「プロバスケットボールリーグ・Bリーグで『 SLAM DUNK(スラムダンク) 』(井上雄彦著/集英社)を語るならこの人!」。『SLAM DUNK』フリークの川崎ブレイブサンダース・篠山竜青選手へのインタビュー第2回は、『SLAM DUNK』連載時から今に至る日本バスケの変遷について、プロ選手の目線から語ってもらう。また、今シーズン大きな変革期を迎える川崎ブレイブサンダースについて、現在の思いを聞いた。

誰もが3ポイントシュートを打つ時代

漫画『SLAM DUNK』で描かれる最後の試合は、山王工業 VS. 湘北です。湘北によるジャイアントキリングは、読んでいて痛快でした。Bリーグでも、山王戦のようなことは起きているのですか?

 山王戦は20点以上の差がついてから湘北が追い上げ、79-78で湘北が逆転勝ちします。実際の試合では、山王戦ほどの大逆転はめったにありませんが、15~20点差までならばひっくり返ることがあります。ディフェンスの戦術がはまって、3ポイントシュートが4、5本連続で決まれば、5分で15点ぐらい一気に詰められますから。

『SLAM DUNK』で3ポイントシュートといえば、三井寿です。センターの赤木剛憲が3ポイントシュートを打つことはありません。一方で、最近の日本代表やBリーグの試合を見ていると、コートにいる選手全員が3ポイントシュートを打っています。『SLAM DUNK』連載時から日本のバスケットボールはどう変化してきたのですか?

 現代のバスケットボールは、3ポイントシュートの重要性が増しています。3ポイントシュートの上手な選手がどんどん出てきて、インサイドの選手(リングの真下や近くでプレーする選手)も3ポイントシュートが打てないと、トップカテゴリーまで上がれないようになってきました。今は、チーム全員が山王の河田(雅史)状態です。

「スピード重視になる中で、やるべきプレーもどんどん変わっています」と話す篠山選手
「スピード重視になる中で、やるべきプレーもどんどん変わっています」と話す篠山選手
画像のクリックで拡大表示

 そもそも、『SLAM DUNK』と今のバスケはルールが違います。『SLAM DUNK』のシュートクロック(攻撃時に何秒以内にシュートを打たなくてはいけないというルール)は30秒ですが、今は24秒。攻撃時にコートのハーフラインまでボールを運ぶ秒数も、10秒から8秒に変わりました。どんどんスピーディーな展開になるように、ルールが変わってきているんですね。『SLAM DUNK』の頃から平均得点も上がっているので、見ている皆さんにとっては、テンポが速くて展開の波が激しい、おもしろいゲームになっていると思います。

ルールを変えることで、より速く、より得点が入るバスケに進化してきたのですね。

 僕の13年間のキャリアの中でも、バスケのトレンドはかなり変わっていて、プレー内容はまったく違います。13年前には怒られていたプレーが、今ではやるべきプレーになっている感覚がありますね。

 例えば、今のバスケはドリブルをついて、ストップして3ポイントシュートを打つのは当たり前で、やらなければいけないプレーです。でも、僕が13年前チームに入ったときは、ドリブルから3ポイントシュートなんてリスキーなシュートは褒められたプレーではありませんでした。

 正しい3ポイントシュートとは、まずリングの近くにボールをパスすることでディフェンスを収縮させて、ゴールの近くからノーマークになった選手にパスを出して確率高く決めることといわれていたのです。今は、プルアップ(ドリブルから素早く止まってジャンプシュートに切り替えること)がないと、チームとして生き残れないという時代です。

篠山選手が所属している川崎ブレイブサンダースは、どんな戦い方が特徴なのですか?

