「非効率」を武器に多くのベストセラーを手掛けてきたPR担当者・黒田剛さん。第2回では著書『非効率思考 相手の心を動かす最高の伝え方』(講談社)の執筆を通じて見えてきた「非効率」を支える時間術と超効率思考について聞きました。著者や編集者と丁寧に向き合うため、移動時間やスキマ時間を徹底活用する時間整理術や「15秒営業」など、実践的ノウハウについても紹介します。
1回目
「スゴ腕PR黒田剛 プレスリリースは送らない『非効率』が生むベストセラー」
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150字の「文章の種」を育てる
前回は『
非効率思考 相手の心を動かす最高の伝え方
』を出版した経緯などについて、お話ししました。
僕のPR方法は「著者インタビューにはすべて立ち会う」「プレスリリースは送らず、メディアの担当者に直接、電話やメールして売り込む」と言うと、「とてもそんな時間はない」と驚く人がいます。
そこで、「非効率思考」を可能にするための時間術についてお話しします。

書籍PR/非効率家
初めて自分自身の本を出版しましたが、実は僕は文章を書くのが苦手です。あまりにも文章が書けないので、書籍のPR担当になった当初は、編集者にメールの文面をチェックしてもらっていたほど。でも、今回の出版に当たっては「自分で文章を書きたい」と申し出ました。なぜなら、こうして本について取材を受けたときに、自分で書いていないと、自分の言葉で内容について答えられないと思ったからです。
文章を書くのが苦手な僕が参考にしたのは、野口悠紀雄先生の『 書くことについて 』(角川新書)でした。野口先生には『「超」文章法 伝えたいことをどう書くか』(中公新書)という著書もありますが、音声入力を使った文章作成など、こちらのほうがより今の時代に沿った文章術だと感じます。
野口先生が「魔法のように文章が書ける方法」として紹介しているのが、 「文章は150字、1500字、10万字でできている」という考え方。150字が文章の種で、この種を500〜1500文字に育てると文書(作物)になり、100個以上集まると15万字になり、1冊の本になるのです。
そこで僕は150字の種を育てる場としてX(旧ツイッター)にポスト、その種を500〜1500文字の文書(作物)に育ててインスタグラムに投稿。そして、インスタグラムに投稿したものを、編集者と一緒に再構成して、1冊の本にまとめました。
僕と同じように「文章を書くのが苦手」という人は、いきなり長い文章を書くのはハードルが高くても、150字の「小さい種」の寄せ集めから手を付けるといいと思います。
自分に対しては「超効率思考」
仕事相手に対してもっと丁寧に向き合いたい、と思っている人は多くても、「時間がない」と諦めている人がほとんどだと思います。 「どんな時間整理術を使えば、『著者インタビューにはすべて立ち会う』『プレスリリースは送らない』『担当者に一人ひとり電話やメールをして売り込む』といったPR方法が可能になるのか知りたい」と言われました。
僕はPRの相手には「非効率思考」ですが、自分に対しては「超効率思考」です。基本的に相手からの問い合わせには即答、メールチェックや返信は移動中に行います。だから、夜寝る前にはメールの処理をすべて終え、受信ボックスを空の状態にしています。
企画書の作成や原稿チェックはエレベーターを待っている時やエレベーターの中の3分、会議と会議の間の10分、信号待ちの30秒なども活用。ちょっと時間がかかりそうな文面を作成するときは、箇条書きで何を書くかだけでも整理しておきます。
PRする書籍の資料はGoogleドライブで一元管理し、文書、書影や写真、動画など全てURL化しています。そうすることで問い合わせがあったときに出先からでも返信でき、資料の添付を忘れたり、相手側が写真をダウンロードを忘れて期限切れになったりという事態が防げます。
要は未来の自分のために、とことん効率的に、少しずつでも作業を進めておくのです。
『
非効率思考 相手の心を動かす最高の伝え方
』の執筆で特に難航したのは、自分自身の時間整理術について書いた第6章です。なぜなら、自分にとっては当たり前のことで、書いていても面白くなかったんです。でも、担当編集者が「時間整理術がないと、非効率思考が成立しません。黒田さんにとっては当たり前でも、知らない人からしたら面白い」と言ってくれたので、それなら書いてみようと。やはり、仕事では信頼できる人の意見を聞くのが大事ですね。
おかげさまで時間整理術の章は好評で、「これで時間を作ることができれば、仕事相手に対してもっと丁寧に接することができそう」といった感想が届いています。
相手の時間を奪わない15秒営業
時間術といえば「相手の時間を奪わない」ことも大切です。「非効率っていうことは、足を使って営業するんですね」と言われることがあるのですが、そういうことでもないのです。特に僕が連絡するテレビ局や出版社などの担当者は、みなさん多忙です。アポイントを取って1時間も時間をもらうのは難しい。会うよりメールがよければメールにするし、相手がSlackがよければSlack、LINEがよければLINE。相手の都合に合わせます。心がけているのは「1時間のアポイント」よりも「15秒営業」です。
人はだいたい15秒を超えると、相手の話が「長いな」と感じ始めますよね。そして、15秒で話して伝わらないことは30秒、1分、1時間と話しても伝わらないと思うんです。
だから、僕はエレベーターで一緒に乗り合わせたとき「そういえば今、担当している本が面白いんですよ」と一言売り込む。その場で本の内容は詳しく話しませんが、そこから興味を持ってくれて、次につながることもあります。
あるいは相手側から「SNSで話題になっている人とか注目してる人は誰かいる?」と聞かれたら、「僕がPRしている葉っぱの切り絵アーティストの方がバズってますよ」と言う。相手に「お、何か面白そう」と思ってもらえれば、それがチャンスにつながります。
エレベーターの中や、会議と会議の間の時間、電車で1駅乗る間など、意識してみると相手の時間を奪わない営業チャンスはたくさんあります。ぜひ、そうした時間も積極的に使ってみてください。
取材・文/三浦香代子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/吉澤咲子

