学生や社会人に対する教育サービスや介護・保育サービスを展開する大手企業、ベネッセホールディングス。グループ傘下のベネッセコーポレーションが展開する社会人向けオンライン動画学習プラットフォーム「Udemy」の日本事業を統括する執行役員の飯田智紀さんが、お薦めの本を紹介します。後編の今回は、「仕事術」「中堅~管理職にステップアップしたとき」に役立つ本を4冊挙げてもらいました。

前編 「ベネッセ執行役員が薦める『なぜ働くのか』を問う3冊」

毎年4月になると読み返す1冊

 前回は「仕事へのマインドセット」に役立つお薦めの本を紹介しましたが、今回は「仕事術」「中堅~管理職にステップアップしたとき」に読みたい4冊を紹介します。

 まず、「仕事術」の1冊目は岩瀬大輔さんの『 入社1年目の教科書 』(ダイヤモンド社)です。実は、私は岩瀬さんとプロボノ活動(仕事で培ったスキルを公益のために提供すること)をしているときに出会いました。当時の岩瀬さんはライフネット生命保険の副社長として活躍されていました。現在、当社の副会長を務めており、近くで仕事ができることに喜びを感じています。この本は「面識のある方の本だから」と思って読んだのですが、それ以来、毎年4月になると読み返しています。

『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)(写真/品田裕美)。画像クリックでAmazonページへ
『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)(写真/品田裕美)。画像クリックでAmazonページへ

 この本の良いところは、何といっても初心に帰れるところ。読むたびに社会人としての基礎について教えてくれます。「宴会芸は死ぬ気でやれ」など今の時代には厳しいかなと思う部分もあるのですが、昭和のモーレツ型というか古き良きパワフルな人たちと仕事をするときにこの本に書かれている所作を意識しておくと、信頼を得られることが多いと感じます。「年上の人と仕事がうまくいかない」と悩む若手に、参考の一つとしてこの本を薦めることもあります。

 「宴会芸は死ぬ気でやれ」も、単に芸を強いているのではなく、その飲み会やコミュニケーションの意図を理解して、場の盛り上げ役に徹しろということだと思います。この本で書かれているのはすべて仕事の生産性を上げるためのポイントで、それによって自分の価値をどう上げるかについても言及されています。今はそうした厳しいことを言ってくれる人がなかなかいないので、この本を読んでおくと役立ちます。私も「新人のときに読んでいたら、もっと違う人生だったかな」と思うときもあります。

 ただ、昔の働き方に戻る必要はないと思うので、例えばかつては当たり前だった長時間労働をせずに、長時間労働で得られるやりきった感や何かを失う感覚をどうしたら若い世代に体験してもらえるのか、考えればいいのではないでしょうか。「ただただ長く働いていたとき」と「仕事の意味を理解しながら働いていたとき」では、時間の長さは一緒だったとしても、経験の密度は全然違います。そうした密度の濃さを体感してもらえるような働き方ができるといいのかもしれません。

「この本の良いところは、何といっても初心に帰れるところ」と話す飯田智紀さん(写真/品田裕美)
「この本の良いところは、何といっても初心に帰れるところ」と話す飯田智紀さん(写真/品田裕美)
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飯田智紀(いいだ・とものり)
ベネッセコーポレーション 執行役員 社会人教育事業領域担当(Udemy日本事業責任者)
ソフトバンクグループにて経営企画・グループ会社管理、事業再生・国内外投資業務などに従事。2015年9月よりベネッセコーポレーション入社。2018年4月よりUdemy事業を中心とした社会人向けリスキリング事業の責任者となり、2024年4月より現職。

「最低限これだけは覚えて」と手渡された本

 2冊目は『 新版 考える技術・書く技術 問題解決力を伸ばすピラミッド原則 』(バーバラ・ミント著/グロービス・マネジメント・インスティチュート監修/山﨑康司訳/ダイヤモンド社)です。

『新版 考える技術・書く技術』(バーバラ・ミント著)(写真/スタジオキャスパー)。画像クリックでAmazonページへ
『新版 考える技術・書く技術』(バーバラ・ミント著)(写真/スタジオキャスパー)。画像クリックでAmazonページへ

 私は新卒でソフトバンクの経営企画部に配属されましたが、新入社員には場違いな部署で、周囲はコンサルタント出身者や公認会計士、米国公認会計士の資格を持っている人ばかり。簿記も知らない、エクセルも大して使えない私は「何しに来たの?」と聞かれ、「いえ……新人です」と答えるしかありませんでした。そこで先輩から「最低限これだけは覚えて」と手渡されたのが簿記の本、エクセルの本、そして本書でした。

