プロバスケットボールリーグ、Bリーグの川崎ブレイブサンダースで活躍中の篠山竜青選手は、熱狂的な『 SLAM DUNK(スラムダンク) 』(井上雄彦著/集英社)ファンとして知られる。そこで、パリ五輪開幕を機に『SLAM DUNK』の魅力と日本バスケの過去・現在・未来についてインタビューを行った。第1回は、2014年から7季連続で川崎ブレイブサンダースのキャプテンを務め、2019中国ワールドカップでも日本代表のキャプテンに指名された篠山選手のキャプテン観を聞く。また、トム・ホーバス・ヘッドコーチが変えた現在の日本代表とパリ五輪の展望についても語ってもらった。

キャプテンは中間管理職

『SLAM DUNK』の主人公は桜木花道ですが、バスケは素人で、試合では縁の下の力持ち的な役割が多いですね。しかし、桜木の言動をきっかけに好転する試合も多い。これも一つのリーダーシップだと思います。キャプテン経験が豊富な篠山選手から見て、桜木はどう映りますか?

 桜木みたいなキャラクターは現実にはあまりいませんが、バカになれる人は強いなと思います。僕も常にポジティブな雰囲気をつくってチームにエネルギーを与えたいと思っているので、桜木や宮城リョータのようなムードメーカー役になろうと意識している部分があります。逆に、赤木(剛憲)キャプテンのように孤高の存在として組織を進めていくようなキャラは、僕にはない部分だと思います。

篠山選手は、2019中国ワールドカップで日本代表キャプテンを務めました。短期間で一体感のあるチームづくりをするために意識していたことはありますか?

 まずは、1回1回の練習の質を高めることでした。そのために、代表メンバーの気持ちをくみ上げてコーチ陣とコミュニケーションを取ることを大切にしていました。チーム全体の話でいえば休みが欲しいとか、バスケットの話でいえば複雑な戦術を詰め込みすぎてもコートですべてを体現するのは難しいから、シンプルな戦術にしようとか。サッカー元日本代表の長谷部誠さんも「キャプテンは中間管理職」と言っていますし、あの時は中間管理職的な役割が多かったと思います。

 「ビジネスクラスで移動したい」と伝えたのも2019中国ワールドカップの時です。予選の時は移動はエコノミーだったので、「そろそろビジネスでどうでしょうか」とお願いをしました。僕たちもキツイですけど、身長2メートルの選手の隣に座る一般の方もかわいそうですよね。おそらく、今の日本代表はビジネスクラスでの移動が当たり前なので、代表のスタンダードも上がってきていると思います。

代表の価値を高めたトム・ホーバスHC

日本は、2023年のワールドカップでアジア1位になり、パリ五輪の出場権を獲得しました。篠山選手から見て、日本代表はどんなふうに変わりましたか?

 過去の男子日本代表はチームとしてまとまらず、結果が出ない時期もありました。代表活動のフィーが低くて、待遇も良いわけではない時期があったと思います。また、Bリーグが始まる前は国内リーグが2つに分かれていて、選手を代表に派遣しないクラブもあり、日本バスケ界として足並みがそろっていなかった印象です。

 そこからまず、八村塁や渡邊雄太という個で影響を与えられるタレントが出てきて、ニック・ファジーカスという帰化選手が日本代表に入り、2019中国ワールドカップや東京五輪に出場しました。一つ目の変化は、「日本のバスケも世界に届くのだ」というメッセージを発信できたことだと思います。

男子バスケは東京五輪で3戦全敗した後に、トム・ホーバス氏がヘッドコーチに就任しました。

 そして、男女の違いはあるにせよ、世界で結果を残したトムさんがヘッドコーチに就任したことが、すべてを変えたと思います(※)。トムさんが最初に取り組んだのが、日本代表としてプレーしたい選手を集めることです。けがのリスクやクラブとの兼ね合いを考えてモチベーションが上がらない選手は、どんどん切っていった。本当にやる気のある選手を代表に残す姿勢を貫いたことで、メンタルのトーンセットをしたのだと思います。

