企業や官公庁に幅広いITサービスを提供する日本IBM(以下、IBM)では、若くしてプロジェクトチームのリーダーを任されることが多いと言います。チームを動かしていくためには何が必要なのか。同社IBMコンサルティング事業本部マネージャーで、新人研修の企画・運営も担当する新矢貴章さんに、チーム運営に役立つ本を紹介してもらいました。

「話す」だけでなく「聞く」ことが大事

 IBMではチームでプロジェクトを動かし、若手であってもリーダーを任されます。その際、仕事を円滑に進めるために重要となるのがコミュニケーション。「話す」に焦点を当てた本やプレゼンテーション研修は多いものの、「聞く」を体系的に学ぶ機会は少ないのではないでしょうか。

 そこでお薦めしたいのが、『 LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる 』(ケイト・マーフィ著/篠田真貴子監訳、松丸さとみ訳/日経BP)です。私自身、部下と1 on 1ミーティングをする立場として、「傾聴に役立つ本はないか」と探していたときに見つけました。

「聞く」ことが体系的に学べる『LISTEN』
「聞く」ことが体系的に学べる『LISTEN』
画像のクリックで拡大表示

 やはりコミュニケーションは「話す」だけではなく、相手の話をきちんと聞き、理解してこそ成立します。しかし、忙しいとパソコンで作業をしながら聞いてしまったり、オンラインによる必要最低限の会話かチャットで済ませてしまったり…と、全体的に「聞く」ことがおざなりになっているように感じます。それこそ最近、「自分の話を真剣に聞いてもらった」人がどのくらいいるでしょうか。

 これからアフターコロナとなり、対面でのコミュニケーションが戻ってくるなかで、改めて「聞く」ことの重要性を再認識させられます。

 また、最近、自分の気持ちや意見を安心して言える「心理的安全性」が注目されていますが、この本では「生産性の高いチームは全員の発言量が同じぐらいである」とも説いています。言い換えると、メンバーの話をお互いに聞き合っていたということです。 心理的安全性を高めるチームづくりをする際にも役立つので、リーダーだけではなく、すべてのメンバーに読んでもらいたい本です。

 実際にこの本を読んだ若手からは、「自分の主張ばかり押し通そうとしていたけれど、この本を読んで改めた。すぐに次のグループワークで生かせた」という感想を聞きました。

永遠のベストセラー『人を動かす』

 次は、『 人を動かす 』(D・カーネギー著/山口博訳/創元社)です。初版は1936年ですが、「議論で相手を打ち負かそうとしない」(余計に相手が自分の意見に固執してしまう)といった人を動かすことの本質が書かれ、今の時代に読んでも色あせてはいません。

 先ほども言ったように、IBMでは若手でもチームリーダーを任される機会が多いのですが、チーム運営の経験が乏しく、試行錯誤をしている人もいるかもしれません。そんなときには、ぜひこの本を読んでほしいと思います。

 私が10年ほど前、あるプロジェクトを担当したとき、そのときのチームのリーダーがまさに『人を動かす』の教えを実践しているような人でした。この本を読んでいたかどうかは定かではありませんが、とにかく部下をほめてくれたり、自己肯定感を高める声かけをしてくれたりして、若手がメキメキと成長しました。今思い返しても最高のチームだったと思います。

「チーム運営で試行錯誤している人は『人を動かす』を読んでほしい」と言う新矢さん
「チーム運営で試行錯誤している人は『人を動かす』を読んでほしい」と言う新矢さん
画像のクリックで拡大表示

失敗することは悪くない

 ただ、どれだけ熱心にプロジェクトに取り組んでいても、計画通りに進まず、失敗することもあるでしょう。そんなとき、特に若手社員に薦めたいのが『 失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織 』(マシュー・サイド著/有枝春訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。この本を読んで、失敗を恐れず、隠さず、素直に受け止めて成長の糧(かて)にしてほしいのです。

特に若手社員に薦めたいという『失敗の科学』
特に若手社員に薦めたいという『失敗の科学』
画像のクリックで拡大表示

 幸いIBMは、誰かがミスをしても個人の責任を追及せず、みんなでカバーする社風です。私も過去に派手な失敗をしたとき、周囲がカバーしてくれました。やはり失敗を真正面から受け止めることで、成長のスピードが変わってきます。若手メンバーにはどんどん新しいことにチャレンジして、たとえ失敗したとしても、そこから学んでほしいですね。

 反対に避けたいのが、この本にも書かれているように「失敗を認めず、事実をねじ曲げて自分を正当化すること」。環境が悪かった、誰々のせいだ──と責任転嫁したい気持ちも分かるのですが、自分の失敗を素直に認めることが次につながります。

 また、この本ではシステム開発についても触れており、最初は小さく始め、フィードバックを受けて改良を繰り返すことが重要だと説いています。これは近年、重要視されているアジャイル開発にも通じるので役立つと思います。

10年後を見据えるための本

 最後に紹介するのは、『 2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ 』(ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー著/土方奈美訳/NewsPicksパブリッシング)です。

 プロジェクトを進めるとき、チームを率いる手腕とともに必要となるのが「時代を読む力」です。しかし、遠すぎる未来は予測が難しい、すぐに役立つ知識が欲しい──というとき、この本は「2030年に何が起きているか」を説明しているので、これからのビジネスの潮流を押さえられます。特に、量子コンピューターやVR(仮想現実)・AR(拡張現実)などの「エクスポネンシャル・テクノロジー」(指数関数的なスピードで成長していく技術)について書かれた章は必見です。

 また、金融、不動産、医療など、さまざまな業界の未来を網羅しているので、自分のビジネスに関連する分野以外にも目を通しておくと、クライアントと話すときの引き出しになるのではないかと思います。ひょっとしたら近い将来、「この本に書かれていた“点”と“点”がこんなふうにつながるのか」という体験をするかもしれません。

 変化が激しい時代においても変わらないスキルと、失敗を恐れないマインド。そして未来を読む力を身に付けたいとき、今回ご紹介した本を参考にしてもらえればと思います。

「失敗を恐れず、成長の糧にしてほしい」と言う新矢さん
「失敗を恐れず、成長の糧にしてほしい」と言う新矢さん
画像のクリックで拡大表示

取材・文/三浦香代子 撮影/品田裕美

本当に優秀な人は、聞く能力が異様に高い

どんな会話も、我慢という技術は必要です。それを知っておくだけで、人生は驚くほど実り豊かになります。自分の視野を超えた知識が持て、一生の友人をつくり、孤独ではなくなる、ただひとつの方法。

ケイト・マーフィ著/篠田真貴子監訳、松丸さとみ訳/日経BP/2420円(税込み)