ドキュメント、クリエイティブ、デジタルマーケティングの分野でクラウドサービスを世界に提供するアドビ。同社でサービス導入を支援するコンサルタントを務める三嶋春菜さんに、同僚や部下にお薦めしている本を3冊挙げてもらいました。三嶋さんはグロービス経営大学院でMBAを取得しており、その講義で推薦された本が今でも役立っているといいます。

仕事机に置く座右の書

 現在、アドビには3つのクラウドサービスがあります。1つ目はPDFなどのDocument Cloud。2つ目がクリエイターの方たちに使っていただいているPhotoshopやIllustratorなどのCreative Cloud。3つ目がデジタルマーケティング専門のツールを扱うExperience Cloudです。

 現在、私はExperience Cloudのプロフェッショナルサービスというコンサルタント部門で、コンサルタントをしています。アドビにはAdobe AnalyticsやAdobe Marketo Engageというマーケティングツールがありますが、クライアントから「導入しただけでは、どうしていいのか分からない」という声が寄せられることもあります。そこで、実際にDX(デジタルトランスフォーメーション)でどのような価値を出したいのか、どのように効果を最大化させたいのかをヒアリングしながら、当社が持っているサービスやスキルを最大限に生かした施策の提案をしています。

 アドビでは、上記3つのどのクラウドサービスであっても、創造力と分析力が求められます。「PhotoshopやIllustratorならともかく、デジタルマーケティングに創造力がいるの?」と意外に思われるかもしれませんが、必要です。クライアントの課題を発見して解決するためには、クリエイティビティが欠かせません。その上でDXをサポートするには、きちんとデータを見て定量と定性から判断する力を備えておかなくてはいけません。

アイデアづくりにはプロセスがある

 1冊目に紹介する『 アイデアのつくり方 』(ジェームス・W・ヤング著/今井茂雄訳/竹内均解説/CCCメディアハウス)は、まさにそのクリエイティビティに関する本。これは、私がMBA取得のためにグロービス経営大学院へ通っていたとき、教授から「この本は薄くてすぐに読めるよ。これを読んでクラス全員の共通体験にしよう」と薦められた本ですが、60分程度で読めて、今もすごく役立っています。

薄くてすぐに読むことができる『アイデアのつくり方』(写真/品田裕美)
薄くてすぐに読むことができる『アイデアのつくり方』(写真/品田裕美)
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 ビジネスパーソンのみなさんなら、「大事なプロジェクトなのにアイデアが思い浮かばない……」と焦った経験があるのではないでしょうか。私もコンサルタントなので、さまざまな提案をクライアントに持っていかなくてはいけないのですが、それが思い浮かばず、悩むことがあります。

 でも、この本を読んで「アイデアは簡単に思い浮かぶもの」ではなく、「思い浮かぶまでの過程」があるのだと分かり、気がラクになりました。具体的には、第1段階では資料を収集し、第2段階ではそれらをよく咀嚼(そしゃく)し、第3段階ではそれらを放り出し、音楽を聴いたり映画を観たりして、なんでもいいから自分の創造力や感情を刺激するものに触れます。すると、第4段階で、あるときアイデアが誕生し、第5段階でアウトプットする──というプロセスです。

 私が一番感銘を受けたのは、第3段階の「放り出す」というところ。確かにいろいろと下調べをしておくと、シャワーを浴びているときなど、ふとした瞬間にアイデアを思い付くのです。

 この本を読んでいなかったら、良いアイデアが思い浮かぶまで延々とPCの前で悩んでいたと思いますが、今は一通り作業したら、気分転換できるようになりました。答えが出なくても悶々(もんもん)と悩まず、マインドをリセットできるのはありがたいです。今でもこの本は仕事机に常に置き、同僚や後輩に薦めています。一生アイデアに困らない本ですね。

「アイデアは思い浮かぶまでの過程がある」ことが分かったという三嶋さん
「アイデアは思い浮かぶまでの過程がある」ことが分かったという三嶋さん
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人と組織を変えるための1冊

 続いて紹介するのは、『 なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流 自己変革の理論と実践 』(ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー著/池村千秋訳/英治出版)です。こちらもグロービス経営大学院で薦められた本です。

