コンサルタントに必須なのが、ビジネスの課題を解決するために「思考」する力。論点を定めて課題を設定するスキルを身に付け、それをビジネスの現場で実践する。そのために役立つ本として社内で薦めているものを、世界有数の戦略コンサルティングファーム、ボストン コンサルティング グループ(BCG)で人材育成を統括する富屋有治さんに紹介してもらいました。

BCGで頻繁に交わされる会話

 コンサルタントの武器は、何よりも「思考」です。今回は、それを鍛える本を紹介します。

 まず『 仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法 』(内田和成著/東洋経済新報社)と『 論点思考 BCG流 問題設定の技術 』(同)。こちらの2冊はコンサルタントにとっての必読書です。なぜならクライアントの期待に応えるためには、「正しく論点を設定し、仮説を立て、スピーディーに検証していく」というスキルが必要不可欠だからです。

 BCGの社内でも、マネジャークラスの社員と若手社員との間で、「論点は正しいの?」「あなたの仮説は?」といった会話が頻繁に交わされます。論点を定め、仮説を立てる力は、社内の共通言語として持っているべきもの。それがないと、仕事でどんなバリューも出せません。

 そして、コンサルタントでなくても、「課題解決力」が求められるビジネスパーソンにとっては、同じく必要なスキルではないでしょうか。

コンサルタントの思考力を鍛える『仮説思考』『論点思考』
コンサルタントの思考力を鍛える『仮説思考』『論点思考』
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永遠のベストセラー

 実際の仕事では「論点」を定めてから「仮説」を立てますが、この2冊を読む順番としては『仮説思考』から読むのがお薦めです。

 理由としては、「仮説に基づいて問題を解決するとは、どのようなことか」を理解していないと、「論点を設定する」ところだけを一生懸命学んでもなかなか身に付きづらいからです。「問題解決を、速く、うまく進めるとはどういうことなのか」「その際に、どのようなレベルで、答えを持っていることが必要なのか」を理解してから『論点思考』を読み、問いの設定の仕方を勉強した方が身に付きます。

 『論点思考』では、「論点の設定がずれてしまうと、答えそのものもずれてしまう」ということが、さまざまな事例を挙げて説明されているので、実践的にスキルを学べます。

 近年、思考法に関する本が多く出ていますが、いまだに私の中ではこの2冊を超える本はありません。永遠のベストセラーですね。

 『仮説思考』が2006年、『論点思考』が2010年と発売からそれなりに年月がたっていますが、ケーススタディーが最新のトピックではないぐらいで、古さを感じさせません。近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進むなどビジネスを取り巻く環境は大きく変化していますが、課題解決法の本質を解説する本として色あせることがないのです。

いつどのようにスキルを使うか

 次は、コンサルタントや経営戦略に携わる人にありがちな「思い込み」に気づかせてくれる本です。

 若手のコンサルタントや転職してきた人に多いのが、「コンサルティングをするために、経営のフレームワークや理論を徹底的に頭にたたき込んできました」というタイプ。もちろん3Cや4Pなどのフレームワークや、仮説思考などのスキルは重要ですが、それを身に付ける、とりあえず使うことが目的になっている──「手段が目的化している」ことが多々あります。

 それでは、理論ばかりこねくり回して、ムダな作業が増えることにもなりかねません。やはりスキルは適切なタイミングで使ってこそ生きるものです。

 『 戦略プロフェッショナル 競争逆転のドラマ〔増補改訂版〕 』(三枝匡著/ダイヤモンド社)は、経営理論を実際にどのようなときに使うかが分かる本です。ビジネス小説仕立てで、企業を変革し、インパクトを出すというビジネスのダイナミズムを体感できます。

 ストーリー仕立てのビジネスケースを通じ、どのようにビジネスのシチュエーションを読み解き、どうやって新たな施策や新商品を投入して、市場のシェアを塗り替えていったか、そのときにどういうツールやフレームワークを用いて、要所要所の課題を突破していったかが、手触り感をもって語られます。そのため、若手ビジネスパーソンにとっては、「どのスキルが、どのようなシーンで役立つのか」がよく分かります。

経営理論を実践でどのように使うかが分かる『戦略プロフェッショナル〔増補改訂版〕』
経営理論を実践でどのように使うかが分かる『戦略プロフェッショナル〔増補改訂版〕』
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 まだ大きなビジネスを動かしたことがない人にとっても、「企業に大きなインパクトを出す仕事をしている人が何を考えているのか」「どのように物事を決めていくのか」が理解できるので、学ぶところが大きいはずです。

 この本も初版は約30年前ですので、多少の古さはありますが、企業が直面する課題や解決方法の本質は、今の時代に読んでも色あせないものです。ストーリー形式でビジネスを解説する本としては、こちらも「これを超える本は出ていない1冊」です。

 私は、新卒・中途の内定者や新入社員から、読んでおくとよい本を聞かれることが多いのですが、そんな折や入社後初期の研修などでも、ニーズに応じて、今回取り上げた本を含めてお薦めの本を紹介しています。

 中には分野別の専門的な書籍もありますが、今回は幅広いビジネスパーソンの皆さんに、何らかのヒントが見つけられそうな本を選んでお話ししました。ぜひ読んでみてください。

取材・文/三浦香代子 写真/スタジオキャスパー