日亜化学工業は過去30年で売上高を30倍にした会社だ。成長力と収益力の源泉は、付加価値の高いものづくりにある。その代表格は、「20世紀に実現は難しい」と言われた青色発光ダイオード(LED)。さらに、開発の難易度がLED以上に高い青色半導体レーザーも忘れてはならない。今でこそ大企業だが、光半導体を開発する前は地方の一企業と見なされていた。そうした企業がなぜ大手企業の向こうを張って、付加価値の高い製品を生み出し続けられるのか。その答えを記した書『技術者天国 日亜化学工業、知られざる開発経営』(日経BP)の中から、半導体レーザー開発物語を5回に分けて紹介する。第5回(最終回)では半導体レーザー開発が日亜化学工業の経営に及ぼしたインパクトを読み解く。
長波長化によって青色半導体レーザーおよび緑色半導体レーザーを開発する上で、技術的な難所は、活性層に光を閉じ込めることだ。波長が長くなるほど構造的に光を閉じ込めにくくなるからである。加えて、波長シフトのためにインジウム(In)の含有量を増やさなければならないが、増やすと結晶が劣化して発光しなくなる。
解決のポイントは、結晶構造と結晶成長条件の最適化だった。当然、MOCVD(有機金属を使う化学的気相成長法)装置の改良も行った。これにより、活性層に光を閉じ込めることはもちろん、Inの含有量を増やしても良質な結晶ができるようになった。
ただし、開発には時間を要した。青色半導体レーザーは2001年に波長が445nmで出力が5ミリワット(mW)のものを開発し、徐々に出力を高めていって、2010年に1Wの製品がカシオ計算機のプロジェクターに採用された。
効率および出力の向上
だが、Inの含有量をもっと増やさなければならない緑色半導体レーザーのほうは、結晶がさらに劣化するため、なかなか発振しなかった。ようやく1W級の製品を開発し、サンプル出荷を開始したのは2010年のことだ。そして、2014年には映画館に採用された。
改良は日々行われており、効率や出力は年々上がっている。青色半導体レーザーは2010年に効率が22%、出力が1Wであったのに対し、2024年にはそれぞれ52.4%と6Wにまで高まっている。一方の緑色半導体レーザーは、2011年に効率が14.1%、出力が1Wだったところを、2024年にはそれぞれ25.2%、2Wになっている。
そして、2017年からはディスプレー用光源の開発と並行して、加工用青色半導体レーザーの開発を日亜化学工業は開始した。自動車の電動部品などに使われている銅を溶接する需要を狙ったものだ。そのために、高出力化の開発を進めている。2021年に170Wの製品を実用化して以来、出力をどんどん高めており、2025年には800Wまで引き上げる計画だ。
短期的な利益を追わない
現在、ビジネスの柱となっているディスプレー用光源だが、長濱氏は「日亜化学工業だから開発できた。他社では無理だったのではないか」と振り返る。先述の通り、2000年からの10年ほどは光ディスク用ピックアップ光源の需要が拡大する時期だった。普通の会社なら利潤を最大化するために、技術者を1人でも多く光ディスク用ピックアップ光源の開発に投入するはずだ。ものになるかどうか分からない新規開発の提案に首を立てに振る経営者は少ないだろう。
にもかかわらず、日亜化学工業でそれが可能だったのは、「短期的な利益を追求していないからではないか。新しい技術にチャレンジしたいという思いを受け止めてくれるのは、そのためだろう」と長濱氏は言う。
そもそも日亜化学工業の当時の状況を振り返ると、半導体レーザーの開発を始めるのも、他社では難しかったかもしれない。儲(もう)かるかどうか分からないどころか、開発できる予算を組める企業が日亜化学工業の他にあるだろうか。
日亜化学工業の窒化ガリウム(GaN)系半導体レーザーは、今なお性能と品質で世界のトップを走っている。
[日経クロステック 2025年6月6日付の記事を転載]
近岡裕(著)、日経BP、1980円(税込み)


