企業が飛躍するきっかけをつくるのは、“野心”あふれるCEO。そのようなリーダーにはどのような資質が必要なのか? 『 ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則 』(ジム・コリンズ著/山岡洋一訳/日経BP)を、ボストン コンサルティング グループ(BCG)の森健太郎さんが読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔マネジメント編〕 』から抜粋してお届け。
野心と謙虚さを併せ持つ
コリンズは2001年に『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』を発表し、普通の企業が時代を超えて輝き続ける「偉大な企業」へ飛躍するための道筋を論じました。そこでのキーワードは「Good は Great の敵」です。偉大な企業が数少ないのは、多くの企業がすでに「よい企業」という立場に安住しているからだ、という意味を込めています。
よい企業に安住している状態から抜け出し、飛躍のきっかけをつくるのは、“野心”あふれる最高経営責任者(CEO)の登場です。調査対象のすべての躍進企業に共通して見られます。
ところが、そのCEOの退任後に、これら躍進企業の行く末は二つに分かれます。偉大な企業に向かって飛躍を続ける場合と、一代限りでどこにでもある企業に後戻りしてしまう場合です。
後戻りしてしまう企業のCEOは、カリスマ的だが個人としての野心が強く、「群れの中で自分が一番大きな犬でなければ我慢できない」タイプのリーダーです。このタイプのリーダーが去った企業は往々にして衰退していきます。

一方、よい企業を偉大な企業に導くCEOは、野心は偉大な企業のCEOと同じくらい強いものの、その目標は個人的な成功ではなく会社の成功に向いています。「私は幸運と素晴らしい人たちに恵まれた」が口癖で謙虚ですが、偉大な企業をつくるためならどんな困難も乗り越える不屈の精神を兼ね備えています。
コリンズはこうした資質を持ったリーダーを企業幹部に見られる五つの水準の最高位にあると位置付け、「第5水準のリーダーシップ」と名づけます。個人としての謙虚さと経営者としての意志の強さという一見、矛盾した性格を持っている、と指摘します。
第5水準のリーダーシップの真の力は、経営陣の人事についての厳格さに表れます。だからこそ、自らが去った後にも、偉大な組織と優秀な後継者を残すのです。
リーダーシップの五つの段階
「経営者は無視して、他の要因を探ってくれ」
著者のコリンズは『ビジョナリー・カンパニー2』の調査チームに対して、そう口酸っぱく指示していたと言います。普通の企業が「偉大な企業」へと飛躍するカギは「偉大な経営者がいたから」だという安易な思考を避けたかったからです。
ところが、調査を深めれば深めるほど、偉大な企業に飛躍した企業の経営者には「めったにない特徴」が一貫して見られることが、客観的事実として浮かび上がってきたそうです。その特徴こそ、先に述べた「第5水準のリーダーシップ」だったのです。
「第5水準って何?」「自分は、第何水準だろう?」などと気になる読者も多いでしょう。本書から、リーダーシップの五つの段階を引用してみましょう(図表1)。
「二面性」――第5水準のリーダーの最大の特徴
コリンズは、第5水準のリーダーの最大の特徴として「個人としての謙虚さ」と「職業人としての意志の強さ(不屈の精神)」という一見矛盾する「二面性」を兼ね備えていることを挙げます。図表2をみると、その二面性がよく理解できるでしょう。
これらは「経営者たる者、謙虚であるべきだ」などという理想論を述べたものではありません。前述のように、偉大な企業へと飛躍した企業群と飛躍できなかった企業群を丁寧に比較検討していった結果、導き出された客観的な観察事実であるという点が、大変示唆深いのです。
企業経営において、第5水準のリーダーと、第4水準以下のリーダーとの違いが最も顕著に表れるのが、「組織づくり」と「後継者選び」です。もっと絞って言うなら、「第5水準のリーダーを継続的に育む組織」をつくり上げることだと言ってよいかもしれません。
100年間、素晴らしい経営陣を輩出してきたGE
この考え方は、『ビジョナリー・カンパニー』の1、2を通じて、偉大な企業の創業、偉大な企業への飛躍について考察してきたコリンズの中核テーマです。
コリンズは米ゼネラル・エレクトリック(GE)の元最高経営責任者(CEO)、ジャック・ウェルチを例に挙げて、まず「ウェルチが抜群の実績を残したのは確かであり、米国の企業経営史に残る経営者であることは確かだ」と語ります。
しかし、それに続いて「ここが決定的なポイントなのだが、歴代のGEの経営者もそうなのだ。ウェルチはGEを変えた。歴代の経営者も変えた」と指摘するのです。最後に「我々はウェルチを尊敬してやまないが、本当にすごいのは、100年にわたって素晴らしい経営陣を輩出してきたGEという組織である」と結論づけます。
コリンズはさらに、米国の建国を例に挙げて、考察を続けます。「当時のヨーロッパ諸国の繁栄は、国王(または女王)の資質に大きく左右された。国王が偉大で賢明な指導者なら、王国は繁栄した」というのがコリンズの歴史的な認識です。
これに対し、米国では「1787年の憲法制定会議の最大の課題は『誰が大統領になるべきか。最も賢明な人物は誰か』ではなかった」と指摘します。米国の建国者たちが力を注いだのは、「『我々がこの世を去ったのちも、優れた大統領を継続して生み出すために、どのようなプロセスを作ることができるのか。我々が目指す国を築くには、どのような指針と仕組みを作るべきか』であった」とみるのです。
こうして整理してしまうと簡単なようですが、コリンズは、有能な経営者ほど自分の卓越した能力で企業を引っ張るあまり、組織づくりをおろそかにしてしまったり、後継者選びに失敗してしまったりすることが多いと言います。
「GoodはGreatの敵」「有能さは真の偉大さへの敵」とはまさに言い得て妙だと思います。

ごく普通の会社が、世界有数の経営者に率いられた超一流企業に勝る目覚ましい業績を上げるまでに変身した。傑出した業績を長期間持続させることに成功して飛躍を遂げた企業11社を、それぞれの業種で競合関係にある企業と詳細に比較・分析。
ジム・コリンズ著/山岡洋一訳/日経BP/2420円(税込)