栃木県・小山市立車屋美術館で、画家のモリナガ・ヨウさんの「モリナガ・ヨウのおしごと展 1987-2026 絵本とモケイとじいちゃんと」が開催されています(2026年8月30日まで、アートディレクション・大岡寛典事務所、企画協力・めくるむ)。情報系の雑誌がネットの台頭で力を失う中、モケイ(模型)雑誌で活路を開いたいきさつは?

学費と生活費のためにカット描きから始めたモリナガ・ヨウさんが、雑誌にイラストコラムの連載を持つようになり、「イラストレーターとして夢をかなえた」と思ったら、ネットの登場で2000年ごろから雑誌そのものがどんどん倒れていった……というところまで伺いました。雑誌編集者としては当時を思い出して遠い目になります。

モリナガ・ヨウ(以下、モリナガ): 仕事をさせてもらった雑誌の中で、2026年現在で連載を続けているのは、「歴史群像」(ワン・パブリッシング、隔月刊)と「アーマーモデリング」(大日本絵画、月刊)くらいですね。

右奥が「アーマーモデリング」誌、左手前は同誌の母体となった「モデルグラフィックス」誌で、モリナガさんのイラストが初めて表紙になった号。手前に並ぶ小さな戦車が、このあと出てくる「ワールドタンクミュージアム」の食玩タンクです(許可をいただいて撮影・掲載しています)
右奥が「アーマーモデリング」誌、左手前は同誌の母体となった「モデルグラフィックス」誌で、モリナガさんのイラストが初めて表紙になった号。手前に並ぶ小さな戦車が、このあと出てくる「ワールドタンクミュージアム」の食玩タンクです(許可をいただいて撮影・掲載しています)
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歴史と軍事を扱う「歴史群像」、そして、陸上兵器のプラモデルを扱う「アーマーモデリング」。ウェブが雑誌を追い詰めていく中で残ったのがこれだった。

モリナガ: うん。ま、普通に考えるとやっぱり「マニアックな世界に生き残ってる」っていう感じですよね。

「創刊一周年、おめでとうございます」とイラストを送る

モケイ少年だったモリナガさんは、こういうミリタリー系の模型雑誌、ずっと読んでいたんでしょうね。

モリナガ:いや、模型の雑誌というと、鉄道模型はありましたが、ミリタリー系、それも戦車や装甲車に絞ったものは子どもの頃はなかったですよ。

あ、「鉄道模型趣味」(月刊、1950年創刊、機芸出版社)っていう雑誌がありましたね。いや、現在も元気に刊行中だ、すごい!

モリナガ:総合模型誌でミリタリーも扱っていたのは「月刊ホビージャパン」(月刊、1969年創刊、ホビージャパン)や「月刊モデルアート」(月刊、1966年創刊、モデルアート社)ですよね。これらの対抗誌として創刊した「モデルグラフィックス」(月刊、1984年創刊、大日本絵画)からスピンアウトして97年に生まれたのが、「アーマーモデリング」です。

モリナガさん、アーマーモデリングの編集部に、「イラストを描いてトレペ(トレーシングペーパー)かけて、丁寧に送った」って、以前おっしゃってましたよね。

モリナガ: そうです、そうです。「アーマーモデリング」が創刊されて1年たったタイミングで、イラスト付きの「創刊一周年おめでとうございます」っていう手紙を書いて。そこで、誌面で取り上げていた「MG34」っていう機関銃の……。

よく知りませんがドイツの戦車に付いているやつでしたっけ。

モリナガ:そうそう、あれは汎用機関銃といって兵隊さんも使えるんですが、反動がすごいので、使う場合は地面に置いて、脚を付けるんですね。その脚は二又になっていて「二脚」と呼ばれるわけです。

三脚じゃなくて二脚。引き金を引く兵隊さんがもう一本の脚の代わりになるんですね。

モリナガ:この二脚はMG34にどういう仕組みで取り付けられているのか。私もMG34はプラモデルでさんざん作りましたが、二脚は接着剤でくっつけるだけでした。それをこの雑誌が「この部分をこうスライドさせて組み付ける」と紹介していて、「そうだったのか、すげえ!」と。