クライアントへの対応で勉強になったという『なぜ人と組織は変われないのか』(写真/スタジオキャスパー)
クライアントへの対応で勉強になったという『なぜ人と組織は変われないのか』(写真/スタジオキャスパー)
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 私はコンサルタントとして提案営業をしていますが、やはりクライアント自身に変わっていただかないと、新しいチャレンジについてポジティブな反応が返ってこないことがあります。もちろん、ビジネススクールでそうしたことがあるとは学んでいたのですが、実際にクライアントと相対したときに本書を読んで、勉強になりました。

 例えば、この本にも書いてありますが、人はダイエットをしようとしても、なかなか成功しませんよね。なぜ成功しないかというと、家族が自分のために食事を作ってくれる、食べないと悲しい顔をされる──といった阻害要因があり、変わることに不安があるからです。この本では、豊富な具体例やフレームワークが解説されているので、自分に当てはめて今の状態を内省することができます。私のクライアントにも、「本気で組織を変えたい」と思っていても、周囲の理解が得られない、上司のサポートがない、といった方がいるので、どうやって周囲を巻き込むかを含めて提案することができました。

 人や組織を変えるための本としては、デール・カーネギーの『 人を動かす 』(山口博訳/創元社)も愛読していますが、具体的な事例が載っている分、こちらのほうが実際の仕事に近いかなと感じています。

社会的心理学の名著

 3冊目も人を動かすことに関連した『 影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか 』(ロバート・B・チャルディーニ著/社会行動研究会訳/誠信書房)です。この本は以前、読んでいたのですが、自分が今のコンサルタントの業務を始めたときに、「クライアントの方はどういうときに動いて、サービスを購入してくださるんだろう」と改めて不思議に思い、読み返しました。

なぜ人の心が動くのかを解き明かす『影響力の武器』(写真/品田裕美)
なぜ人の心が動くのかを解き明かす『影響力の武器』(写真/品田裕美)
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 本書では、外部からの働きかけに対して、深く考えることなく反応してしまう「カチッ・サー効果」や、相手から何かを受け取ったらお返ししなくてはいけないと思う「返報性の法則」などについて書かれ、なぜ人の心が動くのかを解き明かし、どうすれば弱みにつけ込まれることなく、自分の意志で行動できるかをアドバイスしています。

 例えば、営業の人なら、取引先から「商品を大量に購入するから、ちょっと値下げしてよ」と言われることがあるかもしれません。社内なら、「資料作りを手伝ってあげたから、懇親会の司会をやってよ」と言われるかもしれません。そんなときは「よくしてもらったし……」と引き受けてしまいがちなのですが、いったん立ち止まり、「それはそれ」「これはこれ」と考えられるヒントが示されています。

 相手に何かしてもらったとしても嫌なことは断っていいし、「代わりに別のサービスをご提供します」「司会は無理だけど、また今度、資料作りを手伝います」と言ってもいい。やはりビジネスでは、物事を自分の意志でハンドリングしていく姿勢が大事だと思います。

 私もクライアントとの交渉の中で、先方の要求をそのまま受け入れるのではなく、何かもっと別の価値の出し方はないか、もっと良い方法はないかと考えるようになりました。

「ビジネスでは、物事を自分の意志でハンドリングしていく姿勢が大事」(写真/品田裕美)
「ビジネスでは、物事を自分の意志でハンドリングしていく姿勢が大事」(写真/品田裕美)
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 『影響力の武器[第三版]』は、102ページしかない『アイデアのつくり方』に比べ、492ページと分厚いので、ちょっとハードルが高いかもしれません。私はグロービス経営大学院で知り合ったクラスメートと2015年から毎週月曜日の朝7時から読書会をしており、そちらでもみなで読み進めています。

 以前は、『最強の調達戦略 成熟市場の企業収益力を向上させる経営手法』(A.T.カーニー監修/野田武編著/東洋経済新報社)、『ファイナンシャル・マネジメント 改訂3版 企業財務の理論と実践』(ロバート・C・ヒギンズ著/グロービス経営大学院訳/ダイヤモンド社)なども取り上げましたが、1人だと挫折しそうな本は、誰かと一緒に読むのもお勧めです。

取材・文/三浦香代子