※トム・ホーバス氏は女子バスケ日本代表のヘッドコーチとして東京五輪で銀メダルを獲得。

「トムさんは、モチベーションの上がらない選手をどんどん外しました」と話す篠山竜青選手
「トムさんは、モチベーションの上がらない選手をどんどん外しました」と話す篠山竜青選手
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トム・ホーバス・ヘッドコーチは、『SLAM DUNK』でいうと桜木花道のように周囲の空気に左右されない行動をしたのかなと推察します。

 A代表(国のトップチーム)までいくと、おのおのの選手の事情があるし、いろいろな方々が関わってきます。個人的には、周りの空気になびかず、「本当にやる気のある選手だけを代表に残す」という姿勢を曲げないところに信頼が置けると思っています。トムさんがヘッドコーチに就任したことをきっかけに変化が生まれ、男子バスケ日本代表の価値を高めてくれました。

 ファンやメディアだけでなく、選手たちの中でも日本代表の価値が上がっていると思います。パリ五輪の選考でも最後まで激しいサバイバル競争がありましたが、それもBリーガーが代表に挑戦したいと感じる環境になっているからだと思います。

パリ五輪でジャイアントキリングは起きるか

トム・ホーバス・ヘッドコーチは、パリ五輪でのチーム目標を「ベスト8」に設定しました。篠山選手から見て、どんな目標だと思いますか?

 非常にハードルの高い目標だと感じますが、代表に選出された12人の選手は現実的な目標として取り組んでいると思います。日本から見たら、パリ五輪に出場する国はほとんどが格上です。とんでもない対戦相手ばかりなので、どのグループに入っていても「死のグループ」ですね。

『SLAM DUNK』の面白さの一つは、山王工業戦のジャイアントキリングです。パリ五輪でも、山王戦のような展開を期待してしまいます。

 トムさんのバスケットボールは、速いペースで3ポイントシュートをたくさん打っていく“イケイケどんどん”のスタイルです。極端にいえば、3ポイントシュートが入らないと、FIBA(国際バスケットボール連盟)世界ランキングで日本よりも順位が下のチームにも負けてしまう可能性があります。逆にいえば、3ポイントシュートが決まり始めたら、どんな国にも勝てる爆発力を持っています。

 僕は、このスタイルが今の日本の現状にはマッチしていると思います。淡々とスタンダードなバスケットボールをやって力負けするくらいなら、大ばくちの3ポイントゲームをやったほうが、勝つ確率は上がります。91対90で勝つかもしれないし、100対60で負けるかもしれない。トムさんは、こんなギャンブルな部分があるのを承知の上で世界にチャレンジしているのではないでしょうか。

「日本代表には、大ばくちの3ポイントゲームを期待します」
「日本代表には、大ばくちの3ポイントゲームを期待します」
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「多くを背負わず開き直ってほしい」

『SLAM DUNK』の桜木花道は、陵南高校との練習試合で初めて試合に出場した時、緊張して周りが見えなくなってしまいました。篠山選手は、2019中国ワールドカップ初戦の入り方で気をつけていたことはありますか?

 僕の中では、特別なことをせずにそのまま初戦に入ってしまったことを後悔しています。振り返ると、自分もチームもワールドカップ初戦の雰囲気にのまれていたと思います。21年ぶりに出場したワールドカップという世界の舞台の初戦で、普段通りにプレーできるわけがなかったんです。無理に普段通りにプレーしようとするよりも、違うアプローチの方法があったはずだと思っています。

 今の代表メンバーに伝えたいのは、「多くを背負いすぎずに、チャレンジするつもりで開き直ってほしい」ということです。結果にフォーカスするよりも、1試合ごとの一つひとつのプレーで、自分は何ができて何ができないのか力試しをするくらいの気持ちで、思い切ったパフォーマンスをしてほしい。強く、そう願っています。

取材・文/石川歩 構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子

バスケットボール女子日本代表を東京五輪銀メダルに導き、男子でもパリ五輪出場権を獲得した名将、トム・ホーバス・ヘッドコーチ。ホーバス氏が最短・最速で目標を達成するために実践してきたチームビルディング、組織マネジメントとはどのようなものなのか。自身の哲学、ノウハウを余すところなく明かす。パリ五輪のバスケ観戦がさらに楽しく、興味深くなる1冊。

トム・ホーバス著、日経BP、1870円(税込み)