東京大学名誉教授で、iPS細胞研究を支える基盤技術の開発を通じてその誕生にも貢献した血液学者・北村俊雄氏の著書『 東大名誉教授が教える 死なない生き方 科学でひもとくアンチエイジングと健康寿命 』(日本経済新聞出版)は、エビデンスに基づく健康長寿のガイドブックともいうべき一冊。北村氏に死なない生き方のポイントを聞く特集、今回のテーマは「老化と病気はどこから来るのか」です。

政治的自由のある国ほど実年齢より若々しい

 2025年7月、世界的に権威のある科学雑誌に、社会環境と老化速度に関する興味深い論文が発表されました。40カ国、16万人以上を対象に、実年齢と比べて老化がどの程度進んでいるか、あるいは若々しいかを調べた研究です。チリの研究者を中心に、ヨーロッパやアメリカなどの研究者が参加し、南米6カ国、ヨーロッパ27カ国、アジア4カ国、アフリカ2カ国のデータが集計されました。北米のデータは含まれておらず、アジアの4カ国は中国、インド、イスラエル、韓国で、日本は含まれていません。
 結果を要約すると、次のようになります。

  1. 実年齢よりもっとも若々しいのはヨーロッパで、次いでアジア、南米、アフリカの順に老化が進む傾向
  2. ヨーロッパでは、北・西ヨーロッパのほうが南・東ヨーロッパよりも若々しい
  3. 高所得者のほうが実年齢より若々しい傾向が見られる
  4. PM2.5などによる大気汚染は老化を促進する
  5. 多様な意見や団体が存在し、集会などが自由できる政治的自由のある国ほど、実年齢より若々しい傾向がある

 日本のデータは含まれていませんが、生活環境の欧米化を踏まえると、北ヨーロッパに近い結果を得られると推測できます。おそらく日本は最も若々しい部類に含まれるでしょう。個人的には特に5を興味深く感じました。政治的な自由がコミュニティへの参加を促し、若々しさを維持するブースターになっているのではないでしょうか。

カラオケは新曲に挑戦、歌詞を見ずに歌う

 老化と病気はどこから来るのか。その答えを一言で言うと、「慢性的な炎症」です。では、その慢性的な炎症はどこから生じるのでしょうか。主な要因として、ストレス、アルコール、肥満、喫煙の4つが挙げられます。

 このうち、喫煙はやめる以外に有効な対策がありませんので、残る3つについて考えてみます。
 まずストレスについてです。ストレスを受けると、体内でコルチゾールやアルドステロンといったステロイドホルモンが分泌されます。これらは筋肉量の減少や免疫抑制、高血圧を引き起こし、病気の原因になります。また、ストレスは活性酸素の発生を促し、遺伝子や組織を傷つけることで老化を進めます。
 「ストレスのない生活」を実現することは現実的ではありませんので、上手に解消する方法を持つことが最も重要です。比較的手軽な方法として、私はカラオケで大きな声を出すことや、体を動かすダンスをすすめています。
 カラオケでは、画面の歌詞を見ずに歌うことができるように覚えておくとよいでしょう。懐メロではなく、新しい曲に挑戦することが大切です。一から覚えることで脳を使うことが、脳の老化防止につながるからです。記憶力を保つサプリメントを摂取するよりも、よっぽど効果的だと考えています。

『東大名誉教授が教える 死なない生き方 科学でひもとくアンチエイジングと健康寿命』(北村俊雄著、日本経済新聞出版)/画像クリックでAmazonページへ
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科学的に正しいお酒の飲み方とダイエット法

 かつて「酒は百薬の長」と言われていましたが、現在では肝硬変やさまざまながんのリスクを高めるため、飲まないほうが良いという考え方が主流です。ただし、アルコールへの耐性には個人差があり、一概には言えません。
 日本人は遺伝的にアルコールに弱い人が多く、顔が赤くなる人は特に注意が必要です。私自身も検査でアルコールに弱い体質とわかり、現在は月に1~2回、外食時に少量のワインを楽しむ程度にしています。
 肥満を防ぐダイエット法として、最も簡単で効果的なのは、毎日体重計に乗ることです。可能であれば、朝夕の2回測定すると、より効果が高まります。
 死亡率が最も低いBMIは、女性で21~27、男性で23~27とされています。適正体重は意外と重く、身長160cmの女性であれば54kg~69kg、170cmの男性であれば66kg~78kgが目安になります。短期間での急激な減量は避け、1カ月に1~2kg程度のペースの減量にとどめることが大切です。

健康寿命を延ばす食事と睡眠

 元気で長生きするためには、好きなものを食べて幸福感を得ることも重要です。もちろん、暴飲暴食や偏食は避け、栄養バランスを意識する必要があります。私は、肉を食べた翌日は魚にするなど、食事内容を意識的に調整しています。野菜や果物も積極的に取り、塩分は控えめを心がけています。日本食は塩分が多い傾向にあり、高血圧や腎機能低下のリスクを考えると、減塩は重要です。

 睡眠については、就寝の3時間前からカロリー摂取を控える、就寝前にモニターを見ない、照明を落とすといった工夫が、眠りの質を高めるとされています。ただし、あまり神経質になりすぎると、かえって眠れなくなることもあります。

 日本人の平均睡眠時間は先進国の中で最も短い一方、平均寿命は世界トップクラスです。あまり気にし過ぎず、無理のない範囲で睡眠環境を整えることが大切だと考えています。ただし、慢性的な不眠や日中の強い眠気がある場合は、医師に相談してください。

取材・文/茅島奈緒深 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子

東大名誉教授が教える 死なない生き方
1回目  北村俊雄 人生150年時代を目指すアンチエイジングと健康革命 (7月1日公開)
2回目  政治的に自由な国の国民は若々しい 老化を防止するカラオケの歌い方 (7月3日公開)←今はここ
3回目 「定年してから」では遅い 老化の分岐点となる40代、50代の過ごし方(7月6日公開予定)