職場や消費の現場で、あるいは少子化のキーパーソンとして、広く注目される「Z世代」。「会社をすぐ辞める」「政治に無関心」「恋愛・結婚は面倒」…こうしたメディアや世間で語られるイメージの背後で、実際の令和の若者・Z世代の多くは何をどう考え、なぜそのように振る舞っているのでしょうか? 世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが、Z世代1600人への大規模調査と55人へのインタビュー調査をもとに書いた『Z世代の頭の中』(日経プレミアシリーズ)から抜粋、再構成して、令和の若者のリアルを紹介します。第3回は、Z世代と選挙候補者の関係性について。昨年実施された選挙を分析します。
選挙と推し活の意外な共通点
2025年、国民民主党の玉木雄一郎氏は、あるネット系メディアに出演した際、「(自分は)売れない地下アイドル時代が長かった」と話しました。
いわく、小さな政党の党首の話題は、地上波と新聞がほとんど取り上げてくれない。ゆえに「自分のオウンドメディアを持たねば」と、真剣にSNS(交流サイト)やYouTubeに取り組み、「ABテストをやりまくって、いいねが付いたものを残して、最後生き残ったものが結果ヒットしている」とのこと(『ABEMA Prime』(AbemaTV)[1月24日放送])。
ちなみに、ABテストとは、要素が異なる2つ以上のパターンをランダムに提示し、その結果得られたデータから、より効果的な訴求法を探るという、いわばアジャイル型(「実装テスト」を繰り返す)のマーケティング手法です。
玉木氏の発言は、「推し活」のほか、「共創」や「プロセスエコノミー」の概念を彷彿(ほうふつ)とさせます。前者は、異なる立場の人や団体が協力して新たな商品、サービスや価値観などを創り出すこと。後者は、近年流行のオーディション番組(JO1、INI、ME:Iらを生み出した「PRODUCE 101 JAPAN」<TBSテレビほか>)などに見られるもので、いずれもダイヤの原石のようにキラリと光るグループやメンバー候補(地下アイドル)を、皆で力を合わせて表舞台に送り出そう、完成形に近づけていこうとする、一般参加型の手法です。
地下アイドルに近い候補に「初恋」に落ちた人々
24年には、東京都知事選挙や兵庫県知事選挙でも、「地下アイドル」に近い候補者が、若者たちの共創意欲を大いに刺激しました。
一人は、選挙直前まで、人口約2.6万人の広島・安芸高田市長だった、石丸伸二氏。同年の都知事選に「無所属」で出馬し、10、20代の約40%の票を獲得しました。
もう一人は、同年の兵庫県知事選に出馬した、斎藤元彦氏。彼は前兵庫県知事でしたが、パワハラ疑惑などで不信任を議決され失職し、24年は「出直し選挙」でした。いったんは多くを失い、JR須磨駅前で「たった一人」の辻立ちから街頭活動をスタートさせた彼は、10、20代から約60%もの票を得たとされています(いずれも投票当日、NHKによる出口調査より)。つまり両者とも、当時は若い世代からの支持が絶大だったのです。
また両者の選挙活動では、SNS(交流サイト)にも注目が集まりました。いずれも「無所属」や「たった一人」の弱者に見える彼らに、有権者、とくに若い世代が「自分がなんとかしなければ」と当事者意識を抱いた。地下アイドルの「推し活」に近い状況だったと言えるでしょう。
たとえば石丸氏。都知事選の選挙スローガンに「(私たちが)東京を動かそう」を掲げ、有権者の参加意欲をかき立てるとともに、選挙演説に訪れた参加者たちにこう呼びかけました。「皆さんのスマホに入っているLINEのお友達、手当たり次第に、石丸伸二の動画を送り付けてください」。