はあ。

モリナガ:長年の謎が解けて「いや、あの記事には感動しました」って手紙に書いた。それを見た編集長が「こいつは」と目をつけた。

こいつはツボを知っていると。狙って売り込んだんですか。

モリナガ:いや……ちょうど「じゃらん」がリニューアルで、情報を増やしてコラムを減らそうということで、連載がなくなっちゃったんです。メインの仕事が消えて、子どもも生まれたのにどうしよう、ということはあったかな。

前回伺った「情報誌だけど、面白ければなんでもあり」の時代が終わってしまって、編集部は本来の役割である情報のほうを充実させて切り抜けようとしたんでしょうかね。今考えれば、そちらへ向かうほどネットの強みが増してくるわけですが。

会場に展示されているモリナガさん制作の対戦車自走砲「マーダーIII」。並々ならぬ腕前が伝わってくる
会場に展示されているモリナガさん制作の対戦車自走砲「マーダーIII」。並々ならぬ腕前が伝わってくる
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情報はネットにあふれていても、売れる雑誌は売れる

モリナガ:「アーマーモデリング」と「モデルグラフィックス」からさっそくイラストコラムのお仕事を頂いたんですけど、最初の頃は原稿料は安かったんですよ。「じゃらん」の半分くらいかな。でも世の中の雑誌がどんどん潰れていく中で、模型雑誌には固定の読者がいるので。

収益を広告に頼っていない雑誌なんですね。これは強い。

モリナガ:「アーマーモデリング」は今度、創刊28周年ですね。私は創刊1年目から描いているんで、27年になります。

「雑誌」って結局、「私はこれが好きです」っていう旗とか、マークとか、会員証みたいなものだって思う時があるんです。「欲しい情報が載っている」ことが表向きの理由なんだけれど、自分はこれが好きで、その仲間であると自認するために、会費を払うみたいな気持ちで毎月買う。

モリナガ:一方で私たちが小さい頃は、「小学一年生」(小学館)とか、「この年代にはこれ」って、ジャンルを絞らず何でも載っていて、どこかが引っかかる総合誌の時代がありましたよね。学研の「科学と学習」(学習研究社、現学研ホールディングス刊、「学習」は2009年度冬号、「科学」は2009年度3月号で休刊)とか。

この年頃ならこういう話題が興味を引くだろう、という総合雑誌ですね。大人向けなら「文藝春秋」(文藝春秋刊)みたいな。

モリナガ:そうそう。だけど結局、テレビとかと競合したのかな、まるっと総合では維持できなくなってきて、どんどん細分化して専門誌、情報誌になっていったんじゃないかな。

「普通に興味がありそう」なジャンルは新しい手軽なメディアに席巻されて、雑誌はよりニッチな分野に行く、という流れは、ネットと情報誌の関係と同じなのかもしれませんね。でも、ミリタリー系のマニア向けの情報はそれこそXにあふれかえっているけれど、「アーマーモデリング」は売れている。

モリナガ:ネットの情報は、AIの登場でウソ動画が手軽に量産されるようになって、ますます玉石混交になってますけどね。

今売れている雑誌って、「情報」以外の面白さもあるんじゃないですか。

モリナガ:役に立つかどうかじゃなく、シンプルに、知らないことに出合って「うわっ」と驚く喜び、「世の中にはこんなことを考えている人がいるんだ」という、世界が広がる感じ、というか。

そうですそうです。あと、インタビューのお仕事で、経営者、自動車の開発者、デジカメの技術者、免疫系の研究者、お医者さん、マンガ家さん、といろいろな専門家の方にお会いしますが、自分の知らないマニアックな話でも、聞いているうちにだんだん面白くなってくるんですよね。なんというのか、「マニアックな話をしている人が、自分の好きな話に熱中している様そのものが面白い」ことってありませんか。

モリナガ:テレビで言うと「タモリ倶楽部」(テレビ朝日)のゲストの「ジャンクション専門家」の方みたいな感じですよね。

トリビアそのものも面白いんだけれど、それ以上に話している人の「ほら、こんなに面白いんだよ!」と訴えてくる様子自体が面白い。

モリナガ:なるほど。この展覧会のトークイベントで「アーマーモデリング」の元編集長と海洋堂の宮脇センム(宮脇修一氏)が来て、元編集長が「モリナガさんとの出会いの縁となった、MG34と42のバイポッドはですね……」って始めたから「お客さんが分かるわけないやろ!」ってセンムが全力で突っ込んで(笑)。 私がいきなりホワイトボードで34と42を書いて、「ね、こういうことなんですよ」と説明した。あとで「何を言っているのか全然分かりませんでしたが、あのMG?のお話、楽しそうでしたね」と感想をいただきました(笑)。

