人生100年時代と言われる今、安心して退職後の人生を過ごすために、手持ちの資産をどのように活用すべきでしょうか? 今回はあるべき退職後の有価証券比率について、野尻哲史さんの著書『100歳まで残す 資産「使い切り」実践法 60代からの“まさか”に備え、資産寿命を伸ばす知恵』より抜粋・再構成します。
有価証券比率は「100-年齢」で計算しない
退職後に保有する金融資産のリスクを下げるといっても、どこまで下げるのか。ここでは、その適切な有価証券比率(株や債券、投資信託などの金融資産全体に占める比率)を考えてみたいと思います。
退職時点で有価証券の比率はどれくらいが望ましいのでしょうか。米国でのアドバイスのテキストをいくつか読んでいたなかで、よく指摘されていたのが「有価証券比率=100-年齢」という公式でした。つまり、65歳であれば、有価証券比率を35%にすべきだという考え方です。
ただ正直なところ私はこれをあまり信用していません。
英国の金融当局が、「消費者の金融ニーズに適した経験則」と呼ばれている世界中の1万にも上る経験則をレビューした結果を2017年に公表しています。「事実に基づいているか」「一般に適用できるか」「具体的な行動につながるか」「普遍的か」「覚えやすいか」「前向きな対応をもたらすか」の6つの原則に沿って分析した結果、「有価証券比率=100-年齢」は選ばれませんでした。
そのほかにも、現役世代向けの「収入のうち50%を必要生活分に、30%を嗜好品に、20%を貯蓄・負債返済に」とか「万一のための貯蓄は月収の最低3カ月分」といったものも対象外と判定されていたようです。
それはともかく、実際に同じ65歳の人でも、資産1000万円の人の有価証券比率と1億円の人の有価証券比率が、ともに35%というのはあまり納得のいくものではありません。
有価証券以外の資産を預金だとすると、前者は預金が650万円で、後者は6500万円となります。人によって見方は異なるかもしれませんが、全財産が1000万円で預金が650万円では少なすぎ、また、1億円のうち預金が6500万円というのは多すぎるのではないかと思います。
生活費から有価証券の比率を逆算する
生活費から有価証券の比率を逆算するには、そこで有価証券の比率を考えるのではなく、「預金比率を考え、残りを有価証券比率として考える」アプローチを取ってみます。
米国でよくいわれる3 bucket approach(資産3区分のアプローチ)を有価証券比率の考え方に使うことができると思っています。そのアプローチのポイントは「短期区分として目先の1~3年程度」「中期区分としてその次の7~9年程度」を想定し、そのうえで「長期区分として10年後以降の生活用資金として有価証券による運用資産を考える」というものです。
そこでこの考え方に基づいて、短期と中期の区分の合計10年間の資産は、運用資産とは違う「目先で使う資産」として考え、その目先資産をここでは「預金」として考えてみようと思います。
例えば、10年分の生活費となるので、これは「年金以外に必要な資金の10年分程度を預金にしておく」といった考え方に読み替えられます。年金以外に毎月10万円くらいの資産収入が必要であれば、その10年分、1200万円程度を預金にする、となります。
この考え方を使うと、前提として考えた「金融資産3000万円のうち、有価証券資産2000万円と預金1000万円」というのは、年金以外に10万円くらいの上乗せが必要だとする生活なら、まずまずの水準だといえます。
結果として、合計で3000万円の金融資産に占める有価証券資産の比率は66%ですから、100歳から年齢を引いた35%(=100-65歳)からは相当乖離(かいり)していることになります。
また、年金以外に毎月20万円必要であれば10年分の資金は2400万円となりますから、多少少なめにして3000万円のうち2000万円を預金にして、残り1000万円を有価証券資産とする区分けになります。
この場合は有価証券比率が33%となり、100から65歳を引いた水準に近いものとなります。
引き出しは現金から? 有価証券から?
次は、そのリスク性資産比率をどうやって加齢に伴って変更させていくべきかを考えていきます。
「有価証券比率=100-年齢」の持っている違和感は説明した通りですが、ひとつだけ参考にしているのは、年齢が高くなるほど有価証券比率を引き下げていくべきだという考え方です。
具体的な方法として、引き出すときに預金と有価証券資産のどちらから行うかという視点で考えていきます。
原則は「使いながら運用する時代」(「 寿命は予測できない だから資産計画は『100歳まで』立てておく 」参照)の特性を活かして、有価証券から取り崩していくことになると考えています。
まず、スタートラインを、65歳で資産3000万円を保有していて、そのうち運用資産2000万円、預金1000万円、有価証券比率66.6%と設定します。
ちょっと脱線しますが、私は「運用資産3000万円で運用収益率3%、引出率4%」というのをいろいろなところで使っています。
「保有する金融資産3000万円のうち、有価証券資産が2000万円、預金1000万円」と2つに分けたときに、運用収益率や引出率はどう考えればいいかと疑問に思う方もいるのではないでしょうか。ここで少し整理しておきます。
シンプルに考えると、「運用資産と預金を合わせて3%運用、4%引き出し」とするとわかりやすくなります。
まずは収益率ですが、「3000万円で、3%運用を目指す」ということであれば、「運用資産2000万円では4.5%で運用し、預金1000万円は0%で運用する」と切り分けて考えます。その結果、全体で3%の運用収益率を作り出せるとみるわけです。
もちろん、預金も利息の良い定期預金に預けるなどで0.5%程度の収益率を想定できるのであれば、「4.25%の2000万円の運用資産と0.5%の1000万円の預金」といった建付けも可能になるでしょう。
野尻哲史著/日本経済新聞出版/1870円(税込み)


