トヨタ自動車に21年勤務後、トヨタ自動車の仕入れ先である部品メーカー・旭鉄工の社長に就任した木村哲也氏が、AI活用を前提とした経営を実践してきた経緯をまとめた書籍『 AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル 』(日経BP)。書籍から冒頭部を抜粋し、旭鉄工が実践している「AIファースト経営」事例を紹介する。その第4回。

部門のものさしの共有

 全社哲学を具体的な現場の課題に落とし込む存在が、「AI品質部長」に代表される各部門のAI上司たちだ。

AI品質部長

 AI品質部長を作る直接のきっかけは、ある品質会議だった。客先で発見された品質不具合の再発防止について記述した対策書をめぐって議論が紛糾し、時間単価の高い管理職たちの時間が延々と空費された挙げ句、結局「承認されず差し戻し」になる光景を目の当たりにした。しかも、そこで指摘されていた内容の多くは、旭鉄工の品質原則に照らせば、本来は会議室に持ち込む前に潰せていなければならない初歩的な不備ばかりだった。

 私はこれを見て、「これは会議でやる話ではなく、会議の前に解決できるはずだ」と強く感じたのだ。

「判断の準備」ができていない報告書は排除

 そこで、文章整理や壁打ちに使っていたAIキムテツの仕組みを応用し、品質の考え方や過去の不良事例を学習させた「AI品質部長」を構築してみた。

 差し戻された対策書をこのAIに読み込ませてみたところ、会議で人間たちが指摘した論理の甘さを、AIが事前に次々と指摘した。

  • 「対策の内容が具体性に欠ける」
  • 「期日が明記されていない」
  • 「誰がどうやるのか、責任の所在が不明瞭である」
AI品質部長の指摘
AI品質部長の指摘
(出所:書籍『AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル』)
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 旭鉄工が大切にしている「判断のものさし」が組み込んだからこそ必要な指摘がなされたのだ。

 例えば、私が2013年にトヨタから旭鉄工に転籍して以来徹底してきた「再教育は対策ではない」「検査工程の追加には付加価値がない」といった品質哲学も、その「ものさし」の代表例である。かつての現場では当たり前だった「作業者を再教育する」といった対策は、今の旭鉄工では不十分として却下される。AIはこのものさしに基づき、人間が最終判断を下す前の「認知」と「分析」の不備を徹底的に洗い出すのである。

 AI品質部長は「この対策内容は、そもそも人間が責任を持って実行を判断するに値するレベルか」を、会議の前に厳しくチェックする。

  • 人を責める構造で逃げていないか
  • 仕組みとしての再発防止になっているか
  • 過去の類似トラブルの知見を無視していないか

 こうした前工程がAIによって処理されることで、議論に値しないレベルの対策書は会議室に入ってこなくなった。

 AI品質部長の導入によって劇的に減ったのは、品質不良そのもの以上に、ムダな議論とムダな会議時間だった。品質会議は「間違いを指摘してもめる場」から、AIが整えた材料をもとに「この対策を実行するかどうかを決める、またはAIが指摘できていないポイントなどがないか検討する、付加価値の高い判断の場」へと進化したのである。

(写真:MuhammadHaris/stock.adobe.com)
(写真:MuhammadHaris/stock.adobe.com)

(書籍『AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル』を基に再構成)

日経クロステック 2026年7月24日付の記事を転載・改題]

自動車部品メーカー・旭鉄工のAI活用ノウハウを社長自らが解き明かす。「ChatGPTを入れたが、使いこなせる社員があまりいない」「AIの回答が一般的すぎて、実務で役に立たない」「そもそも何から始めたらいいのか、わからない」。そんな悩みを抱える経営者やリーダー、現場社員必読の1冊です。

木村哲也(著)/日経BP/1980円(税込み)