目的達成のために最適な空間デザインをどう考えるか――。書籍『 結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣 』では、「集客」や「長期利用」といった目的を果たすために、空間デザインに「マーケティング」の手法を取り入れて結果を出した実例を中心に紹介しています。本特集では書籍から抜粋し、筆者が手掛けたドローンスクール運営会社・ハミングバードにおける店舗の空間デザインの事例を示します。第3回では、立地に関わる工夫について述べます。
Place(立地)を逆転の発想で考える
ここまで「3C」について見てきました。ここからは「4P」を分析したプロセスを振り返ります。3Cの分析を踏まえて、ハミングバードのドローンスクールではPlace(立地)を重視しました(ちなみに4PのPlaceは流通や販路など、扱う業態に応じていろいろな解釈が可能です。建築やインテリア分野では立地と考えるとしっくりきます)。

前述のようにドローンスクールには大きな面積や高い天井が必要で、音も出るので郊外の倉庫が立地の中心であり、それが常識でした。この点を逆手に取って、「アクセスしやすい場所に必要最低限の面積と天井高でスクールを設置できないか」と考え、新たなスクールの場所として選んだのが東京・台場でした。差別化を図るために、従来型スクールのアクセスの悪さを改善し、利用者が通いやすい場所で運営することを重視したのです。
さらに、狙いを定める顧客層が若い世代である点も合わせて考えた結果、商業施設やショッピングモールへの出店というアイデアに行き着きました。ペルソナである鈴木さんも、商業施設で偶然、ドローンスクールに出会うのです。
ドローンのヘビーユーザーや仕事での利用といったニーズがあれば、自ら能動的にネットで検索し、バスで通うような立地にある倉庫のドローンスクールにまで来てくれるでしょう。しかし、鈴木さんのようなライトユーザーがそこまでするのはまれです。鈴木さんのような層をターゲットとするのであれば、商業施設の方がドローンスクールと出会う確率は圧倒的に高くなります。
勝負どころ=ライバルと異なる軸
当然、郊外の倉庫を借りるよりも賃料は高額になります。その分、売り上げを向上させる必要があるのですが、それでも賃料を最低限にする工夫は必要です。倉庫であれば潤沢に使える床面積を抑えるために、教習用のコートをギリギリの大きさにして、極力多数のコートを配置できる平面計画が必要となります。余白を最小限にするのです。
商業施設と一口に言っても様々な特徴があります。新宿や銀座の老舗デパートなど不況知らずで高い賃料設定が可能な施設もあれば、近年のEC(電子商取引)化のあおりを受けて苦戦している施設も目立ってきています。
そういったテナントの集客に苦戦している施設であれば、上層階などで空きスペースが多く存在する可能性が高まります。まとまった面積で借りるテナントであれば、金額交渉を有利に運べます。ハミングバードもこうした点に着目し、賃料の最小化を実現しました。
話が少し脱線しますが、ECの台頭により商業施設で商品が売れなくなり、テナントがどんどん離れていく傾向にあります。新型コロナウイルス感染症の広がりによって、EC化が加速したために、「これからの商業施設はどうあるべきか」という問いを最近よく耳にします。EC化によって「空いた場所に何をつくるべきか」という議論とも言えます。
髪を切ったり、エステをしたり、体験学習をしたり――。こうした美容、教育、医療など人と人が接する業態はどうしてもリアルの場が必要なので、既存の商業施設の空間を活用しやすいと言えるでしょう。ドローンスクールのように広い面積が必要なテナントは、施設管理者側にとっても優良顧客です。交渉において、好条件を提示してくれる確率は高まります。アクセス性を求めるサービス業が、テナント集めに苦戦している有名商業施設に入居する事例は、今後増えていくでしょう。
人との接点が強みの商業施設=EC時代に成功
Price(価格)競争力をアクセスの良い商業施設でも実現
ショッピングモールには、たくさんの買い物客が行き交います。ドローンスクールお台場が入っていたヴィーナスフォートの年間集客数は1000万人に達していました。ショッピングモール内にドローンスクールを設ければ、その隣には確実に物販などの店舗が入ります。ショッピングモール内の立地という条件を踏まえれば、商品や価格、宣伝は、郊外で独立して立地する施設とは大きく異なるのが普通です。

ところが、今回のドローンスクールではPrice(価格)は特別な設定ではありません。一般的なドローンスクールの講習費用はハミングバードの講習費用とほとんど差がないのです。好立地で面積当たりの賃料が高いスクールが、他のドローンスクールと同等の価格で勝負できている理由はシンプルです。立地の良さや後述する集客の工夫などによって集客数を高めていることと、前述の利用面積を抑える工夫とが効いているからです。
(書籍『結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣』を基に再構成)
[日経クロステック 2026年5月20日付の記事を転載・改題]
萩原浩(著)/日経BP/2640円(税込み)
