新連載「あの話題書の著者が今、伝えたいこと」。最初の登場は、著書 『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』 (日本経済新聞出版/2019年刊)が13万部のヒットとなった北野唯我さん。個人の才能や職場、社会を「天才」「秀才」「凡人」の構図で説明した話題作の著者は今、何を考えているのか。
経営者、起業家、クリエーターから反響
編集部(以下、──) 北野さんが書かれた『天才を殺す凡人』は「この世界は天才、秀才、凡人でできている」「でも、この三者には齟齬(そご)があり、殺し合うこともある」という斬新な視点をストーリー仕立てで展開していく本で、大きな話題となりました。刊行から3年たった今、改めて思うところはありますか。
北野唯我さん(以下、北野) 今でも経営者や起業家、クリエーターの人からは、「あの本はめちゃくちゃ面白かった」「何十回も読みました」「影響を受けました」と言われます。
レオス・キャピタルワークスの藤野英人さんは、「すごく面白かったから自分で何冊か買って、天才だと思う人に配った」とおっしゃっていました。何かに挑戦したことのある人、多くの人とは違う選択をした人には、強く共感してもらえたのかなと思います。まさに、そういう方々に届けたい本だったので、すごくうれしいですね。
それ以外のビジネスパーソンからも、もちろん反響はありました。でも、「 『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』 (ダイヤモンド社)の方が役に立った」「秀才を悪く言いすぎでは」と言われることも多いです。本書は、人によって評価が分かれるのかもしれません。
「天才・秀才・凡人」を深掘り
──何かご自身の中で変化はありましたか。
北野 変わったというか、気づいていなかったことがあります。『天才を殺す凡人』では、人間の才能を「天才(創造性)」「秀才(再現性)」「凡人(共感性)」と3つの要素に分けたのですが、それを実際の事業戦略にどうやって結び付けるかまでは深掘りできていませんでした。
そこで、2021年8月に出版した『戦国ベンチャーズ 人事の天才・徳川家康と曹操に学ぶ、「強みの経営」とは?』(SHOWS Books)では、「創造性系」の中の「意志」「構想する力」、「再現性系」の中の「戦略性」「規律性」、「共感性系」の中の「コミュニケーション性」「ポジティブ性」というように細かく分類し、お互いの強みを組み合わせて良いチームをつくる方法を考えました。
これは『天才を殺す凡人』を書いたことによって、自分の中で理解が深まったおかげだと思います。
それから、思わぬ形で、自分にとっては『天才を殺す凡人』が「予言の書」となってしまいました。
会社上場は「再現性」の世界
北野 僕が取締役を務めているワンキャリアは、2021年10月に東京証券取引所マザーズ市場(現在はグロース市場)へ上場しました。そこに至るまでの数年間は、本書で書いた「天才による創造性」「秀才による再現性」「凡人による共感性」の違いを痛感しました。
というのは、株式上場の過程というのは、まさに「再現性」の世界です。社内のフローや管理体制の強化、数字に対するプレッシャーといったことが一気に高まり、経営の面からは特にバランスを重視しなくてはなりません。
でも、そればっかりになってしまうと、創業期にあったクリエーティブな発想や挑戦をしなくなりがちです。ですから、『天才を殺す凡人』の物語はまさに自分事でもありました。
──「創造性」を取り戻すのが課題ですね。
北野 会社というのはどこかのタイミングで、非連続的な成長をしなくてはいけません。それができないと、「新規事業ではなく、既存事業に力を入れよう」と、再現性を選び続けることになり、衰退に向かいます。
北野 「再現性」の方が説明能力は高いため、同じことを繰り返した方が正しく思えるし、評価されやすくなるのは明白です。だから「創造性」を殺してはなりません。僕自身も本書を読み返して内省しています。
また、「再現性」ばかりで仕事をしていると、つまらない人になってしまいます。僕は本を何冊も書いていますが、「また同じこと言ってるな」とは読者に思われたくありません。だから、新たに本を出版するときは毎回新しいテーマを取り上げ、本の20〜30%は新しいチャレンジをしています。『天才を殺す凡人』では、巻末に事前に本のゲラを読んだ人の感想を入れ、『内定者への手紙 「仕事が遅い人」と呼ばれないための、10のチェックリスト』(SHOWS Books)は電子書籍のみの企画にし、『これからの生き方。 自分はこのままでいいのか?と問い直すときに読む本』(世界文化社)はマンガにしました。
放っておくと水が低きに流れるように、人間も楽な方へと流されてしまう。だから、創造性を枯渇させないように、日々必死にもがいています。
例えば、誰とどれだけ過ごすのかというのも大事です。なるべく何かに挑戦している人、若い人と過ごすようにして刺激を受けています。
創造性とはエネルギーだ
北野 創造性とはつまるところエネルギーです。コンディションも大事。例えば体調不良で39度の高熱があったら、「クリエーティブなことをやろう」などとはとても思いません。
他方で、スポーツ選手の素晴らしいパフォーマンスを見たり、いい映画や本に触れたりすると、熱量が伝播(でんぱ)して「自分も何かやってみたい!」と思えます。
フィジカルとメンタルの両面を整えて、エネルギーを循環させることが大切です。僕は毎朝、腹筋を100回したりしてコンディションを整えるようにしています。
取材・文/三浦香代子 構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集部) 撮影/木村輝
人間の才能とは何か。なぜ人はすれ違ってしまうのか。私たちは自分の中にどのように才能を見いだし、どうやって伸ばしていけばいいのか。注目のビジネス作家が90分で読める物語にまとめた、超・問題作。
北野唯我著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)
>>こちらから【音声】声優・梶裕貴が朗読する『天才を殺す凡人』の「はじめに」をお聞きいただけます。