多くのユーザーが日頃行っている活動への影響が大きいと考えられるAIエージェントについて、注目すべき事例を取り上げて紹介していく。各事例は、今まで個人によってばらつきがあった作業効率や作業品質といった能力が、人工知能(AI)の力によって誰が実行しても一定の効率と品質を担保できるようになるといった、人の作業効率を底上げする事例である。第2回は「調査の自動化」について。新刊『AIエージェント革命 「知能」を雇う時代へ』から抜粋してお届けする。
「Deep Research」が続々と
次に取り上げる事例は調査の自動化である。
日常生活においては、商品の購入、店の選定、サービスの吟味。仕事においては競合/市場分析、課題解決、業務改善など、何か意思決定をする場合には調査が必要になる。
調査のフローは一般的に、目的の明確化、調査計画の策定、情報収集、データの整理・分析、報告書の作成、結果の共有・活用といったステップで構成される。それぞれの段階で判断が求められ、特に情報収集やデータの整理・分析、レポート作成には多くの時間がかかる。
2024年12月にグーグルが発表した「Deep Research」は、従来の調査業務の常識を覆すものだった。このサービスでは、調査目的や調査内容をチャット形式のインターフェースに入力するだけで、調査計画の策定、情報収集、データの整理・分析、報告書の作成までのプロセスを自動的に実行し、わずか数分で結果を提供する。今まで、人間が数時間~数日かけて行っていた量の調査をサービス上で網羅的に処理し、圧倒的なスピードで完了してしまうのだ。現在ではグーグルのみならず、オープンAIのChatGPTや米パープレキシティAIが提供するPerplexityといったAI検索サービスでもDeep Researchという名称で同様の機能が提供されている他、オープンソースでも類似の機能が利用可能になっている。(※Deep Researchの技術的な詳細は書籍の第3章で詳しく説明しているので、裏側の技術に興味がある方はぜひそちらも読んでいただきたい)
このような画期的なサービスを活用して調査を効率化している事例がすでに数多く存在しており、ユーザーにとって身近なユースケースとして商品の比較選定の例を紹介する。
例えば利用者が充電器の購入に迷っているときに、Deep Researchに製品の調査をお願いしたとしよう。

プロンプトで「ノートパソコンの充電もできて、モバイルバッテリーとしても使える充電器が欲しい」とグーグル検索にテキストを打つ程度のプロンプトでDeep Researchに伝えたとする。すると、次のような見るべき観点とその詳細(詳細は記載しきれないため割愛)、例えば
●給電性能(出力W数、対応すべき充電規格、ポートの数)
●バッテリー容量(mAh/Whの意味と選び方、容量選びの目安)
●充電しながら給電するパススルー機能が必要かどうか
●サイズと重量および持ち運びの目安
●対応デバイスと互換性(充電方式/必要なケーブル/他機器への対応)
●安全性への対応
●その他便利な機能
●代表的な製品とそのおすすめ
を5分ほどで出してくれるのである。もちろん、参考にした情報ソース付きである。最終的なおすすめとその評価は図2-3のようになる。
これらの観点や出力結果はプロンプトからそのまま出力されたものを抜き出し一部マスキングして記載しているのだが、読者の方はどう思うであろうか。今までは様々なウェブサイトを巡りながら「何を気にするべきか」を判断していたかと思うが、1つのAIアプリケーションでまとめて聞く方が楽だし、便利だなと感じる人も多いのではないかと思う。
「身体性を伴う」調査が重要に
充電器の購入検討を例としたが、どのような商品でも聞けば答えてくれる上、自分でウェブサイトを探さずに勝手に検索して、まとめてくれるようになるのがこのAIエージェントの特徴であり効果であろう。
Deep Researchは現在の調査のやり方を大きく変化させうるが、このツールが普及することでどのような変化が生まれるだろうか。
仮説ではあるが、誰もがAIエージェントを通して瞬時に公開情報へアクセスできるとなると、公開情報自体の価値は低下し、企業や個人が保有する非公開情報や暗黙知の重要性が増すと予想される。すなわち、現場で直接得られる知見や暗黙裡に蓄積された専門知識が競争優位性の鍵として再評価されるだろう。特に、フィールドリサーチや対人ネットワークを通じた情報収集、現場での実体験に基づく判断など、AIでは完全には再現できない「身体性を伴う」調査がますます重要になることは、ここで述べておきたい。
シグマクシス著/日経BP/2310円(税込み)

