経営大学院や企業研修、ベンチャーキャピタルの運営などを行うグロービス。経営理念の浸透や新しい知識の習得のため、読書会を頻繁に開催しています。人材育成の方法や読書会について、グロービス 経営管理本部人事・総務チーム マネージャーの金澤英明さんに聞きました。金澤さんは、読書会を行うのには4つの理由があると言います。

社会の創造と変革を行う

 私はグロービスの経営管理本部に所属しています。人事・総務チームのマネージャーとして、社員の育成や、グロービスの理念を社員に理解してもらうための文化醸成を担当しています。同時に経営大学院や企業研修の講師も務めています。

 グロービスというと、まず経営大学院が思い浮かぶ方が多いと思いますが、実は、「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」というビジョンの下、多彩なビジネスを展開しています。

 まず「ヒト」では、グロービス経営大学院(MBA)やグロービス・エグゼクティブ・スクールで、「創造と変革の志士」たるリーダーを育成。企業研修など「法人向け人材育成サービス」を通じて、人材育成・組織開発のサポートを行っています。また、定額制動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」なども提供しています。

 「カネ」では、グロービス・キャピタル・パートナーズで、メルカリ、ライフネット生命保険といったスタートアップ企業に投資し、経営をサポート。第1号ファンドは5億円規模でしたが、現在の運用総額は1600億円に至ります。

 「チエ」では、グロービスMBAシリーズなど書籍の出版、オウンドメディア「GLOBIS 知見録」などを通じて最先端の経営ノウハウについて情報発信しています。

理念を大事にする会社

 グロービスは理念を非常に大事にしている会社で、ビジョンの実現に一緒に向かいながらも、社会貢献のためのビジネスを行い、個の自己実現を大切にし、理想的な企業システムを追求し続けたいと思っています。その中で、HRポリシーとして、「性善説に基づく、自由と自己責任」を掲げています。

 どういうことかというと、会社は社員のことを信頼しており、社員は全員プロフェッショナルな人材なのだから、自由度高く、自らの意志で行動してほしい、と。堅い会社と思われがちですが、社内はフラットで意見交換も活発で、心温かい人が多いです。

 また、グロービスはほぼ全員が経験者採用です。そのため、他の企業であれば新卒を前提として計画的に順次研修を行うかもしれませんが、基本的には自分のキャリアは自分で考えるということが前提です。私たちは日々の業務で成長することが多くを占めると思いますので、MBO(目標管理制度)にて上長との成果の創出と能力向上のための対話を重視しています。もちろん、その中で、自身に必要な能力開発については、グロービスが提供している教育サービスなどを必要なときに社員自身が存分に使えるように全面的に支援します。

HRポリシーとして「性善説に基づく、自由と自己責任」を掲げているという金澤さん
HRポリシーとして「性善説に基づく、自由と自己責任」を掲げているという金澤さん
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 一方で、理念を感じられる場や、良き文化をつくるための場の設定は、必須として行っています。グロービス代表の堀義人とランチを共にする「プレジデントランチ」、理念や自身の価値観に向き合う1年目・3年目研修、読書会、新チームリーダー・マネージャー研修、合宿形式の「リトリート」などです。

 特に読書会は重視しており、社員同士で自発的な読書会が行われることも多いですね。

 プレジデントランチの前には、堀が書いた 『新版 吾人の任務 MBAに学び、MBAを創る』 (東洋経済新報社)を読んでおき、なぜ堀がグロービスを設立したのか、どのような思いがあったのかを頭に入れた上で、フランクに対話ができる機会をつくっています。

 また、それ以外にも、社員が必ず1度は読む「必読書」が8冊あります。この必読書を、2年目以降に半年に1回ぐらいのペースで、部門を横断して約10名で読書会を行い学び合っていきます。

 合宿形式のリトリートは、毎年、新年の経営方針が出た後に行うのですが、これは全社員が50〜80人ほどのグループに分かれ、全体で十数回行います。部門や役職を超えて対話することを重視しており、経営方針について対話したり、その年に応じた学びのテーマを設定して読書会をしたりしています。堀や経営管理本部長、私は全部の回に参加しています。

グロービスが読書会を重視する理由

 なぜ、グロービスが読書会を重視するかというと、4つの理由があります。

 1つ目はやはり、個人として心を磨き、修養することが大事だからです。本にはそれぞれの著者の考えが詰まっているので、それに触れながら自分自身の考えや価値観をアップデートしていくことができます。

 2つ目は共通認識を持てること。難しい本だと、自分だけではその本を本質的に理解するのが難しいときもあります。しかし、読書会で1冊の本を読み、お互いに質疑応答をして理解を深めようとする過程で、自分では気がつかなかった「この本の要諦」が分かり、お互いに大事にしたいものであれば、それが共通認識になっていきます。

 3つ目は、共通認識の先にある相互理解です。やはり、同じ本を読んでも人それぞれ、考え方や心に刺さるポイントが違いますよね。「○○さんはここが良いと思うんだ」「この部分が響くんですね」とお互いへの理解が深まり、読書会が終わった後には部門や役職を超えて良い人間関係が築けています。

 4つ目は学ぶ風土づくりです。私たちはグロービス経営大学院や企業研修という教育を提供していますが、私たち自身も常に成長したいという思いがあります。そのために、お互いから学び合うという風土をつくりたい。読書会はその風土醸成に最適なのです。

「個人として心を磨き、修養することが大事」だという金澤さん
「個人として心を磨き、修養することが大事」だという金澤さん
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読書会をどう進めるか

 かつては、経営陣が読書会のファシリテーターをしていたこともありましたが、今はマネージャー以上が務めています。自分の部門だけではなく、違う部門の人も参加するので、会社全体の文化醸成を、マネージャー層も一緒に担ってもらっています。

 読書会は、ファシリテーターが一人ひとりの意見を聞き、対話を重ねていく過程で深めたり広げたりしながら進行します。10人程度の読書会だったら、だいたい90分~2時間ぐらいかけて行います。お互いに学び合うため、ファシリテーターも参加者も、事前に本を読み込んで自身の気づきをまとめておく必要があります。

 対話では、本との対話、仲間との対話、自分との対話の3つを大事にしてほしいと伝えています。本との対話では、著者がこの本を通じて何を伝えようとしていたのか、本を貫く思想を、難しくてもしっかりと理解しようとする姿勢が大事です。

 次に、仲間との対話です。本は、人によって見方・考え方・感じ方が違うところが面白いものです。共感する点や自分にはない違う視点・新しい視点から気づくことはとても多い。一度読書会をすると、1人で読むよりもとても多くの気づきがあることを実感します。

 そして最後は、自分との対話。ファシリテーターはいますが、あえてグループの意見をまとめることはしません。「これが正しいよね」と言い切ってしまうと、押し付けられた感が出てしまうので。やはり、「本から何を学び取るか」は参加者自身の問題。「読んだ本の中から何を学んだか」「これからの行動にどうつなげていきたいか」を、最後は自分自身でつかみ取ってもらうようにしています。

 次回(1月23日公開)は、社員が必ず1度は読む「必読書」9冊についてご紹介します。

取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美