まさにそれですね。情報そのものより、その話し方、説明っぷりが面白いという。これってモリナガさんのイラストルポにも通じるところがある、というか、最大の魅力じゃないでしょうか。で、「ワールドタンクミュージアム」。

マニアの話を普通の人にも面白く

「ワールドタンクミュージアム」は、2002年5月にコンビニで売られた、144分の1サイズのミニチュア戦車(企画・制作は海洋堂)の食玩。怖いくらい出来がよくて人気が爆発して、当時、遠方までコンビニを探し回った記憶があります。トータルで1000万個以上が販売されたとか。

「ワールドタンクミュージアム」とはこういうものでした(『ワールドタンクミュージアム全集』表4帯より)
「ワールドタンクミュージアム」とはこういうものでした(『ワールドタンクミュージアム全集』表4帯より)
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モリナガ:それに同封した解説イラストを描かせていただきました。なので、私の絵に触れてくれる方が一気に増えた。

解説イラストの原画(左)が、はがき大のサイズになって入っていた(右)
解説イラストの原画(左)が、はがき大のサイズになって入っていた(右)
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モリナガ:これでモリナガ・ヨウを知ってくださった方は多いです。

そして本にもなりました。『ワールドタンクミュージアム図鑑』(2005年、大日本絵画)。『東京右往左往』時代は東京ローカルだったとおっしゃっていましたが、これで一気に全国区ですね。

こちらは2022年に出た増補改訂版の『ワールドタンクミュージアム全集』
こちらは2022年に出た増補改訂版の『ワールドタンクミュージアム全集』
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モリナガ:英語版が出て、その後に韓国語版、中文版と世界に広がりました(笑)。

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モリナガ:最初はどのくらい売れるか分からなかったので、「前払い・通販限定・オマケ付き」限定版でした。そしたらいきなり現金書留が1万通、版元に来たそうです。まだ一枚も印刷してないのに(笑)。のちに書店版も発行されて、版を重ねて11刷までいきました。

久しぶりに本棚から引っ張り出したら、うっかり読み始めちゃって、もう止まらなくなりました。温かみのあるイラスト、そして膨大な情報量はもちろんなんですが、実は言葉選びのうまさ、そして視線誘導の巧みさ、そこから来る読みやすさが、他のイラストルポにも共通するモリナガさんの真の魅力じゃないかと思います。マニアックなのに、とっつきがいい。語り口のうまさですよね。

『ワールドタンクミュージアム全集』
『ワールドタンクミュージアム全集』
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モリナガ:どこが面白いか、どう見せたら面白いか、面白いけれどマニアだったらみんな知ってることより、こっちじゃないか、と、自分が思ったところを描いてますかね。

(展示された絵を見ながら)パンター戦車って、坂道だと砲塔が回んないんですか?

モリナガ: 初期型は先行量産みたいなもので、欠陥を潰しきれず不良続出だったそうです。燃料が引火して燃えちゃった、とか。

『ワールドタンクミュージアム全集』の巻頭折り込みの原画の一部。細かい書き込みが面白くて目が止まらなくなる
『ワールドタンクミュージアム全集』の巻頭折り込みの原画の一部。細かい書き込みが面白くて目が止まらなくなる
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自分が経験したのはパソコン誌くらいですが、マニア向けの雑誌って、読者もマニアだから、お互いにどんどん穴を深く掘る方向にいっちゃって、難しく、つまらなくなって、新しい人が入れなくなることがありませんか。というか大半の専門誌はそうだと思いますが。

モリナガ: そうかもしれません。やはり一般誌で、編集者から振られた話を、絵と文でなんとか面白がってもらう、という仕事を重ねてきたので、そこは自分の特徴になっていたんでしょうね。こんな流れで、「自分の言葉で自分の描きたいことを描く、それを雑誌で連載する」という場所を、再び手に入れるわけです。

特殊なジャンルの話を普通の日本語で、面白く説明してくれる人、というモリナガさんの力が、「ワールドタンクミュージアム」で世間に知れ渡った。このおかげで、「このジャンルをモリナガさんに紹介してほしい」というお仕事がどんどん増えてきましたよね。実はこの頃、なんだかモリナガさんが便利に使われてしまうのでは、と、余計なお世話ですがちょっと心配しておりました。