 昔からの川崎のバスケは、1人のスター選手を中心に据えるのではなく、チーム全員でハッスルプレーをして、地味だけれどコツコツと勝っていくスタイルでした。ただ、昨シーズンまでは12年間にわたって川崎の中心選手として活躍したニック・ファジーカス(※)がいたため、彼を中心にしたバスケスタイルでした。彼が引退し、今シーズンは川崎の原点に立ち返って、チーム力や連携など地道なプレーでハードワークをして勝つスタイルに戻るタイミングだと思っています。

※ニック・ファジーカス:NBAダラス・マーベリックスなどを経て2012年に東芝(現・川崎)ブレイブサンダースに加入。天皇杯やリーグ優勝に貢献し、2018年に日本国籍を取得。日本代表として2019中国ワールドカップ出場の大きな原動力となった。2023-24シーズンをもって現役を引退。

コートの中の湘北は感情を超えている

『SLAM DUNK』の序盤で、三井寿がバスケ部に殴り込みをするシーンがあります。ケンカからチームづくりが始まり、最後まで湘北メンバー同士は仲が良いわけではありませんでした。篠山選手は、なぜ湘北はチームとしてまとまっていると思いますか?

 コートの中と外で、スイッチを切り替えられる人たちがそろっているからだと思います。普段は仲が悪くても、パスを出せばシュートを決めてくれると信じているし、嫌いでも、コート上ではリバウンドを取ってくれると分かっているから、シュートを打つ。感情とプレーを切り離し、コートの中と外では役割が違うことを理解してプレーできるから、チームとしてまとまるのだと思います。それに、勝つというゴールは一緒です。山王戦で流川(楓)が桜木(花道)に出したパスは、好き嫌いの感情を超えた本能的なパスだと思います。

2024-25シーズンの川崎ブレイブサンダースは、選手の約半数が新加入です。チームとしてまとまるために、在籍の長い篠山選手の役割は大きくなりそうです。

 今季は、川崎ブレイブサンダースの新たなスタートです。もともと1950年に東芝がつくったバスケ部が始まりで、実業団を経てプロチームになった長い歴史のあるクラブです。当初は選手兼会社員としてプレーしていたチームなので、社会人として成長しながらバスケをするというクラブの姿勢がありました。

 今はBリーグが開幕してプロスポーツ選手とプロクラブの運営でチームをつくっていますが、新しく入ってくる若い選手たちには、バスケをプレーする前に1人の社会人として成長する大切さを伝えたいです。どんな成り立ちで今の川崎ブレイブサンダースがあり、誰のおかげで僕たちの給料が出ているのかに思いを巡らせて、「偉そうにするなよ」と伝える必要があると思っています。

『SLAM DUNK 完全版』を持つ篠山選手
『SLAM DUNK 完全版』を持つ篠山選手
画像のクリックで拡大表示

今シーズンのチームでは、篠山選手が最年長です。社会人も同じ悩みを抱えると思うのですが、年長者になるほど周りから遠慮されて、指摘されなくなっていきます。篠山選手は、年長者として心がけていることはありますか?

 まずは、「人に言われなければ気づかない」という状態になり得ると自覚して、自分で自分を律することでしょうか。また、僕はスポーツ業界にいるので会社員の方より強く感じることかもしれませんが、最近は年齢の壁がなくなってきています。ニックネームで呼んで、タメ口で話す年下の選手も増えてきました。ですから、僕も「年下だから」と壁をつくらないように意識しています。

 コートでは言うべきことは強く伝えますが、コートから離れたら僕よりしっかりしている選手がたくさんいます。オンとオフを切り替えて、オフコートで自分ができないことは隠さずに、年齢と関係なく人を頼るようにしています。

最近読んだ本の中で、印象に残っているものは?

 妻の影響で読んでおもしろかったのが、伊坂幸太郎の『 AX アックス 』(角川文庫)です。エンタメの要素が強いミステリーで、読んでワクワクしました。僕は深刻な内容の本は苦手で、精神的にも影響されてしまいがちです。昨シーズンは、移動中に重い戦争の映画を見てしまって、3日ほどうまく眠れない日が続きました。『AX アックス』は殺し屋が主人公で、作中で人が死ぬのですが、あまりシリアスすぎなくてよかったです。

取材・文/石川歩 構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子