「優秀」な人が集まっているはずの組織で、なぜ不条理な運営が繰り返されるのか? 今回は組織の「構造的無駄」を背負わされるいまどきの管理職と、彼らがお膳立てをさせられることの多い「セレモニーのような会議」について。日本企業の“組織的茶番”を分析する組織学の第一人者、太田肇・同志社大学名誉教授の新刊『なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか 身近な疑問からみる日本型組織の「無駄の構造」』から抜粋します。

「部下への忖度や配慮」が激増

 管理職は「共同体型組織」の中核に位置する。彼らは単なる指揮官ではなく、メンバー全員を納得させ、組織という名の「ムラ」の秩序を平和に維持する守護神としての役割を担わされる。

 彼らの仕事は、トップからの指示や命令に従うことだけではない。日々の業務の中で、部下や他部署からくる無数の相談を受け止める必要がある。その際、トップが今どのような立場に置かれ、何を求めているかを過剰なまでに読み取り(忖度)、それを部下に角が立たないように伝達しつつ、現場のマネジメントに反映させていかなければならない。

 さらに厄介なのは、高度成長期に役職も階層も無節操に増え、一度作られたポストが既得権益として膨れ上がったまま維持されている点だ。管理職間の忖度や「根回し」という名の儀礼的コミュニケーションには、現代においても膨大な時間と精神的エネルギーが費やされている。

 加えて近年、見逃せないのが「部下への忖度や配慮」の激増である。

 以前の日本企業であれば、管理職は上には気を使いつつも、部下に対しては少々無理な要求を突きつけたり、自分の雑用を命じたりすることも当たり前に行われてきた。

 しかし近年、コンプライアンスの強化により、不用意な言動は即座にパワハラ扱いされ、最悪の場合は社会的な糾弾を受けるリスクをはらむようになった。

 さらに、人手不足を背景に、厳しく接することによって有能な部下が辞めるリスクも大きくなった。エンが2024年に行った調査によれば、「本当の退職理由」のトップは「人間関係が悪い」ことである。

 なお、リクナビNEXTが2005年に行った調査でも、退職理由の中で「上司との人間関係」がダントツに多い。部下に嫌われ、離職者が出ることは、今の管理職にとって自身の評価を決定的に下げる致命傷となる。

 結果として、現代の管理職は上に対しても、横に対しても、そして下に対しても、全方位的に細かな配慮と顔色うかがいを求められる「全方位忖度マシーン」へと変貌しているのである。

波風を立てないことが第一条件

 とくに日本の共同体型組織では、表立った対立や摩擦が極度に忌避され、「序列」と「和」が絶対的な正義とされる。とにかく空気を乱さない、波風を立てないことこそが優れた管理職の第一条件とされるのだ。

 例えば、公式の会議の場で異論が噴出することは、事前の根回しが不十分であったことを意味する。管理職の真の役目は、参加者全員にあらかじめ個別に意見を聞き、納得が得られない者には事前に説得や妥協案を提示して、会議を「無風」で終わらせるためのシナリオを描くことにある。上司だけでなく、関係するすべての部署の顔を立てておかなければならない。

 決裁を上げるプロセスも同様だ。いきなり本番の印鑑をもらいに行くなどはご法度であり、事前に水面下で話を通し、非公式な了承を得ておくのが作法である。

 つまり、日本の組織における会議や決裁は、実質的な意思決定の場ではなく、すでに行われた合意を追認するだけのセレモニーであり、管理職はそのお膳立てをする「黒子」に過ぎない。

現代の管理職は、上に対しても、横に対しても、下に対しても、全方位的に細かな配慮を求められる(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
現代の管理職は、上に対しても、横に対しても、下に対しても、全方位的に細かな配慮を求められる(写真:metamorworks/stock.adobe.com)

 さらに、部下一人ひとりの性格や能力、家庭の事情、人間関係の相性までを考慮しながら、腫れ物に触るように仕事を割り振り、調整しなければならない。部下が思うように仕事をこなせないときや、リフレッシュのために休暇を取ったときは、その穴を埋めるために自らが実務に乗り出し、カバーする。

 皮肉にも、階層が上がるほどに、管理職は「最も高給なプレイング・ワーカー」として実務の泥沼に沈んでいくのである。

「『絶対に失敗するプロジェクト』が全会一致で走り出す」「みんなが無駄だと思っている業務がなぜか永遠に無くならない」……「優秀」な人が集まっているはずの組織で不合理な運営が繰り返されるのはなぜか? 組織学の第一人者が、「組織と人の真実」に迫る。

太田肇著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)