一方、斎藤氏の応援団は、彼の支持者に対し、SNS上で「#さいとう元彦知事がんばれ」とハッシュタグを付けて投稿するように呼びかけ、やがて派生的に「#さいとう知事ありがとう」のタグも生まれました。この「ありがとう」の言葉は実に巧みで、それまでの前兵庫県知事としての彼の功績を可視化するとともに、おそらく「みんなで『ありがとう』と言い合って幸せになろう」とのニュアンス。こうした「共創」の感情が付加されたからこそ、上の世代の有権者のみならず、Z世代の一部にも響いたと言えるでしょう。
今回のインタビュー調査でも、両者を支持したZ世代から、それぞれ「自分も、政治で協力できることがある(=石丸氏の動画のLINE送信)って分かって、うれしかった」や「(斎藤氏の)ハッシュタグ付けてつぶやくだけで、社会全体が明るくなる気がした」などの声があがりました。
自分のたった一つのアクションが「何かいいこと」につながるかもしれない。その喜びは、自分に自信がないZ世代にとって、ある種の自己肯定感や共創欲求を満たすものだったのではないでしょうか。
また、フリーランスライターの畠山理仁氏は、24年の石丸現象や斎藤現象について、「政治的初恋」という言葉で説明します。すなわち、それまで政治に興味がなかったような人々が、石丸氏や斎藤氏を見て、「この人を応援しなきゃ」といてもたってもいられず、街に出て選挙のボランティアなどに取り組む。その上気した様子が、まるで初恋のようだというのです(『長野智子アップデート』(文化放送)[同12月23日放送])。
画面に「たまたま」流れてきた候補者の姿
他方、成蹊大学文学部の伊藤昌亮教授(社会学者)は、石丸氏のTikTok動画の一部において、キャプションとハッシュタグを分析したとのこと。すると、「政治家のメッセージであるにもかかわらず、そこでは政治的な語彙が一切使われておらず、政見や政策が語られることもない」ことに気づいたそうです。
逆に、そこで打ち出されていたのは、話し方のコツや仕事のテクニックなど、「自己啓発書」に書かれているような内容だったとか。伊藤氏は「(いまの若者たちは)『世の中をどうこうする』よりも『自分を何とかする』だけで手一杯になっている」とも言います(24年『WEB世界』(岩波書店)[8月16日掲載])。なるほど、だからこそ若者たちは、石丸氏の自己啓発書にあるようなリアリティーに共感したのかもしれません。
また、自己啓発寄りのハッシュタグなどが付いた動画は、選挙や政治とまったく違う目的でYouTubeやSNSを見ていた若者にも、偶然ヒットする可能性があります。そうしたキーワードを基に、AI(人工知能)が「お薦め」に表示することもあり得るからです。
Z世代は夜寝る前などに、動画やSNSをぼんやり「流し見」する傾向があります。インタビュー調査でも、玉木氏や石丸氏、斎藤氏らを支持するZ世代が、「なんとなく(彼らの)動画が流れてきた」や、「たまたま友達が(X上で)リポストしているのを見てハマった」など、軒並み「なんとなく」や「たまたま」を口にしました。
つまり入り口は、候補者の個人名を検索するといった能動的な行動とは限らず、偶然レコメンドされた動画や投稿を「流し見」するなど、受動的な関わりが原因かもしれない。Z世代の多くは流し見において、自身の感性(エモい)に近い領域(「界隈(かいわい)」)かどうか、またその情報が「自分の世界を広げるか否か」にアンテナを張りますから、入り口では夢のような政策を語るより、「役に立ちそう」や「イイ感じ」と感じさせることが重要です。
選挙は常に流動的で結果を予測するのは難しく、特に直近に控えている参議院議員選挙では動向が変わることも考えられますが、今後の流れを左右する要素として、デジタル化やSNS自体が絶対に無視できないことは確かでしょう。
牛窪恵著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)
■開催日時:2025年7月18日(金)12:00~13:00
■参加:事前登録制、アーカイブ視聴
■開催方法:Zoomミーティング
■詳細・お申し込みはこちら ⇒ 7/18『Z世代の頭の中』出版記念/牛窪恵オンラインセミナー

