街を散歩しながら、ラグジュアリーブランドのマネジメントを学ぼう。スイス生まれの気鋭のブランド学者、大阪大学大学院のピエール=イヴ・ドンゼ教授はこのほど『 ロレックス、ヴィトン、ポルシェ…成功するブランドが大切にしている「ヘリテージ」とは何か 』を刊行。この機に、ドンゼ教授と大阪・御堂筋のブランド街を歩いた。その前編。ドンゼ教授によると「御堂筋沿いには2タイプのラグジュアリーの店舗があり、歩くとそのことがよく分かる」という。

大阪大学大学院のピエール=イヴ・ドンゼ教授と大阪・御堂筋のブランド街へ(写真=宮田 昌彦、以下同)
大阪大学大学院のピエール=イヴ・ドンゼ教授と大阪・御堂筋のブランド街へ(写真=宮田 昌彦、以下同)

 ラグジュアリーブランドの戦略を学ぶ上で、その集積地を実際に回るフィールドワークは重要な方法だ。ドンゼ教授が今回選んだのが、大阪の御堂筋だ。大阪の繁華街・キタとミナミを結ぶメインストリートである御堂筋は、1920年代から1930年代にかけて大規模な再整備が行われた。当時の大阪市長、関一氏は、東京の銀座のようなモダンな大通りを街につくりたいと考えたとされる。現在、大阪メトロ本町駅周辺から心斎橋駅、私鉄やJRも集まるなんば(難波)駅周辺にかけての御堂筋沿いには、富裕層向けの「エクスクルーシブラグジュアリー」に位置付けされる超高級ブランドのブティックが北寄りに点在し、南へと進むにつれて、気軽に楽しめる「アクセシブルラグジュアリー」の店舗も目立つ。

 まずは大阪メトロ本町駅周辺から散策を始める。この周辺でまず気付くのは、高級輸入車のショールームが集中していることだ。ベントレー、マクラーレン、ランボルギーニ、そしてフェラーリがある。

 「高級車の販売形態は独特です。ファッションやアクセサリーとは異なり、一般的にはメーカー直営ではなく、独立したディーラーに依存していることが多くなっています。これは主にメンテナンスとアフターサービスのためです」(ドンゼ教授)

 自動車は定期的な整備が必要で、そのためには整備工場、部品在庫、作業員といった専門的なインフラが不可欠だ。販売台数が比較的少ない高級車ブランドにとっては大きな負担であり、メーカーは顧客対応を独立系ディーラーに任せることがある。ただし、その場合もすべてを独立系ディーラーに委ねることはあまりない。むしろ、ブランドの良好なイメージと世界中で一貫したメッセージの発信を確保するため、メーカーはディーラーとの緊密な連携を図る方針を採ることが多い。

 イタリア発祥のフェラーリの場合、日本では2008年に輸入・マーケティング活動を統括する子会社を設立。各地の独立系ディーラーとの提携も続けており、フェラーリは子会社と現地ディーラーが互いに補い合うハイブリッド型の販売モデルを採用する。本社は子会社を通じて顧客体験、車両の割り当て、ブランドイメージを管理し、そのネットワークは、高級ファッションブランドに匹敵する運営形態となっている。

 ドンゼ教授は「ショールームの設計、商品陳列、サービス基準、顧客関係管理、そして限定生産モデルへのアクセスも管理し、これはエルメスやルイヴィトンと似ています」と話す。独立系ディーラーは地元の富裕層顧客を熟知し、技術サービスも提供している。フェラーリは日本においてラグジュアリーファッションの小売業に近い運営を行いながら、同時に伝統的な自動車ディーラー制度に根ざした取り組みも行う。

大阪メトロ本町駅周辺には高級輸入車のショールームが集中している
大阪メトロ本町駅周辺には高級輸入車のショールームが集中している

「W」も「セントレジス」も同じマリオット系

 高級車のショールームが集中するエリア周辺の御堂筋沿いには、米マリオット・インターナショナルが展開するラグジュアリー・ライフスタイルホテルブランド「W(ダブリュー)」の「W大阪」の超近代的なタワーもある。Wは若い顧客の開拓を狙い、ラグジュアリー・ライフスタイルを掲げるブランドだ。W大阪は同ブランドの日本初となる施設として21年にオープン。今もWの施設は日本では大阪だけだ。

 「外観は大阪出身の建築家、安藤忠雄氏によってデザイン監修されました。黒を基調にしたシンプルでミニマルな外観は、カラフルで華やかなインテリアと対照をなしています。インフルエンサーやインスタグラマーにとって理想的なスポットとなっており、現実世界とソーシャルメディアの融合を体現しています」(ドンゼ教授)

マリオットが展開する「W大阪」は若い顧客の開拓を狙いラグジュアリー・ライフスタイルを掲げる
マリオットが展開する「W大阪」は若い顧客の開拓を狙いラグジュアリー・ライフスタイルを掲げる

 マリオットは手頃な価格帯のホテルからラグジュアリーホテルまで、多様なホテルブランドのポートフォリオを管理し、国際的な事業拡大を図ってきた。セグメンテーションは価格だけでなく、イメージ、雰囲気、そして異なる種類のサービスに基づいている。このため、例えばWブランドはすべてのタイプの富裕層に対応しているわけではない。マリオットは、同じ経済力のある層の中でも年配のゲストや伝統的なライフスタイルを好む人向けには別のホテルブランドも展開する。

 その一つが、「セントレジス」ブランドで、マリオットはW大阪よりも北に位置する、御堂筋の高層ビルで10年、「セントレジスホテル大阪」を開業している。同ブランドは、20世紀初頭に設立されたセントレジス・ニューヨークに由来するという。「当時はヨーロッパ貴族の洗練された邸宅文化をホテルに持ち込むことがコンセプトであり、1990年代後半に開発された現代版は、この遺産を継承して築き上げられています」(ドンゼ教授)。同ブランドのホテルがあるのも日本では大阪だけだ。

 マリオットは大阪においては別ブランドの「ザ・リッツ・カールトン大阪」も97年、御堂筋からは少し離れた場所に開業している。緻密なブランドのポートフォリオ管理によって、同じ都市に複数のブランドのラグジュアリーホテルを展開する。

マリオットは「W大阪」よりも北に位置する、御堂筋の高層ビルで「セントレジスホテル大阪」を運営
マリオットは「W大阪」よりも北に位置する、御堂筋の高層ビルで「セントレジスホテル大阪」を運営

日経ビジネス電子版 2026年8月5日付の記事を転載]

誰もが知る一流ブランドには、“〈創作された伝統〉=ヘリテージ”がある。「安くていいモノ」の時代は終わり、今後はヘリテージの成否が企業の成長を決める。ユニクロ、無印良品の成功にも通じる高付加価値の方程式を、スイス人の経営学者が明らかにする。世界で勝てる強いブランドを模索する日本企業に向けた一冊。

ピエール=イヴ・ドンゼ(著)/日経BP/2640円(税込み)