コンサルティングや投資などの事業を展開するシグマクシス・グループ。事業を拡大するなかで、新卒や経験者の社員採用を積極的に行っています。同社で採用や社員のトレーニングを担当している武藤壮平さんと若林裕子さんに、新入社員やチームメンバーに薦めている本を紹介してもらいました。第1回は武藤さんに聞きます。
読んだ本をアウトプットして共有
シグマクシス・グループは、コンサルティングや投資、M&Aアドバイザリーなどの事業を運営しており、企業のトランスフォーメーションの支援や、社会課題の解決に取り組んでいます。年々事業を拡大していて、現在の社員数はグループ全体で約600人。新卒・経験者ともに積極的に採用しています。私は採用責任者を務めるほか、若林と共に社員トレーニングの企画・運営を担当しています。
毎年の新卒社員の入社時トレーニングでは、コンサルティングの業務に生きる入門書的な書籍を10~20冊程度、入社当日に「課題図書」として渡していました。今年は手法を変えて、指定した参考書籍以外にも「こういう理由でこの本を読みたい」「私にはこの本が必要である」と新人自ら本を選んで申請することで図書費を活用できる形にしました。実際に読んだ本については、要約や感銘を受けた点をパワーポイントやエクセルなどでまとめ、同期と共有するというルールにしています。
本は読むことによるインプットだけではなく、その後アウトプットすることが重要です。人に説明することを想定して自分自身の理解を深め、端的に説明できる状態にしてアウトプットすることで、単に「知っている」という状態から、「活用できる」状態になっていきます。その一連の流れを通じて社員のスキルアップを図っています。
一期一会のメンバーで、全力を出し切る
新入社員が「読みたい」と申請してきた本はほとんどがビジネス書でしたが、私自身が新入社員や同僚によく薦めているのは青春小説の『 一瞬の風になれ 』(佐藤多佳子著/講談社文庫)。神奈川県の県立高校の陸上部を舞台にした3部作です。
夏になるとこの本を読みたくなり、今ではもう20回は読んでいると思います。私自身は、高校時代は野球部で、大学まで続けましたが、この本を読むと「何かに熱中するっていいなあ」と胸が熱くなります。
主人公・新二はサッカー選手として挫折し、陸上の短距離選手にチャレンジするのですが、個人のタイムよりもリレーのタイムのほうが速い。個人として毎日毎日、自己ベストを目指して練習するのですが、チームの思いを背負って走ると不思議とパワーが出る。チームの代表として走る責任感や、リレーメンバーだけでなく学校全体で応援してもらうことが力になるタイプなのです。代々戦ってきた先輩からの思いを受け継ぎながら、その代の一期一会のメンバーで、全力を出し切り、また次の代につなげていくのです。
また、練習がつらいとき、投てきや走り高跳びの部員が練習に精を出している姿が目に入ると、頑張れ! 自分も頑張る!…と。こうやってストーリーを説明しているだけでも、思わず目頭が熱くなります(笑)。
この物語で描かれていることは、仕事をしていく上で大事な「個人個人で能力を向上させて、チームで結果を出す」というところが仕事と似ていると思います。一見個人競技なのですが、部員同士で切磋琢磨(せっさたくま)したり、試行錯誤の中から得られたノウハウを共有したりというところも、仕事に通ずる重要な点です。仕事のチームは部活みたいだな、と感じるときもあります。
この本を読み返すと、仕事で難局にぶつかっても、「今できることは、毎日自己ベストを更新すること」と前向きにチャレンジする気になれます。もし、仕事への情熱を失いかけている人、日々に疲れている人がいたら、新二が先輩から言われた言葉、「毎日、自己ベスト」を贈りたいと思います。
仕事ばかりでは豊かになるとは限らない
次に、私がお薦めしたいのが、20代半ばで読んだ『 成功者の告白 』(神田昌典著/講談社+α文庫)です。
当時、私は若手コンサルタントとして週6.5日は仕事をしていました。会社から任される仕事はそれほど多くはなかったのですが、自分で勝手に納得いくまで取り組んだ結果、長時間仕事をするようになっていました。
ビジネスコンサルティングの仕事はさまざまなやり方があって、「唯一の正解」はありません。何が正解なのか、どこまでやれば合格点なのか分からず、また当時は自分には特別秀でた能力がないことも自覚していたので、だったら「量で勝負」とばかりに、プライベートを省みずに仕事をしていました。
そんなときに同僚に薦められてこの本を読みました。ビジネスで大成功を収めたような人でも、実はプライベートが崩壊しているパターンがある。「家族のために」と仕事を頑張っていたはずなのに、仕事が軌道に乗って、注力すればするほど、家族との時間が取れず溝が深くなっていった…と書かれていたエピソードが印象的でした。
読み終えて、人生を俯瞰(ふかん)したとき、仕事ばかりしているのは結果的に豊かになるとは限らないのだなと、働き方や優先順位・自分自身のバランスポイントを考えさせられた本です。
仕事で大切な、仲間、情熱、バランス。今回紹介したのは、それらを教えてくれる2冊です。
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美