結婚式の本質を追求し、業界に革命を起こしたベンチャー企業、CRAZY。同社では、社員全員が参加して1冊の本を半年かけてじっくり読み込む読書会を行い、大きな効果があったと言います。読書会について、同社社長の森山和彦さんとマーケティング室の池田瑞姫さんに聞きました。第2回は、池田さんが、読書会の具体的な進め方と本業にも現れた効果について説明します。

企業理念とも通じる課題図書

 私は、CRAZYのマーケティング部門でコミュニケーションプランニングを担当しています。分かりやすく言うと、コーポレートや当社が提供するサービスの魅力を、お客様や、これからお客様となってくださる方々に向けて伝えるのが仕事です。オウンドメディアやSNSの企画・運用、リアルやオンラインのイベントなども手掛けています。

 また、私は、前回「 CRAZY 全員参加の読書会でパーパスを浸透、成約率10%増に 」で紹介した読書会の進行役と解説役を務めていました。もともとはリアルで行われる毎週水曜日の全社会や合宿の場で、CRAZYの根源的なカルチャーを感じる時間があったのですが、コロナ禍でオンラインに移行すると、今までのような密なコミュニケーションや、新しく入ったメンバーとの意思疎通の難易度が上がりました。そこで、社長の森山から提案があったのが、『 愛するということ 』(エーリッヒ・フロム著、鈴木晶訳/紀伊國屋書店)を課題図書にした読書会です。

読書会で取り上げた『愛するということ』
読書会で取り上げた『愛するということ』
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 実は、かなり前から森山は「CRAZYの理念や大切にしていることと『愛するということ』には共通点が多い。みんな読んだほうがいい」と言っていたのですが、哲学用語が出てきたり、言い回しが難解だったり、分かりやすい本ではありません。社員からも「読んだけど難しかった」「途中で挫折した」という声があり、それではこれを機にみんなで読んでみよう、と。

 私は、大学時代から心理学の講義を受講していたり、『愛するということ』を読んでいたりしたので、進行役と解説役に任命されました。森山はちょっと哲学的な雰囲気があり(笑)、本の話だと難しくなることがあるので、私がもっとポップに分かりやすく説明し、新しく入った社員も気軽に発言できるような場づくりをしていました。

事前に読まなくていい読書会

 読書会にはいろいろなスタイルがあると思いますが、CRAZYでは、「1冊を読み込む」「事前に読んで発言する人を指名しておく」「みんなで少しずつ輪読する」という形式にしました。

 「各自、事前に課題図書を読んでおいてね」だと、正直なところ「忙しくて無理」「つらい」という人もいると思います。そのため、事前に読む人は部署ごとの当番制にして、「何ページから何ページまでは〇〇部署の担当です。当番の2人は必ず読んでおき、感想をまとめておいてください」と依頼しました。そうすると、当番以外の人は初見でも参加できます。実際、当番になった人はきちんと読んできていましたし、読んでいるうちに楽しくて、どんどん先まで読み進めている人もいました。

読書会の進行役と解説役を務めた池田さん
読書会の進行役と解説役を務めた池田さん
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 読書会は2021年9月から約半年、毎週水曜日にほぼ対面で行いました。まず5~6人のグループに分かれ、だいたい10~20ページぐらいを声を出して輪読します。社員40~50人がいっせいに愛についての本を音読するという、ちょっと不思議な光景(笑)。輪読が終わったら、読んだ部分に対する気づきや疑問をグループ内で話し合った後、当番の2人が前に出て発表。そして、他のグループの発見も全体にシェアします。それから私が輪読したページのエッセンスを解説し、最後に森山が全体を総括する、という流れでした。

 読書会の内容を忘れないように、その日の内容はサマリにまとめ、翌週の読書会の冒頭でおさらいします。本を読み進めるほど資料が分厚くなり、最終的に600ページぐらいになりました。

 グループによって、輪読のスピード、気づきや疑問がまったく違うのが面白かったですね。でも、当番制の発言者が2人いるので、「こんなことを言って解釈が違っていたらどうしよう」「とんちんかんなことを言ったら恥ずかしい」といった心理的なハードルが下がります。2人の当番の発言が起爆剤となり、活発な意見交換ができました。

挙式する2人の気持ちを一段と深く理解

 丁寧に、時間をかけて『愛するということ』を読み込んだことで、社員に大きな変化が現れました。前回、森山も紹介しましたが、社内の同僚やパートナーとの関係が改善したという声の他に、サービス提供の中でも変化がありました。

 私たちは、結婚式を挙げるおふたりに対し、まず今までの人生について2時間ほどお話を伺います。そのお話を参考に結婚式をプロデュースするのですが、あるときヒアリングを終えたプロデューサーから、「これまで、おふたりの気持ちを受け止めるにとどまっていた部分も、深く理解ができるようになった。『こういう環境で育ち、こういう親子関係だったから、こういうパートナーを求められたのだ』と、今までよりも一段深いレベルで理解できるようになった。その結果、いいプランが提案できた」という電話がかかってきました。読書会は、CRAZYが提供しているサービスにも直接的な効果があったと実感しました。

CRAZY社長の森山さん(左)と池田さん。取材はCRAZYが運営する結婚式場「IWAI OMOTESANDO」で行われた
CRAZY社長の森山さん(左)と池田さん。取材はCRAZYが運営する結婚式場「IWAI OMOTESANDO」で行われた
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 私は学生時代に初めて『愛するということ』を読み、2年おきぐらいに読み返すのですが、毎回「あのときの自分はなんて無知だったんだろう」と驚かされます。それぐらい読むたびに違う文章、違う一節が心に響くのです。この本では、「孤独をどう回避するか」「そのために愛をどう求めるか」「どう愛を与えていくか」という人間の根源的な欲求について解説されています。きっと読む人にとって、読むたびに新しい発見がある本だと思います。

 今後は、読書会か、あるいは別の形の勉強会の開催を検討しています。また社員に新しい学びがあることを楽しみにしています。

取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子