あなたの周りには、みんなより特段多く休んでいるわけでもないのに、はつらつと仕事に取り組み、さらには人一倍成果を出している人はいませんか? 実は、ひと口に「休暇」や「休み」といってもいくつかの機能と役割があり、同じ時間だけ「休暇」や「休み」があっても、とり方によって、その効能は大きく変わると法政大学キャリアデザイン学部の梅崎教授は指摘します。どうすれば、上手に休むことができるでしょうか。「戦略的休暇」のとり方を見ていきます。

学び続けるための「捨てる」習慣

 本連載ではこれまで、クリエイティビティ(創造性)を高めるための「休み方」として、3つの切断的休暇の機能を紹介してきた。接続ばかり過剰になってしまう社会だからこそ、切断の価値を紹介したいと思ったのだが、もちろん接続的休暇にも切断とは別の価値はある。創造的になるために積極的に接続を選択すべき時もあるのだ。

 例えば、Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語である「ワーケーション」でも独り籠(こ)もって仕事に集中するときもあれば、ワーケーション先で地域関係者と交流しながら一緒に地域課題を考えるという地域課題解決型ワーケーションもある。前者は切断系、後者は接続系と言えよう。

 なぜ、わざわざいつもの職場を離れて地域に接続するのかと問えば、「苦労して身に付けた仕事のやり方」を捨てるためだと答えることができる。
 我々は、仕事を続けながら徐々に仕事のやり方を身に付けていく。職業人の学びは、OJT(On the JOB Training)が主流なのだ。
 OJTの課題は、技能や知識を身に付けた「後」である。仕事に慣れた時点から人は学ぶことがなくなり、スムーズに仕事が進むので試行錯誤の挑戦がなくなる。学んだことが生涯にわたって古くならず、必要とされ続けるならば、それでもよいのかもしれないが、時代と共に環境が変われば技能・知識は陳腐化し、新しい技能と知識が必要となる。

 要するに、新しい学びのために学んだことを棄却(アンラーニング)しなければならないのである。子どもの学びとは異なる社会人の学びの難しさとは、ラーニングとアンラーニングを繰り返し、らせん状に成長し続けなければならないことだ。

あえて「効率を悪くする」という生みの苦しみ

 フィンランドの教育研究者のユーリア・エンゲストロームは拡張的学習や活動システムという理論を使って「らせん状の学び」を説明する。
 この理論では、人が一つ仕事をする際に、同じ対象、同じチームメンバーとの協業、知識やルールを職場コミュニティで共有していることに着目する。つまり、学びを個人の視点ではなく、活動システムの中で捉えようとしている。要するに、学びが止まってしまうのは、一つの活動のシステムに慣れてしまったからなのだ。
 だから成長のためには、別の活動システムに飛び込み、仕事効率性を一時的に下げる必要があるのだ。我々は、それまでの「当たり前」を問い直すことによって、次の新しいモデルを作り上げようとする。

 課題解決型ワーケーションという接続的休暇は、中期のキャリアに到達して「学びの高原状態」に入ってしまった人たちにとっては、新しい学びである。我々は、仕事がそこそこできるからこそ、「越境する拡張的学習」へ舵(かじ)を切るべきなのだ。

図1 越境する拡張的学習
(図制作=キャップス)
(図制作=キャップス)
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変化に対する不安を好奇心に変えるには

 ところが、この「慣れた活動システムから離れる」ということは、不慣れになることを意味するので不安は避けられない。実際、不慣れになる不安を避けて学びの機会を捨てている人は多い。

 では、この避けることができない不安とどのようにお付き合いすればよいのか。
 教育工学者の上田信行氏は、「本気で物事に取り組んでいるときのワクワクドキドキする心の状態」を「playful(プレイフル)」と呼んでいる。そのようなplayfulな心理状態が、積極的な深い学びにもつながるし、新しい価値の創出にもつながると主張する。

 上田氏が提案する概念を一般的に使われる言葉に置き換えれば、「好奇心があふれる状態」になる。
 学校を卒業してすぐの新入社員の頃を思い出してほしい。見るもの聞くものすべてが初めてで不安もあったが、知る喜びがあっただろう。また、初めての海外旅行はどうだろうか。こちらも不安があるのだが、驚きとともに何でも吸収したのではないか。

