豊かで調和のとれた社会づくりを目指し、世界50カ国以上でITサービスを提供しているNTT DATA。グローバルITサービスプロバイダーのリーディングカンパニーとして、サステナビリティ経営にも取り組んでいます。NTT DATAの持ち株会社であるNTTデータグループ執行役員でコーポレート統括本部サステナビリティ経営推進部長を務める池田佳子さんに、自らがサステナビリティ経営を進める上で大切にしている本や、昇格試験を控えた部下に薦めたい本を挙げてもらいました。
やり抜く力がいるサステナビリティ経営
NTT DATAは2023年7月から持ち株会社、国内事業会社、海外事業会社からなるグローバル経営体制に移行しました(NTT DATAは3社を包括する名称)。持ち株会社であるNTTデータグループコーポレート統括本部には、私が所属するサステナビリティ経営推進部のほかに、財務、人事、事業戦略部門などが含まれています。
NTT DATAは世界第3位のデータセンター事業を持っている会社です。そのため、電力を中心にエネルギーを大量に使います。サステナビリティ経営推進部としては、二酸化炭素(CO₂)排出量が現在どうなっているのか、AI(人工知能)や最先端の省エネ技術などのテクノロジー、再生可能エネルギーの活用などでCO₂排出量をどう減らすかなどをお客様に示すことが必要です。
また、グローバル企業として、サプライチェーンにおける人権への配慮やダイバーシティ&インクルージョン(D&I、多様性と包摂)の取り組みも進めていかねばなりません。
こうした仕事を進めていくために大事なのは、書籍でも有名になった「GRIT」(やり抜く力)です。「Guts/困難に立ち向かう度胸」「Resilience/失敗してもあきらめずに続ける復元力」「Initiative/目標を定めて取り組む自発性」「Tenacity/最後までやり遂げる執念」の頭文字を取ったものです。
サステナビリティ経営は今までのビジネスのように、スタートしたらすぐに利益が出るというものではありません。しかし、何年も先になって大きな成果をもたらすものですので、試行錯誤して、たとえ失敗したとしてもあきらめずに続けなくてはいけません。そのためにはGRITが必要になります。私もリーダーとして、そうした姿を見せられたらと思っています。
文明社会に警鐘を鳴らす
私は本が昔から好きで、紙の書籍、電子書籍ともによく読みます。今回1冊目に紹介する『 パパラギ はじめて文明を見た南海の酋長(しゅうちょう)ツイアビの演説集 』(エーリッヒ・ショイルマン著/岡崎照男訳/SB文庫)は、作家で公認会計士の田中靖浩さんの勉強会で教えていただき、手に取りました。
この本はサモアの酋長ツイアビが、ヨーロッパを旅して感じた疑問を島の人々に語るという内容です。「パパラギ」は「白い人」という意味ですが、「パパラギにはひまがない」「パパラギは、いつでもいっそう多くの物を、新しい物を作ろうとしている。その手は熱に浮かされ、顔は灰色になり、背は曲がってしまった」といったことが書かれています。自分が今のサステナビリティ経営推進部に関わるようになって改めて読み返すと、「生きることの本質とは何か」を考えさせられます。
私が持っているのは1981年刊行の単行本ですが、今は文庫本が出ています。また、和田誠さんの絵が入った絵本版もあり、こちらも心に染みる内容となっています。この絵本版も何度も読み返している1冊です。
昇格試験を控えた人に薦めたい2冊
次に紹介するのは『 サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠(わな) 』(ジリアン・テット著/土方奈美訳/文春文庫)です。
本書はサブタイトルにあるように、「高度専門化社会の罠」を指摘する本です。日本はもともと縦社会で、製造業が強い構造です。一定の時期までは縦のラインに高度な専門家集団(サイロ)が存在することが強みですが、そのうち、それぞれのサイロが情報や技術を囲い込むようになり、無駄な競争や非効率が起きてしまいがちです。そうしたときに、縦ではなく「横軸」があると、違う視点からの解決策やヒントが見つかる──と分かる1冊です。
本書では、300もの細かな専門部署に分かれていたニューヨーク市、ウォークマンの次世代商品を複数の部署がばらばらに開発してしまったソニー、サブプライムローン問題で破綻寸前まで追い込まれたUBSなど具体的な事例が紹介されており、説得力があります。
また、「イノベーションを起こすために新しいものをゼロからつくらなくては」と考えがちですが、実は既存の部署が持つ情報や技術を掛け合わせることでイノベーションが生まれるパターンも多いものです。そうしたことも、この本を読むと分かると思います。
私は本書を、昇格試験を控えた部下に薦めています。試験はディスカッション形式が多く、さまざまなテーマに対応できるように広い視野を持つことが重要なためです。そして、人は1つ役職が上がると、自分の目線を上げなくてはいけません。自分のことだけではなく、周囲も見渡せるようになる必要があります。そうしたときに役立つ1冊でもあります。
次に紹介するのは、自分が経営幹部試験に合格した後に会社の上層部から「読んでおくように」と言われた『 失敗の本質 日本軍の組織論的研究 』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎著/中公文庫)です。
こちらはミッドウェー海戦をはじめとした旧日本軍の敗戦を、「組織としての失敗」と捉え直した内容です。私はこの本を読んでから、「目の前の仕事の目的は何なのか」と自問自答するのが習慣になりました。例えば、仕事ではKPI(重要業績評価指標)を設定しますよね。でも、ふと気づくと数字ばかりを追って、「そもそも何のためにこの仕事をしているのか」を忘れているときがあります。そして、それが集団で起きているとなると悲劇です。
なぜ上層部から「この本を読んでおくように」と言われたかを考えてみると、「リーダーが間違うと、みんなが間違った方向に行くんだ」という教訓を伝えたかったからでしょう。私は今、自分にも部下にも「これって、何のためにしているんだっけ?」と繰り返し問うて、仕事の目的を見失わないようにしています。
『サイロ・エフェクト』と『失敗の本質』、どちらもビジネスパーソンが読んでおくべき本だと思います。
(後編へ続く)
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美