 当時の仕事は経営陣が意思決定をするために事業分析を行い、その結果を月次単位で報告するための資料を作成することが多かったのですが、この本を読んだおかげで議論を構造化したり、帰納法で情報を整理したりする方法が分かりました。この本で基礎をたたき込まれたおかげで、何とか仕事ができるようになったという思い出の1冊です。

ファシリテーションに悩んだときの解決書

 3冊目は私がプロボノ活動をしているときに出合った本です。プロボノ活動にはさまざまな企業の社員や有志の人が参加しているため、会議ではみんなの議論をまとめたり、そこから価値を出したりする力量が問われます。

 そんななか、抜群に会議を仕切るのが上手な人がいました。議論が停滞すると「このフレームワークを使って考えてみましょう」、ブレインストーミングのときは「この方法でアイデアを出してみましょう」と呼びかけ、出てきた意見をホワイトボードにまとめるのもうまいんです。「どこでそんなスキルを身に付けたんですか?」と聞いたら、教えてくれた本が『 ファシリテーターの道具箱 組織の問題解決に使えるパワーツール49 』(森時彦、ファシリテーターの道具研究会著/ダイヤモンド社)でした。

『ファシリテーターの道具箱』(森時彦、ファシリテーターの道具研究会著)(写真/品田裕美)。画像クリックでAmazonページへ
『ファシリテーターの道具箱』(森時彦、ファシリテーターの道具研究会著)(写真/品田裕美)。画像クリックでAmazonページへ

 この本は「こういう場面ではこうするといい」という具体的な手法について書かれており、まさに「道具箱」。ファシリテーションの理論について書かれた本よりも分かりやすく、実践で役に立つのでお薦めです。

著者本人に組織文化のつくり方を学んだ

 そして「中堅~管理職にステップアップしたとき」に読む本は、『 カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方 』(唐澤俊輔著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。著者の唐澤さんはマクドナルドやメルカリ、SHOWROOMなどで組織づくりに携わってきた方です。

『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』(唐澤俊輔著)(写真/品田裕美)。画像クリックでAmazonページへ
『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』(唐澤俊輔著)(写真/品田裕美)。画像クリックでAmazonページへ

 私は2015年にベネッセコーポレーションに入社し、2018年からは新規事業開発室で多数の新規事業を立ち上げ、その中にUdemy事業もありました。最初は数名の組織でしたが倍々に増え続け、2020年に米国Udemy社と資本提携し関係強化をしたこともあり、今や約200名になっています。

 組織の人数や事業が急拡大していくなか、私はマネージャーとしてこの規模の組織を率いるのは初めてで、「今のチームの良さを生かしつつ、どう組織を大きくしていけばいいのか」と悩んでいました。世の中に組織のカルチャーやバリュー、クレド(信条)が大事だという本はたくさんあるのですが、自分の組織で体現するとなると、ちょっと遠すぎる。また、クレドが大事なのは分かるけれども、そのクレドはどうやってつくったらいいのかにまで言及されている本には出合えませんでした。

 そんなときにやっと見つけたのが本書で、組織をつくるときの具体的なフレームワークが書かれているので助かりました。例えば、組織にミッションやバリューは必要ですが、全員が「ミッションやバリューにはどういう役割があるのか」「どうつながるのか」を理解していないとうまく機能しません。そこで「いったん、この本に書かれていることを実行しよう」と決め、新規事業開発室のメンバーとこの本を課題図書とした勉強会を行い、本の内容に沿ってバリューを策定していきました。

 そのうち、「本を読むだけではなく直接、著者の唐澤さんに教えてもらおう」となり、唐澤さんを迎えて、2カ月ぐらいでチームバリュー策定のプロジェクトを進めました。本で理解を深め、著者に直接指南してもらってもっと深くまで学んだという、記憶に残る1冊です。全社的に進めるとなると組織が大きすぎて難しい場合もあるかもしれませんが、課長や部長になって、これから自分のチームを持つという人にはお薦めの1冊です。

 前編と後編で紹介した7冊は、私が実際に読み、仕事に役立ててきたものばかりです。忙しいビジネスパーソンでも読みやすい本を選びましたので、ぜひ手に取ってもらえればと思います。

「最初は数名の組織でしたが、倍々に増え続け、今や約200名になっています」(写真/品田裕美)
「最初は数名の組織でしたが、倍々に増え続け、今や約200名になっています」(写真/品田裕美)
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(注)ベネッセコーポレーションは、日本におけるUdemy社の独占的事業パートナーです。

取材・文/三浦香代子