 つまり、playfulな心理状態とは、ただ単に「楽だ」という意味ではない。不安というマイナスが、ワクワクというプラスになることなのだ。

「遊び心」と「学び」は実は不可分

 遊びの文化・哲学的考察を行ったロジェ・カイヨワの名著『遊びと人間』(多田道太郎・塚崎幹夫訳、講談社学術文庫、1990年)では、「アゴン(競争)」「アレア(運だめし)」「ミミクリ(ものまね)」「イリンクス(めまい)」の4分類を提示した。

 イリンクスの遊びとしては、スキー、遊園地のジェットコースター、ブランコなどがあげられる。他3類型と比べても独特で、身体の感覚に基づく遊びであり、あえて安定の感覚を意図的に乱すことで陶酔を得ようとする。

 このイリンクスの「乱すことの魅力」に注目したい。ジェットコースターが「遊び」なのは、不安自体がplayfulだからなのだ。すなわち、そんな変換効果が「遊び」には隠されており、そのイリンクス時の心の状態こそがplayful(遊び心がある)なのだ。
 学んだことをあえて捨てる不安定の感覚が、新しい学びを促す魅惑となる。

 ところが、我々は、長い学校生活の悪影響を受けて、学びを「勉強」という概念に狭めてしまい、その勉強と対立したものとして遊びを捉えてしまう。「遊んでばかりいないで勉強しなさい」と何度言われたことか…。
 学生ならば、また新入社員ならば、それでもよいだろう。しかし、長い職業生活の中、学び続けるためには、「不安なplayfulワーク」を見つけるしかない。

積極的休暇の4機能

 このように休暇を積極的に選択できるならば、切断だけではなく接続も別の知的刺激を与えてくれることがわかる。 前回 、説明した切断的休暇による3つの機能に、今回の接続の1つの機能を加えて「積極的休暇」の4つの機能を提示したい。

図2 積極的休暇の4分類
(図制作=キャップス)
(図制作=キャップス)
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 我々の課題は、それぞれの目的に合わせてどの機能の休暇を使いこなすのかを理解し、そして、うまくスイッチングすることである。

 注意すべきは、同じ休暇でも使う側によって4つの機能の違いが生まれることである。
 積極的切断でマインドワンダリングをしようと思ってワーケーションにやってきたが、地元の関係者や職場仲間が集まる場所なので、結果的に意図しないplayfulな接続になってしまう失敗がある。逆に、接続しようとしてやってきたが、1人になってしまった失敗がある。

 もっと小さな職場のコーヒータイムという短い休暇でもスイッチングは重要だ。部門を超えた仲間とワイワイと会話したいのか、独りぼんやりしたいのか、どのタイプの休暇を過ごしたいのか、我々は休暇の機能に意識的にならねばならない。
 理想の休暇は、積極的で、戦略的で、そしてリズミカルなスイッチングなのだ。

切断と接続の休暇のマトリックス

 このようなスイッチングがとても難しいことは、この連載でも何度も繰り返して述べてきた。

 私は、ゼミの学生たちと一緒に、社会人が参加できる休暇のワークショップを企画したことがある。積極的休暇に意識を向けて、より戦略的に休暇をとるための一歩となるワークショップだ。

 そこで提案した書き込みシートは次のようなものだ。
 まずは1人で休暇の機能(「切断的な休暇」か「接続的な休暇」か。その休暇はどのくらいの頻度でとっているか)を意識しながら、自身の日常を振り返って、下記のようにマトリックスに書き出していく。これで自分がどのような休暇をとっているのかが意識されるだろう。例ではボックスが埋まっているが、埋まらない人や接続ばかりに偏っている人がいた。ワークショップでは、4~5人でグループを作り、相互に比較して意見交換をする時間を設けた。もちろん、1人で行うだけでも十分な効果がある。

表1 積極的休暇のマトリックスの例
(表制作=キャップス)
(表制作=キャップス)
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 このワークショップによって、ふだん何も考えずに選択している、もしくは勝手に選択させられている休暇を振り返り、その機能を意識することができたと思う。
 休暇の機能を強く意識することから戦略的休暇の第一歩が始まるのだ。

◆今日のひと言◆
休暇にこそ「リズミカルなスイッチ」という戦略を!

(イラスト:PureSolution/stock.adobe.com)
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