たばこを中心にグローバルに事業を展開し売上高が2兆8000億円を超える日本たばこ産業(JT)。同社には次世代経営人財を選抜して育成するためのプログラムがあり、その支援の一環で、研修に関連した書籍の購入を補助する「ブックサポート」があります。このプログラムについて、同社の野下亜耶さん、和田春香さんに聞きました。ブックサポートで購入した書籍の中でお薦めの3冊も紹介してもらいます。

自己研鑽のために図書費をサポート

日経BOOKプラス編集部(以下、──) JTでは次世代経営人財を育成するプログラムがあるそうですね。

JT 人事部課長代理 野下亜耶さん(以下、野下) はい。当社は現在、医薬事業や加工食品事業も展開していますが、たばこ事業が売上収益の9割を占めています。海外拠点とのやり取りも多く、グローバルに活躍できる40代前半の執行役員候補、新規事業を牽引する事業部門長候補を継続的に輩出することを目的に、2013年から「JT-Next Leaders Program(NLP)」を立ち上げました。

2013年からというと、もう10年ぐらい続くプログラムということですね。こちらは選抜試験などがあるのですか。

野下 はい、JTおよび国内グループ企業の社員を対象に1年に1度実施しています。応募にあたっては年齢や職歴、TOEICスコアといった要件があり、そのすべてを満たす社員が選考に参加することができます。選考では、ウェブテストやアセスメント、事業・財務分析を問う事前課題、社内外の面接官による面接など、多角的な観点で見極めを行っています。例年、全体で200~300名が参加し、認定者は10名程度と狭き門です。認定者に対しては3年から5年の成長支援期間が設けられ、OJTとOFF-JTの両面から支援します。

 OJTとしてはグローバル経験の獲得であったり、専門性を確立するための人材配置を徹底したりします。OFF-JTとしてはベーススキルを獲得するために英語、異文化の理解、論理的思考といった学習プログラムを提供しています。自らの望むリーダー像を具現化するためのコーチング支援も行います。

JTの野下亜耶さん
JTの野下亜耶さん
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野下亜耶(のげ・あや)
日本たばこ産業(JT) 人事部 課長代理
新卒にてJTに入社。製造部(たばこ製造工場)・IR広報部での経験を積んだのち、2024年10月より現部署の人事部へ配属。人事部においてはキャリア施策や全社研修の企画立案を担当。

手厚いプログラムですね。

野下 はい。さらに、図書費の補助もあります。自己研鑽(けんさん)の加速を目的として、研修で使用する書籍の購入を支援する「ブックサポート」という制度です。本を通じて自らの興味関心を広げてほしい、金銭的な理由で学びを制限してほしくないと考えています。

JT IR広報部主任 和田春香さん(以下、和田) 私は2024年7月にNLPのタフアサインメントとして、鹿児島の営業所からIR広報部に異動してきました。鹿児島では総合営業として、新商品の棚替え、加熱式たばこの体験会、また、マナー向上を企図し、行政と協力した喫煙所の整備や地方メディアへの広報活動などを担当していました。

NLPに認定されてからの異動だったのですね。

和田 はい。実は2回試験を受けて落ち、今回が3回目の挑戦でした。2回目の不合格となった後、すぐに産休・育休を取得し、2023年4月に復帰したらNLPの募集が始まっていました。鹿児島での営業はやりがいはあったものの、もっと大きな視点でお客様の役に立ちたいと思い、応募しました。NLPに認定されると研修なども多いため、面接の際に「覚悟はありますか」と確認されました。

JTの和田春香さん
JTの和田春香さん
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和田春香(わだ・はるか)
日本たばこ産業(JT) IR広報部 主任
新卒にてJTへ入社。鹿児島支社で地域密着型の総合営業・企画業務を経験。8カ月間の産休・育休を取得し、復職から1年後に現在のIR広報部へ。株主総会をはじめ、個人株主様を対象としたコミュニケーション施策に携わる。1児の母として、家庭とキャリアの双方を大切にできる道を模索中。

自分らしいリーダーシップとは

ブックサポートでは購入上限は決まっているのですか。

和田 冊数の上限はありません。ただ、NLPに関連する本のサポートなので、何でも購入できるわけではありません。例えば、私は以前から自費で英会話の「カランメソッド」のテキストを購入していたのですが、1冊数千円するのでサポートしてもらえることになり助かりました。

では、ブックサポートで購入したお薦めの本を教えてください。

和田 ブックサポートで購入する本は、社外の研修で使うものでもOKです。1冊目に紹介する『 リーダーシップに出会う瞬間 成人発達理論による自己成長のプロセス 』(有冬典子著/加藤洋平監修・解説/日本能率協会マネジメントセンター)は「BEYOND by ONE JAPAN」という女性リーダー育成の社外プログラムでの指定図書でした。このプログラムは、世界と比べ組織の多様化(特にジェンダー平等)がなかなか進まない日本の社会情勢を受け、おのおのが自分らしいリーダーシップを開発し、企業の経営課題解決に向けた実践を目指したプログラムでした。

