2026年2月28日、米国とイスラエルによる対イラン攻撃が報じられた。対するイランはホルムズ海峡の航行を阻害する措置を取った。6月には停戦合意に至ったものの、その後も攻撃の応酬が続いている。原油輸入の9割を中東地域に頼っている日本では、もし戦争が長期化すれば、1970年代に起きたような石油危機が再来するのではないかとの懸念も高まる。そこで、エネルギーアナリストの大場紀章さんに、「石油危機とエネルギー問題を考えるための本」を聞いた。1回目は、石油危機を振り返る3冊を紹介する。

タイムリーすぎて出版延期に

 米国とイスラエルによるイラン攻撃をきっかけに、石油やエネルギー問題への関心が高まっています。新聞に「ホルムズ海峡封鎖」という見出しが躍るのを見て、昭和生まれの世代は「石油危機がまたやって来るのか」と驚いたかもしれません。

「今の石油とエネルギーをめぐる状況は、第1次石油危機とひと続きです」と話す大場紀章さん
「今の石油とエネルギーをめぐる状況は、第1次石油危機とひと続きです」と話す大場紀章さん

 日本と世界の石油エネルギーをめぐる構図は1973年の第1次石油危機に始まり、それは現在も続いています。この数十年、石油価格が上がるたびに「石油危機再び?」という見出しの記事が出ました。しかし、結局はトイレットペーパー騒動ばかり取り上げられ、きちんとした検証は少なかったと思います。

 第1次石油危機の雰囲気を知るには、当時、通商産業省(現・経済産業省)の官僚だった堺屋太一さんによる予測小説『 油断! 』(文春文庫)が参考になります。

 物語では、中東で戦争が起きてホルムズ海峡が封鎖、石油の輸入が200日止まってしまいます。人々は生活必需品の買いだめに走り、企業は預金を引き出し、銀行は預金不足になります。そして、株式市場は大暴落、物流が止まって国民は飢えに苦しみます。「もし石油が止まったら起きるかもしれない未来」を生々しく描写しています。

 実は本書の印刷が始まるタイミングで、第4次中東戦争が勃発、石油危機が起きました。「不安をあおる」という理由で著者から出版停止の申し出があり、事態が落ち着いた1975年1月に刊行されたというエピソードがあります。

『油断!』(堺屋太一著)。写真は日経ビジネス人文庫版。画像クリックで文春文庫の電子書籍版のページへ
『油断!』(堺屋太一著)。写真は日経ビジネス人文庫版。画像クリックで文春文庫の電子書籍版のページへ

「千載一遇のチャンス」と「諸悪の根源」

 当時何が起きていたのかがよく分かる本が、関係者の証言集である『証言 第一次石油危機 危機は再来するか?』(電気新聞編/日本電気協会新聞部)です。本書には、第1次石油危機を象徴する「千載一遇のチャンス」と「諸悪の根源」という2つのキーワードが出てきます。

 「千載一遇のチャンス」とは、ゼネラル石油(当時)の社内文書にあった「今は大変な時期だが、石油危機は千載一遇のチャンスだと思って頑張ろう」というフレーズです。そこから「石油業界は不当に石油価格をつり上げている」と批判が巻き起こり、石油会社12社を巻き込んだ、泥沼の民事裁判となりました。最終的には全社が有罪となって、「石油ヤミカルテル事件」として業界に禍根を残しました。

 もう1つ、「諸悪の根源」は、通産省事務次官による発言で、これはもともとアラブ諸国の石油戦略を批判したものでした。

 しかし、このまま新聞記事になれば外交問題に発展する恐れがありました。そこで各紙の記者が相談した結果、「(日本の)石油業界は諸悪の根源だ」と報じたところ、石油連盟の会長が「これほどまでに石油業界を悪者扱いするのか」と怒り心頭に発したという逸話が出てきます。

『証言 第一次石油危機 危機は再来するか?』(電気新聞編)
『証言 第一次石油危機 危機は再来するか?』(電気新聞編)

 石油危機は1973年の第1次、1978~79年の第2次と2回起きましたが、日本向け原油の輸入は維持されました。石油危機と言われながら、原油を積んだタンカーは日本にやって来ていて、後から統計を見ても輸入量は減っていなかったのです。

 石油精製・元売りの業界団体である石油連盟はそのことを知っていましたが、通産省に情報をもっていったら、「『実は石油はあった』と言われたら大混乱する。しばらく待て」と指示されたという逸話も出てきます。

 資源エネルギー庁ができたのは1973年10月から始まった第1次石油危機の3カ月ほど前でした。第1次石油危機の2週間前には石油の担当者が収賄容疑で逮捕され、担当者はいませんでした。マスコミもどこに取材していいか分からず、実態を把握できません。今のようにインターネットなどありませんから、中東で何が起きているのかもつかめていませんでした。

 国会の質疑応答においても確かな答弁はなく、不安ばかりが先行しました。1973年12月初旬にはトイレットペーパーの買い占め騒ぎが起きました。新聞が「空になったスーパーの棚」の写真を載せたことで、パニックは拡大、洗剤の買い占めも起きました。

「石油危機=トイレットペーパー不足」ではない

 『証言 第一次石油危機 危機は再来するか?』は第1次石油危機の18年後に出版された本なのに対し、『石油危機から30年 エネルギー政策の検証』(エネルギー産業研究会編著/エネルギーフォーラム)は30年後に出版された本です。

『石油危機から30年 エネルギー政策の検証』(エネルギー産業研究会編著)
『石油危機から30年 エネルギー政策の検証』(エネルギー産業研究会編著)

 本書は、石油備蓄や新エネルギー開発、省エネルギーなど、石油危機後の日本のエネルギー政策を検証しています。石油代替エネルギーの開発及び導入を促進する法律(石油代替エネルギー法)という法律が作られ、石油以外のエネルギーはすべて「新エネ」と位置づけられました。その結果、日本の原油使用量は1996年をピークに半分ぐらいまで減ることになります。

 失敗に終わった日の丸油田の開発や、石油火力発電所を原子力やガス火力に置き換えていった過程も紹介され、日本のエネルギー政策の大きな流れをつかむのに役立ちます。

 第1次石油危機から50年たった2023年、イスラエルとハマスが衝突し、再び中東地域で紛争が起きました。2026年には『油断!』を想起させるホルムズ海峡封鎖が起き、2度の石油危機時にもなかった「石油供給停止」が現実となりました。

 石油の備蓄や迂回ルートの開発が進んだため、『油断!』が描いた通りの事態にはなりにくいとは思いますが、「我が国が消費する石油の大半は中東から」という構図は変わりません。今こそ石油とエネルギー危機の本質を学ぶ必要があると思います。

文/三浦香代子 取材・構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子