「機能」面の表現を独特の知的歓喜の中で行う

モリナガ:自分が見て、自分自身の気持ちが動かないものを描かされるのはつらいです。例に挙げるのは失礼ですが、会社のオフィスを取材に行っても、なんか……オフィスにあるパソコンや複合機ってみんな似た色じゃないですか? だから絵描きとしても出番がないわけですよ。インタビューを受けた方の顔が似顔絵としてうまくても、それが面白いのはご本人と会社の同僚の方、同席した編集者だけ。自分の仕事としてどうなんだっていう。

やっぱり対象を「面白い」と感じて、モリナガさんの心の振幅が大きくなると絵にそれがガンと出て、見ているほうも引っ張られるな、っていうのがあります。そしてそれは、普通に「情報として伝える絵」を描いてたら、なかなかそうはならない気がします。

モリナガ: それはそうですね。だから「情報、情報」って言っていると、結局「トリセツ(取説)」になってしまうんですよね。つまらんわけですよ。絵を描き、言葉も書いている。説明もしている。けれど、トリセツをつくってるつもりはない、って、ずっと思ってます。

マライ・メントラインさんが『ワールドタンクミュージアム全集』の帯にこんな文を寄せています。

「面白そうな視覚イメージや心像を何でも即描いちゃう」という
彼の生態はアライグマが何でも洗うのと似ているが、
根本的に異なるのは図像化にあたって対象となるモノの概念の再定義、
特に「機能」面の表現を独特の知的歓喜の中で行う点だろう


モリナガ:ありがたいお言葉です。そしてその下に「ウヒョー!」という叫びが入っているのが(笑)。

これすごくよく分かります。概念の再定義と、機能の表現を「独特の知的歓喜の中で」行う、って、モリナガさんの絵と文字はまさにそんな感じです。

モリナガ:「すげえ」と思う瞬間を、どうして「すげえ」と思ったのか、それを伝えるにはどう描いてどういう言葉を使えばいいかを考えちゃう、ってことですかね。

そして2009年、『新幹線と車両基地』(あかね書房)で絵本デビュー、乗り物絵本から『図解絵本 東京スカイツリー』(2012年、ポプラ社)、日本土木学会の学会誌「土木学会誌」で「モリナガ・ヨウのぶらっとぉ土木現場」の連載、2015年刊行の『築地市場 絵でみる魚市場の一日』(小峰書房)で、2016年に児童書の世界では大変権威のある、産経児童出版文化賞の大賞を受賞されました。

モリナガ:新幹線もスカイツリーも築地も、やっていることはこれまでと同じで、ただ対象が異常に濃いんですよ(笑)。

ただ、絵本を始めてから、特にスカイツリー以降は、モリナガさんのお仕事が大きく変わった気がします。それはこの展覧会に来た皆さんも感じるのではないでしょうか。読みやすさは前以上ですが、ガンガン前に出て、くすっと笑える言葉をスパッと出してくる芸風から、一歩引いてふんわり見せてくる。それに対応して、こういうと大変失礼ですが、ものすごく、こう、イラストから「絵」になっていったとでもいうか……。

モリナガ:それは当然で、大人だったら言葉で説明するところを、絵で分かりやすく、見て納得できるようにしなければならないからですね。当然描き方も仕事の進め方も変えねばならず、やっぱり最初は苦労しました。

そうか、「独特の知的歓喜の中で行う」のは変わらないけれど。

モリナガ:言葉に頼れない、あるいは、頼る部分が限られるということですね。だから絵と構成が重要になります。

情報系雑誌の10年、オタク仕事の10年をお聞きしてきました。次回はいよいよ絵本作家としてのここ10年のお話を伺います。

(次回に続く)

会場の一番奥にはモリナガさんの本の読書コーナーが。うっかり読み始めて、はまり込む人続出。「あれ? 来場者が出てこない、と思って見に行くと、皆さんここにいるんです」と、学芸員さんが笑っていました
会場の一番奥にはモリナガさんの本の読書コーナーが。うっかり読み始めて、はまり込む人続出。「あれ? 来場者が出てこない、と思って見に行くと、皆さんここにいるんです」と、学芸員さんが笑っていました
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