『リーダーシップに出会う瞬間』(有冬典子著/加藤洋平監修・解説)。画像クリックでAmazonページへ
『リーダーシップに出会う瞬間』(有冬典子著/加藤洋平監修・解説)。画像クリックでAmazonページへ

 このときの研修では、リーダーシップに関する本として『 人を動かす 』(D・カーネギー著/山口博訳/創元社)、『 ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技 』(木村尚敬著/日経ビジネス人文庫)も薦められました。

『リーダーシップに出会う瞬間』はどのような点が良かったですか。

和田 私は鹿児島での勤務のときに産休・育休を取得したのですが、子育てをしながら働くとなると時間や居住地が制限されます。1人で東京に異動するわけにもいかない、もう希望のキャリアを歩めないかもしれない、と悩んでいたときに社内の先輩から、「家族を守りながら、自分のやりたい仕事をする道もあるよ。そうやって働いている女性もたくさんいるから大丈夫だよ」と励ましてもらえ、すごく救われました。そこで、子育てや介護など、大切な人を守りながら働く方々の力になりたい──その思いを実現できるように成長したいと思い、NLPの機会を通じてさまざまな取り組みに力を注いでいます。

 この本は「管理職にならないか」と打診された30歳の女性が主人公。「周囲となかよく仕事をしたいだけなのに」と思っていた主人公が、リーダーを目指すことで生まれる心理的葛藤や軋轢(あつれき)を乗り越えていく様子が小説形式で書かれています。ストーリーに合わせて、人には「成人発達理論」という成長のプロセスがあることも解説されています。最初、主人公は自己犠牲の強い人だったのですが、周囲に合わせて自分が我慢するのではなく、周囲と調和しつつ、自分の意志を貫いていくところに共感を覚えました。

まさに「自分らしいリーダーシップに出会う瞬間」ですね。

和田 はい。ただ、「BEYOND by ONE JAPAN」では「私はこれがやりたいんです!」と言うだけでは、それは熱い思いのみの「青年の主張」だと教えられました(笑)。やはりビジネスパーソンとしてはそれが企業にとってどんなインパクトがあるのか、経営陣にきちんと説明できなくてはいけません。そのために役立つのが2冊目の『 実践型クリティカルシンキング 』(佐々木裕子著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。

『実践型クリティカルシンキング』(佐々木裕子著)。画像クリックでAmazonページへ
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 この本では「目指すものを達成するために、自分の頭で考え、行動し、周囲を動かすための実践的な思考技術」であるクリティカルシンキングについて説明されています。仕事をしていると、自分が未経験のことでも時間やリソースが限られているなかで素早い決断を迫られる場面が多々ありますよね。そのときに「なぜ、そう判断したのか」という根拠を人に説明できるのがクリティカルシンキングのメソッドです。この本を読むことで、精度の高い思考法の習得を目指せると思います。

実践的な内容なのですね。

和田 はい。「目指すものを定義する」「何が問題なのかクリアにする」「打ち手を考える」という3ステップに沿って演習が用意されています。「BEYOND by ONE JAPAN」の研修で、自社の経営課題について理解を深めて具体的なアクションに落とし込む段階で、この本の内容を活用したいと思っています。

「企業当てクイズ」で楽しく学べる

3冊目は何ですか。

和田 『 ビジネススクールで身につける 会計×戦略思考 』(大津広一著/日本経済新聞出版)です。著者の大津さんは米国公認会計士の経営コンサルタントで、当社の研修で講師を務める方です。私は財務や会計に苦手意識を持っていたのですが、この本は財務3表の見方や、その中の数字がどのように経営に結び付いているかを解説してくれるので勉強になりました。

『ビジネススクールで身につける 会計×戦略思考』(大津広一著)。画像クリックでAmazonページへ
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「ここが面白い」と思った部分はありますか。

和田 実際の損益計算書や貸借対照表から「この企業はどこか」を考えるクイズは、なるほど!と感心しました。この本には、取得した土地の価格は高くないのに、設備投資の金額が桁違い、それでいて利益を出し続けているという企業が登場します。本の中の登場人物が「こんなに設備投資をする業界はどこだろうか」「ホテルだろうか」とディスカッションし、最終的にはオリエンタルランド(東京ディズニーランドや東京ディズニーシーを運営する会社)だと分かります。実際に大津さんが当社で研修をされたときも「企業当てクイズ」を出題されて面白かったです。

 この本のように自分では苦手意識があるジャンル、読まない本を手に取れるのもブックサポートのメリットですね。せっかくの制度を活用し、NLPを頑張りたいと思います。

「苦手意識があるジャンルの本を手に取れるのもブックサポートのメリット」
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取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美

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大津広一著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)