時代を超えて輝き続ける「偉大な企業」は他の企業と何が違うのか。18社の比較調査から、「12の崩れた神話」が明らかになったと言います。ベストセラー『 ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則 』(ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著/山岡洋一訳/日経BP)を、ボストン コンサルティング グループ(BCG)の森健太郎さんが読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔マネジメント編〕 』から抜粋してお届け。

「偉大な企業」を分析

 時代を超えて輝き続ける「偉大な企業」は、そうでない企業と何が違うのか。この問題を解き明かそうとしたのが、米経営学者のジム・コリンズらが著した『ビジョナリー・カンパニー』です。1994年に出版されて以来、世界中の経営者に読まれてきました。

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)、IBM、ボーイングなど偉大な企業として登場する18社は、いずれも経営者や主力商品の交代を重ねてきました。コリンズはまず各社の特徴として「進歩への飽くなき情熱」を挙げる一方で、それぞれが守り抜いてきた基本理念を持つと指摘します。「基本理念を維持し、進歩を促す」というのが本書の中心テーマです。

『ビジョナリー・カンパニー』には18社の「偉大な企業」が登場する(JHVEPhoto/shutterstock.com)
『ビジョナリー・カンパニー』には18社の「偉大な企業」が登場する(JHVEPhoto/shutterstock.com)

 基本理念がなぜ重要なのでしょうか。まず企業が発展するのに伴って、「大組織化」「多角化」「グローバル化」「人材の多様化」などを通じて遠心力が高まりますが、基本理念が組織を束ねる「求心力」となります。

 加えて、基本理念は社員一人ひとりの「判断軸」となるため、細かい規則や管理を必要とせず、自主自律と起業家精神を育みます。

 また、利益を超えた目的と存在意義を示すことで、事業領域を広げていく際の「道しるべ」となるとともに、大胆な挑戦を促す「奮い立つ勇気」を生み出します。

 さらに、基本理念があるからこそ、経営者や事業などそれ以外の要素を変えても、企業としての「継続性」を確保できるのです。

 コリンズは、基本理念の構成要素を「基本的価値観」と「目的(存在理由)」に大別しますが、18社に共通する項目は一つもないと指摘します。内容よりも、組織に本当に浸透しているかどうかが重要と考えます。その上で、基本理念を「慣行」や「前例」と混同してはならないと注意を促します。混同すると前例などにしがみつくことになり、組織が硬直してしまうからです。

比較調査で「違い」をあぶり出す

 著者のコリンズは、時代を超えて輝き続ける『ビジョナリー・カンパニー』の調査対象とした18社は「皆、本社ビルを持っている」としています。

 コリンズは、この本社ビルの件を例に「ビジョナリー・カンパニーの共通点は何か」という問いの立て方は間違っていると説きます。「これらの会社が、他の会社と比べて、本質的に違う点は何か」という問いを立てるべきだとして、そのために、「比較調査」という手法を用いています。

 具体的には、18社のビジョナリー・カンパニーそれぞれについて、比較対象となる企業を選んで「違い」をあぶり出していくのです。ご参考までに、以下に企業の一覧を示します。

ビジョナリー・カンパニーと比較対象企業
ビジョナリー・カンパニーと比較対象企業(出所)『ビジネスの名著を読む〔マネジメント編〕』(日本経済新聞出版)より作成
(出所)『ビジネスの名著を読む〔マネジメント編〕』(日本経済新聞出版)より作成

 18社は、700社(回答は165社)の最高経営責任者(CEO)へのアンケート調査で回答が多かった20社をベースに、そこから1950年以降に設立した企業を除いています。

 意図として、コリンズは以下の5点を挙げています。

(1)業界で卓越した企業である。
(2)見識のある経営者や企業幹部の間で、広く尊敬されている。
(3)私たちが暮らす社会に、消えることのない足跡を残している。
(4)CEOが世代交代をしている。
(5)当初の主力商品(またはサービス)のライフサイクルを超えて繁栄している。

 よく「企業の寿命は30年」「企業は3代続くかどうかが分かれ目」などと言われますが、1950年以降に設立した企業を除いているのは、そのような意図でしょう。

関係がなかった「神話」の数々

 ビジョナリー・カンパニーが他の企業と何が違うのかについて、ここでは、コリンズが「意外な発見」として著書の冒頭で挙げている「12の崩れた神話」の一部を紹介しましょう。つまり、比較調査をしてみたら、実は関係なかったというものです。

(1)素晴らしい会社を始めるには、素晴らしいアイデアが必要である。

 18社のうち、革新的な製品やサービスが大成功を収め、好調なスタートを切った会社は、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、フォードの3社だけだそうです。

 コリンズは次のように言います。「素晴らしいアイデアを持って会社を始めるのは、悪いアイデアかもしれない。ビジョナリー・カンパニーには、具体的なアイデアをまったく持たずに設立されたものもあり、スタートで完全につまずいたものも少なくない」

 ビジョナリー・カンパニーの究極の製品は「企業そのもの」であり、素晴らしいアイデアにとらわれすぎると、組織づくりがおろそかになりがちというのがコリンズの洞察です。

 「長距離レースに勝つのは、ウサギではなくカメである」とコリンズは例えます。

(2)ビジョナリー・カンパニーには、ビジョンを持った偉大なカリスマ的指導者が必要である。

 「カリスマ的指導者はまったく必要ない。かえって会社の長期の展望にマイナスになることすらある」というのがコリンズの見解です。

 ビジョナリー・カンパニーの歴代の最高経営責任者(CEO)の中には、世間の注目を浴びるカリスマ的指導者のモデルに当てはまらない人もおり、むしろそうしたモデルを意識して避けてきた人もいると指摘します。

 これは、連載第3回で説明する「第5水準のリーダーシップ」にもつながる洞察です。

(3)ビジョナリー・カンパニーには、共通した「正しい」基本的価値観がある。

 ビジョナリー・カンパニーの経営理念には共通した項目は一つもないそうです。内容よりも「理念をいかに深く信じているか」「会社の一挙一動にいかに一貫して理念が実践され、息づき、現れているか」が重要と説きます。

 コリンズは、ビジョナリー・カンパニーが「何を価値観とすべきか」という問いを立てることはないとします。そうではなく、「我々が実際に、何よりも大切にしているものは何なのかという問いを立てる」と指摘しています。

(4)ビジョナリー・カンパニーは、万人にとって素晴らしい職場である。

 コリンズは、ビジョナリー・カンパニーは、ある集団が示す熱烈な支持を意味する「カルト」のような強い文化を有すると言います。その企業の基本理念と高い要求に「ぴったりと合う」者にとっては、最高の職場である一方で、「水が合わない」人にとっては、居場所はありません。「中間はない」とコリンズは言います。

 ビジョナリー・カンパニーは決して、万人にとって「やさしい」「居心地のよい」職場ではないのです。

『ビジョナリー・カンパニー』の名言
『ビジョナリー・カンパニー』の名言
「偉大な企業」を分析した不朽の名作

時代を超えて輝き続ける「偉大な企業」18社を選び出し、設立以来現在に至る歴史全体を徹底的に調査して、ライバル企業と比較検討。永続の源泉が「基本理念」にあると解き明かすベスト&ロングセラー。

ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著/山岡洋一訳/日経BP/2136円(税込)