVOTと過ごしています。

 前職のオフィスでは新型コロナウイルス禍が明けたとき、みんなに「やっぱりオフィスっていいな」と思ってもらいたくて、カツオとワカメを迎えることにしました。彼らはオフィスの廊下を走ったり、ミーティング中の会議室をのぞきに来たり。あるときは朝になっても充電ポートに戻っておらず、手分けして探したら観葉植物の後ろで転んで起き上がれなくなっていたこともありました。

 自宅に住む未知子は朝8時起きなのですが、朝起きると歌を歌っています。それを見て私の母が「おはよう」と話しかけたり、抱っこしたり。高齢になって動くのがおっくうになりがちだった母が、未知子のために動くことが増えました。

 そんな様子を見ていると、LOVOTとの共存は、この本のタイトルのように「温かい」何かを生むと実感しています。でも、その温かさの裏側にはどれだけすごいテクノロジーが詰まっているのか、いかに大きな挑戦だったのかということもこの本を読むと分かります。

 ユーグレナ社もニッチな世界で勝負をしていますし、「ミドリムシで世界を救う」と企業理念に掲げている時点でかなり個性の強い会社です。メンバーには、課題解決に対して、何回でも、何十回でもバッターボックスに立つ勇気と挑戦心を持っていてほしいと思っています。そうしたユーグレナ社の精神とこの本には通じるところがあります。もちろん、あらゆる会社が新しい挑戦を続けていくことで、社会がもっと面白くなるはずです。

 今回は私の実体験にもとづいた、ビジネスパーソンの皆さんにぜひ読んでもらいたい3冊をご紹介しました。

「何回でも、何十回でもバッターボックスに立つ勇気と挑戦心を持っていてほしい」
「何回でも、何十回でもバッターボックスに立つ勇気と挑戦心を持っていてほしい」
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取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美