豊かで調和のとれた社会づくりを目指し、世界50カ国以上でITサービスを提供しているNTT DATA。グローバルITサービスプロバイダーのリーディングカンパニーとして、サステナビリティ経営にも取り組んでいます。NTT DATAの持ち株会社であるNTTデータグループ執行役員でコーポレート統括本部サステナビリティ経営推進部長を務める池田佳子さんに、自身の仕事に大きな影響を与えた本を紹介してもらいました。
前編 「NTTデータグループ執行役員が昇格試験前の部下に薦めたい本」
「話しやすい環境をつくる」ことの重要性
今回最初に紹介する『 LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる 』(ケイト・マーフィ著/篠田真貴子監訳/松丸さとみ訳/日経BP)の監訳者、篠田さんは、私の高校時代の同級生なんです。本人がフェイスブックで「この本はすごい!」と推薦しているのを見て手に取りました。
私はNTTに入社後、ずっと法務に関わってきました。2008年にNTTデータに転籍し、コンプライアンス推進部部長や広報部長などを経て、19年6月からNTTデータ北陸社長とNTTデータ信越社長を兼任(余談ですが、このときは新幹線で週に何度も金沢と長野を往復したので、車中が最高の読書タイムでした)。その後、NTTデータマネジメントサービス常務取締役を経て、現在のコーポレート統括本部サステナビリティ経営推進部長となり、23年6月からは執行役員も務めています。
以前の私は法務一筋にキャリアを積んでいたため、どこかで「自分が一番よく分かっている」と思い込み、「強いリーダーシップ」を発揮するタイプでした。しかし、法務で部長になった際、それが原因で部下にそっぽを向かれてしまったのです。厳しい現実を突き付けられました。その数年後に『LISTEN』を読んだのですが、本書に書かれている「誰かの話を聞くのは尊敬の証し」「話しやすい環境をつくる」ということがどれだけ大事かが身に染みて分かりました。あの苦労した頃に本書を読むことができたら、どれだけ良かったかと思います。
本書を読んで以来、「部下に指導しなくては」という態度ではなく、「相手はこの分野のプロなのだから」というフラットな姿勢で話を聞くように心がけています。そのため、今の私の部署のミーティングはとてもにぎやか。誰が話していても、「こうしたほうがいいのでは」という意見が飛び交います。きちんと皆で議論をして、全員で方向性を共有することにも役立っています。
今でこそ「傾聴」や「1 on 1」の重要性が知られるようになりましたが、今一度聞くことの大切さを教えてくれる1冊です。
「思い込み」で世界を見ない
次に紹介する大ベストセラーの『 FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著/上杉周作、関美和訳/日経BP)も大好きな本です。もう、読んだときに「そうそう!」と膝を打つ思いでした。
私たちは何かとデータを頼りにしますが、実はそのデータに思い込みがあり、正しく理解しているとは限らないかもしれません。例えば、NTT DATA(持ち株会社、国内事業会社、海外事業会社の総称)でも女性管理職の割合を集計していますが、その数字が国内だけのものなのか、グローバルも含めたものなのかで大きく見方が違ってきます。
先ほど触れたように、私は長く法務の仕事をしていましたが、自分から見て「正しいこと」でも、他の人から見たらまったく違う解釈となる場合もあります。本書を読むと、「自分の見ている世界がすべてではない」と気づかされます。
また、本書には環境問題に関する事例も挙げられているため、今のサステナビリティ経営の仕事にも役立っています。「本当に世界はどんどん悪くなっているのか」──その真実を知りたい人は、この本を手に取ってみてほしいと思います。
異文化コミュニケーションに役立つ1冊
次に紹介する『 経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法 』(宮森千嘉子、宮林隆吉著/日本能率協会マネジメントセンター)は「文化と経営の父」と呼ばれるヘールト・ホフステード博士が考案した「6次元モデル」を解説する本です。多様な国籍や性格を持つ人材間のコミュニケーションの問題を解決するためのノウハウが書かれています。
私は高校卒業後にブラジル、社会人になってから米国へ留学しました。そのとき同じタイミングで別の国に留学した友人に薦められたのが本書です。その友人は、「育った文化によって思考の違いがあるんだから、『どうして分からないの?』ではなく、『違いがあるよね』と理解した上でお互いに話ができるといいね」と話していたのですが、本書を読んで、彼女の言っていたことがよく分かりました。
NTT DATAのグローバルメンバーとの会議は、私のような日本人だけではなく、米国人、スペイン人、イタリア人、中国人…と本当に多国籍の人が出席するのですが、アジェンダによっては、お互いがその道のプロであるからこそ、メンバー同士で激しい議論になることもあります。また、日本の会議のように黙って座っていることは許されず、「出席したからには発言しなさい」「発言しないなら会議にいる意味がない」という雰囲気なので、何かしらの爪痕は残さなくてはいけません。
ホフステード博士は「文化の違い」をスコア化して、人の価値観が文化によってどのように変わるかを「権力格差」「不確実性の回避」など6つの次元(切り口)で表しています。もちろんアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)、決め付けはいけませんが、こういう文化の特徴があるということを念頭に置いて話を進めると、お互いの目指すゴールが見えやすくなります。
これからはどの職場でも人材の多様化が進むと思うので、本書のフレームワークが役に立つと思います。
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美
どんな会話にも、我慢という技術は必要です。それを知っておくだけで、人生は驚くほど実り豊かになります。自分の視野を超えた知識が持て、一生の友人をつくり、孤独ではなくなる、ただ一つの方法。
ケイト・マーフィ著/篠田真貴子監訳/松丸さとみ訳/日経BP/2420円(税込み)



