豊中、吹田、箕面の3つのキャンパスがある大阪大学。最も多くの学生が通う豊中キャンパスにある書籍豊中店は、1962年開店と最も歴史が長く、今も昔も学生と教職員の知的好奇心を満たし続けている。同店の依岡孝子さん、田中裕子さんに、売れ筋の本や注目本、学生たちへのメッセージなどを伺った。

お客様の「階層」ごとに求められる品ぞろえを意識

 大阪大学は府内に3つのキャンパスがあり、ここ豊中キャンパスには11学部の1回生3400名と、理学部、基礎工学部、文学部、法学部、経済学部の学部2回生以上の上級生および大学院生が通っており、学部生、大学院生合わせ、約1万人が学んでいます。

 大阪大学生協の書籍豊中店は今年で63年目と、全国の大学生協の中でも長い歴史を持つ店舗。学部生・大学院生・教員など興味や関心、レベルが違うさまざまな「階層」のお客さまの利用を支えるために、それぞれに見合う書籍や出合ってほしい専門書・文庫・新書・雑誌など幅広い分野の品をそろえています。

大阪大学生活協同組合書籍豊中店の依岡孝子さん(上)と田中裕子さん(下)
大阪大学生活協同組合書籍豊中店の依岡孝子さん(上)と田中裕子さん(下)
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 新型コロナウイルス禍の2021年8月に店舗面積を2割近く縮小しましたが、お客さまそれぞれの「階層」が求める書籍分野や専門性の深さが違うことを踏まえた売り場づくりに力を入れました。例えば1~2回生向けには新たな書籍との出合いづくりを意識し、3~4回生向けにはより専門性を広げてもらうためのラインアップを重視しています。また、大学院生や先生方にはそれぞれの研究分野をより深掘りできるような品ぞろえを意識しています。その結果、各階層とも大幅に冊数や分野を縮小することなく多くの方にご来店いただいています。

書籍豊中店の店内。豊中キャンパスの豊中福利会館2階にある
書籍豊中店の店内。豊中キャンパスの豊中福利会館2階にある
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 今の大学生は書店に行く習慣がない人が多いようですが、特に学部生には「本を読むこと」をもっと身近に感じてほしいと思っています。そのため、他の大学生協書店でも同様の取り組みを行っているところもありますが、文庫・新書を3冊以上買うと15%ポイントが還元されるバンドルフェアや、ジャンル別のフェア、出版社フェアなどを定期的に開催しています。

 大阪大学生協では組合員の皆さんに、購入いただいた額の10%をポイント還元していますが、先日は3日間連続で購入額の20%をポイント還元するフェアを実施しました。還元率の高さから多くの学生でにぎわいましたが、このようなフェアも本に触れるきっかけになればと考えています。

 売り場では質問しやすい雰囲気づくりを重視し、「あの店に行けば、スタッフが何らかのサポートをしてくれる」と印象を持ってもらうことにも注力しています。キャンパス生活の延長線上に生協があるということを知っていただき、気軽に足を運んでもらいたいと思っています。

売れ筋は統計分野。SNSで話題の書籍が売れる傾向

 最近の売れ筋は、どの学術分野でも注目され、必要性が増している「統計」「データサイエンス」「Python」関係の他 、人文系では「民主主義」「正義」「非暴力」「人種差別」「グローバルヒストリー」など時勢を反映した分野です。

 統計分野は、あらゆる学部の先生方が授業に取り入れるために購入しているようです。それにともない、関連書籍を購入する学生も理系文系問わず増えています。人文系の本は、文系の学生のみならず、理系の学生が教養の一つとして手軽な文庫や新書を購入している印象です。

