多くのユーザーが日頃行っている活動への影響が大きいと考えられるAIエージェントについて、注目すべき事例を取り上げて紹介していく。各事例は、今まで個人によってばらつきがあった作業効率や作業品質といった能力が、人工知能(AI)の力によって誰が実行しても一定の効率と品質を担保できるようになるといった、人の作業効率を底上げする事例である。第1回は「PC操作の自動化」について。新刊『AIエージェント革命 「知能」を雇う時代へ』から抜粋してお届けする。

部下に話しかけるように操作を指示するだけで…

 最初に取り上げる事例は、パソコン(PC)操作の自動化である。2010年代前半に、あらかじめ人間が定義したシナリオに従ってPC操作を自動化するツールとしてRPAが登場した。これにより一定の自動化が可能となったが、事前のシナリオ設計やコーディング作業が必要で、どうしてもすべての業務を自動化することは難しかった。

 生成AIの登場によって、このシナリオ定義すらも自動化できる可能性が示されている。2024年10月22日にアンソロピックは自然言語による指示を解釈し、動的にシナリオを生成することでPC操作を自動化する機能、「Computer Use」を発表した。

 Computer Useはアンソロピックが提供する生成AIモデルClaudeが備える機能の1つである。ユーザーはこの機能を使うことで、シナリオを作成する手間なく、まるで会社の部下に話しかけるように言葉で操作を指示するだけでPC上の操作をある程度自動化できる。第1章で紹介した大規模言語モデルをベースとして、自動で計画を立て、ウェブサイトを利用しつつ、間違えば修正するようなエージェントの特徴をフルに持つ機能である。

 これらを利用することによって、PC上で完結する操作なら幅広く適用できる。例えば、ウェブで集めた情報をExcelに転記する作業や、よく使う店の予約、いつも買っている商品のEC(電子商取引)サイトでの購入などだ。

 例えば「特定のウェブサイトからデータを集めてExcelにまとめて」といった指示を出すとしよう。すると、指示を受け取ったClaudeはデスクトップ画面のスクリーンショットを撮影して、ウェブブラウザーアプリのアイコンの位置を特定する。そしてカーソルを移動してそのアイコンをクリックして、アプリを起動する。その後、ブラウザーのアドレスバーにカーソルを移動させ、指定されたウェブサイトのURLを入力しアクセスする。表示された画面から必要な箇所を特定し、テキストをコピーする。最後にブラウザーを閉じてExcelを起動、コピーしたテキストをExcel内に貼り付けする。この例のように言葉で記載すれば単純だが、従来人間が行ってきた一連のPC操作を1つの指示から必要な操作を洗い出し実行することができるのだ。

 また、Computer Useを追うような形でオープンAIは類似した機能を持つ「Operator」を2025年1月23日に発表するなど、PC操作の自動化における企業間での競争が始まっている。

 すでにこれらのツールを活用している事例は数多く存在する。ここではそれらの中でよりユーザーにとって身近な活用事例を2つ紹介する。

 1つめは航空券を予約する事例だ(図2-1)。大手航空サイトを利用して東京(羽田)-大阪(伊丹)間の空席情報をOperatorに調べてもらうとしよう。

画像のクリックで拡大表示

 Operatorに対して「来週金曜日の東京(羽田)発-大阪(伊丹)行きの空席情報を教えてください」とプロンプトを入力すると、Operatorは公式サイトにアクセスし、画面上の予約ボタンを選択して出発地、到着地、日時、人数を入力し、座席選択画面まで操作を進める。その後、画面上に表示される情報から空席のある便とその時間帯を提示してくれる。また、「一番安い便はどれですか?」といった追加の質問をすると、提示した便の中で最も安価なクラスとその料金を回答してくれたり、提示された選択肢の中から便を選んで予約まで行ったりすることも可能である。このように、やりたいことをチャットで伝え、実行結果に追加の指示を加えることで、指示を加味して自動実行できるのが特徴である。

(写真:GlopHetr/stock.adobe.com)
(写真:GlopHetr/stock.adobe.com)

下北沢駅付近で友達と行く最適なレストランを…

 2つめは大手飲食店評価サイトを使って友人との食事に利用する飲食店を探してもらう事例だ(図2-2)。

画像のクリックで拡大表示

 Operatorに対して「東京の下北沢駅付近で友達と行く最適なレストランを見つけて」とプロンプトを入力すると、飲食店評価サイトにアクセスし、「特定の料理ジャンルを指定しますか?」といった質問や、「友人との食事に適したレストランに絞り込むフィルターが見つかりました。適用しますか?」など、操作に関する許可を求める対話を行いながらタスクを進めてくれる。最終的に、肉料理をメインとする飲食店を3件ピックアップしてくれた。ユーザーはOperatorを使うことでレストランを探す際に、店舗エリアの指定方法や料理の種類を限定するための指示を細かく提示する必要はなく、Operatorの問いかけに応えるだけで、目的に合った操作が可能となっている。

 ここまでは自律的にタスクを実行するPC自動化による利点を述べてきた。しかしながら利点がある一方で、自動化に伴う課題もいくつか存在するので利用には注意が必要だ。

 PCが自動的に操作することにより、意図しないウェブページを開いてしまったり、操作者が異なるのにいつも利用しているパスワードをウェブページに入力してログインしたりという例がある(Operatorのサービスにおいては、パスワード入力などが必要な場合は操作権限を人間側に渡すよう対策されている)。

 PC操作の自動化は多くの利便性をもたらすが、その責任は依然、人間にあるのが現状である。自動化によって多くのルーティンワークが代替され、人間には実施する作業の選定、作業のリスク把握、作業結果への説明責任など作業に伴う意思決定が残されることになる。

 今後より汎用性が拡大し、利便性が向上していくにつれ、ルーティンワークに対してAIエージェントが代替してくれる未来はすぐそこまで来ている。その際に必要な人間の役割は、作業のレベルを定義し、どのレベルまでAIに実行してもらうのか、AIエージェントの管理と責任に集約されるのではないだろうか。

「AIエージェントとは何なのか?」「これまでのAIやRPAと何が違うのか?」「自社のビジネスにどのような影響があり、どんな新しいチャンスが生まれるのか? あるいは、どのようなリスクに備えるべきか?」。AI技術に精通していなくても十分な理解を得られるように配慮した本書は、ビジネスとテクノロジーの両面から、AIエージェントの全体像を体系的に理解し、未来へのアクションにつなげるための「羅針盤」となることを目指している。

シグマクシス著/日経BP/2310円(税込み)