長いコトバは嫌われる』を出版した横田伊佐男氏は、同書の中でたくさんの「伝え方の法則」を紹介している。今回は法則はどのようにしてできるのか、そして法則の効果について伺った。

コピーの違いでクリック率に2.5倍の差が出た

前回「牛1頭食べたらいくら? 短いコトバで惹き付ける『4つの法則』」では、人を惹き付ける「4つの法則」について、それぞれ事例を挙げていただきました。今回は法則の成果について教えてください。

横田伊佐男氏(以下、横田):広告業界では常識ですが、キャッチコピーはいわゆるA/Bテストという手法で効果を検証しています。A案とB案の2つのキャッチコピーを同時に展開し、どちらの反応がいいのか、またそれはなぜなのかを繰り返し検証しているわけです。

 例えば、レシピサイトの「クックパッド」は、有料会員に誘導するためにいくつかのキャッチコピーを展開しました(※)。

 以下2つのキャッチコピーは、一見すると大差ないように思えますが、実は反応(クリック率)に約2.5倍もの差が出たのです。どちらのキャッチコピーの反応がよかったか分かりますか?

2.5倍とは大きな差ですね。どっちだろ、左の「100万人が使ってる」のほうですかね?

横田:残念ながらハズレです。右の「96%が実感」が「100万人が使ってる」の約2.5倍の反応でした。

 ただ、アタリ、ハズレはどうでもいいんです。

え? せっかくテストしたのに、結果はどうでもいいんですか?

横田:はい。もっと大事なことがあるからです。それは、この結果から何が分かったかを「法則化」することです。

 左の「100万人」は“絶対数値”です。100万人は、仙台市の人口とほぼ同じですごい数かもしれませんが、比較対象がないので、すごいことが分かりにくい。一方、右の「96%」は“相対数値”です。100%に比較して96%なので、圧倒的多数ということがすぐに分かります。

 以上のことから次の法則が浮かび上がります。

[相対数値(例:96%)>絶対数値(例:100万人)]

つまり「“相対数値”は“絶対数値”より反応がいい」これが法則になります。

『長いコトバは嫌われる メモ1枚! 人生を変える最強の伝え方』(横田伊佐男著、日経BP)
『長いコトバは嫌われる メモ1枚! 人生を変える最強の伝え方』(横田伊佐男著、日経BP)
※出典:ライアン・ホリデイ(2013)『グロースハッカー』(日経BP)

店主を悪夢から救った伝える順番の法則

なぜ、法則化しなければならないのですか?

横田:「法則化」すると、様々な場面に応用できて、相手に伝わり動いてもらう再現性が高まります。例えば、相手に行動してもらう伝え方にも「順番の法則」があります。それは、伝えたい内容を3つに分けて書く「共感・納得・行動」という法則です。

(『長いコトバは嫌われる』より)
(『長いコトバは嫌われる』より)

「共感・納得・行動」ですか?

横田:そうです。伝え方の順番です。

 まず、相手を主語にして「共感」してもらう。

 次に、言いたいことの論拠を明確にして「納得」してもらう。

 最後は、相手が動きやすいように「行動」を小さく狭めて提案する。

 これもコピーライティングの世界で実証済みの鉄板法則です。

この順番で伝えると、相手に伝わり動いてもらう再現性が高まるのですか?

横田:そうです。論より証拠に、最近の事例をご紹介しましょう。

 群馬県のとある焼肉店の店主が、ある賭けに出ました。地元での来客数に限界を感じ、東京・赤坂に約80席の大型店舗を出店することを決意したのです。赤坂といえば、高級焼き肉の激戦区です。味と安さには自信がありましたが、初めての東京出店。しかも広告予算はゼロ。

 店主は、広い店内に誰もお客さんが来ない悪夢を見る毎日だったそうです。そこで店主自らのFacebookにすべてを託し、出店の告知を投稿したのです。

フォロワー数などは分かりませんが、個人レベルのSNS(交流サイト)投稿では限界がありませんか?

横田:その通りです。店主のSNSの「いいね!」は平均50個ほど、たまに数個のコメントがつく程度なので、影響力は高が知れています。

 店主が、たまたま私の受講生でもあったので、投稿内容を見る機会がありました。当初の投稿は、語る順番がめちゃくちゃで、「来店してもらいたい」という自分の思いばかりが優先する、典型的な「相手」が不在の文章でした。

 そこで、「共感・納得・行動」で書き直すことを助言しました。

 これが、実際の投稿です。

(出典:肉匠親方赤坂店 店主 三橋氏のFacebook投稿より)
(出典:肉匠親方赤坂店 店主 三橋氏のFacebook投稿より)

 「もっと見る」の先がどんな内容だったかは、拙著『長いコトバは嫌われる』に全文掲載されているので、ご参照いただくとして、注目したいのは反響です。

 共感を表す「いいね!」は、通常の20倍近くの931。

 行動を表す予約の「コメント」は、439件。

 応援を表す「シェア」は54件。

 現在もお店は連日にぎわっており、店主は悪夢から開放されたそうです(笑)。

個人レベルと失礼を申し上げましたが、すごい反響ですね。

横田:結果として、ネット上の気になるネタを調査する「ねとらぼ」が、2022年6月の「赤坂の焼き肉名店」でランキング1位に選出しています(出典:ねとらぼ「『赤坂の焼肉の名店』人気ランキングTOP10! 1位は『肉匠親方 赤坂店』【2022年6月版】」2022年6月2日公開より)。

 当初の独り善がりの投稿だけでは、ここまでの反響はなかったと思います。その意味で、「法則を再現する」というのは伝え方がうまくなる最高の近道なのです。

書籍には、ほかの事例もありますか?

横田:はい、豊富な事例を載せています。今回ご紹介したのは、小規模の飲食店でしたが、大企業の事例もあります。誰もが知っている企業実例もご紹介しましょうか。

ぜひ、お願いします。次回は、大企業事例についてご紹介いただきます。

日経ビジネス電子版 2022年7月19日付の記事を転載]