文庫コーナー
文庫コーナー
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 理系の学生では話題のYouTuberが紹介していた本やSNSで話題になった本を購入するケースが目につきます。例えば、3月の期末試験終了後に量子力学の本を買い求める学生が目立ったので、その理由を聞いてみたところ、「YouTubeでお薦めされていたから、2回生になる前の春休みのうちに勉強しようと思って購入した」との答えが返ってきました。我々書店員も、このようなネットやSNSでの本をめぐる動きをもっと収集し、売り場づくりに生かす必要があると感じています。

 今注目している著者は、現代思想を代表するジュディス・バトラーです。政治・倫理・ジェンダーの面から注目されていて、店舗ではミニコーナーを設けて展示しています。

ジュディス・バトラーのコーナーも設置している
ジュディス・バトラーのコーナーも設置している
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 法学関係では、 『行政法Ⅰ 行政法総論』(興津征雄著/新世社) が司法試験を受験する学生の間で話題になっているほか、 『冤罪学 冤罪に学ぶ原因と再発防止』(西愛礼著/日本評論社) も評価が高いです。また、 『コロナ禍の声を聞く 大学生とオーラルヒストリーの出会い』(安岡健一著、大阪大学日本学専修「コロナと大学」プロジェクト編/大阪大学出版会) は、コロナ禍の混乱のさなか学生が中心になり、さまざまな立場の人の証言をリアルタイムに多角的に聞き取り伝えている点が注目できると思います。そして 『大阪の生活史』(岸政彦編/筑摩書房) は「大阪」「生活史」「歴史」という切り口以外にも、インタビュー手法の視点としても読み応えがある本です。

 これらの本に注目したのは、すでに売れ行きがいいことに加え、購入した方に購入理由や本の内容の捉え方などを伺ったところ、それぞれの視点や切り口でその本を捉えていたことに面白さを覚えたからです。私たちは普段からお店にいらした学生や先生方に、なぜその本に引かれ、購入したのかをヒアリングし、そこで得た情報を売り場で購入を迷っている人にお伝えしたりしています。生協の書店ならではだと思いますが、このように皆さんが注目している本の情報を、他の方へと広げていく役割をこれからも担っていきたいと考えています。

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本を読むことで、将来につながるたくさんの「点」を作ってほしい

 学生の皆さんには、専門書、一般書、文庫、新書など、幅広いジャンルの本や雑誌を読んでもらいたいですね。本と出合うことは人と出合うことと同じで、自分にはない魅力を感じたり、新たな発見をしたりすることができます。SNSやネットから知り得る情報は非常に多く、範囲も多岐にわたりますが、自分のバイオリズムに沿って本を選ぶと、より自分の中に知識や経験として蓄積されると感じます。

 具体的にお薦めしたいのは、文庫化され、各大学生協での売れ行きもいい 『暇と退屈の倫理学』(國分功一郎著/新潮文庫) です。日ごろ疑問に感じていることが払拭されたり、気にも留めていなかったことに気付けたりする本なので、学生の皆さんにこそぜひ手に取ってもらいたいですね。

 また、『NHK 100分de名著』シリーズ(NHK出版)は番組のテキストですが、分厚い書籍に匹敵するほど読み応えがあります。「本を読むこととはどういうことか」を知るきっかけになるうえ、その本に込められた意味もつかめるので、本を読む入り口になります。売り場では、番組で取り上げられた書籍と一緒に展示していますが、手に取って興味を示す学生が多く、うれしく思っています。

『NHK 100分de名著』コーナー。バックナンバーもそろえている
『NHK 100分de名著』コーナー。バックナンバーもそろえている
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 厳しい受験戦争を勝ち抜いてきた阪大生は、自己抑制力が高く、今やるべきことから逃げずに向き合える力があると感じます。ぜひ皆さんには、学生のうちにさらに興味の範囲を広げて将来につながる「点(Dots)」をたくさん作り、「Connecting the Dots(点と点をつなぐ)」に備えてほしいですね。そして、本との出合いがいくつかの「点」になればいいなと願っています。

取材・文/伊藤理子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/山本尚侍