ESG指標は時価総額にどのような影響を与えているのか? どうすれば自社の企業価値が向上するのか? アクセンチュアのAI部門責任者、保科学世氏らは、日経平均株価を構成する企業についてESG指標および財務指標など合計467の指標が時価総額にどのような影響を与えているのか、企業価値とESG指標の因果関係を可視化した。 『データドリブン経営改革』 (日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

企業価値とESG指標の関係

 近年重要視されているESG指標について、どのような指標に着目していけばよいのだろうか?

 今求められているのは、「財務指標やESG指標のデータを統合、可視化して自社の業界内での立ち位置を把握すること」「どのESG指標がどれだけ企業価値にインパクトをもたらすか因果関係を踏まえた上で確実に企業価値を向上させる施策を特定すること」「データに基づき自社に最適なKPIを設定・追求することで、正確かつ説得力のあるESGの取り組みを投資家にアピールすること」と言えよう。

 筆者らは、上記を実現するため、日経平均株価を構成する企業について2009年から2020年のデータを使い、ESG指標および財務指標など合計467の指標が時価総額にどのような影響を与えているのか、構造方程式モデリング(SEM:Structural Equation Modeling)を用いて、企業価値とESG指標の因果関係を可視化した。

 このモデルは、相関関係ではなく、因果関係を考慮した上での関係性・ネットワークの可視化が可能で、非財務指標の本当の影響を数値化する上でノイズとなる企業規模や市場要因といった要素を可能な限り切り離して評価している。

 また、他のESGスコアに見られるようなビジネス目線での恣意的な重み付けはなく、データドリブンで影響の大きさを評価することが可能で、本領域で問題となる「企業として余力があるからこそESGに取り組めるのでは?」という疑問を極力排除できる分析手法を採用している。

 本調査結果から得られた、企業価値に対する項目別寄与度トップ30を見ていこう。

非財務指標を含む各種指標が企業価値に与えるインパクト
非財務指標を含む各種指標が企業価値に与えるインパクト
(出所)『データドリブン経営改革』
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「社会指標」が企業価値に影響する

 これを見ると、営業利益や自己資本利益率(ROE:Return On Equity)といった財務指標の影響は当然強いものの、ESG指標も企業価値に対して同レベルの影響を持つことがわかるだろう。

 特に、社会指標(Social)が企業価値に大きな影響を及ぼすことが見て取れる。なかでも、女性・LGBTなどの多様性に関する指標や、在宅勤務・産休制度などの働きやすさに関する指標が評価のポイントとなっている。

 このことから、男性優遇社会やハードワークといった日本文化の悪印象に対する改善アクションを推進している企業が、評価につながっていると言えるだろう。また、社会貢献に関する指標も上位に複数ランクインしている。

 すなわち、社会貢献は単なるイメージ戦略以上の意味を持ち、企業価値の源泉となっていると言えそうだ。一方で、環境(Environment)指標は相対的に影響度が小さく、日本では環境に対する取り組みが現状まだ十分にその評価を得られていない。

 企業価値に深く連動するESG指標があることは、以上からご理解いただけたのではないだろうか。

 ESG指標の向上を単なるイメージ戦略と捉えず、企業価値を最大化する意味でも、それぞれの指標を向上させる経営を行っていくことが求められている。

 自社にとって有効なESG指標は何かを可視化し特定した上で、その指標を向上させ、さらにそれを社内外に向けて強く発信していくことこそが、自社の企業価値を向上させることにつながるだろう。

ESG指標には企業価値と深く連動するものがある(写真:shutterstock)
ESG指標には企業価値と深く連動するものがある(写真:shutterstock)
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「可視化」と「AI予測」が勝ち筋へ導く!

AI機能を備えた組織の構築を実現している企業はわずか16%。この16%の企業は、他の企業と比べて3倍近い投資対効果を得ている。データ・AIの活用を進める際に直面する8つの壁と、その突破法とは? アクセンチュアAI部門責任者による、実例ベースの組織変革方法。

保科学世著/日本経済新聞出版/2200円(税込み)