大企業であっても、3割近くがKKD(勘・経験・度胸)で業務を遂行している。企業はなぜデータを活用できていないのか? データが足りないのだろうか? あるいは、意思決定プロセスに問題があるのだろうか? 実例ベースの組織変革方法を、アクセンチュアのAI部門責任者、保科学世氏が解説。 『データドリブン経営改革』 (日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。
経営者はデータ活用をできていない?
あなたの会社の経営者は、正しくデータを活用しているだろうか?
残念ながら、日本企業の経営者はデータ活用ができていないことをうかがわせる調査結果がある。
データ主導型のインサイトと自らの直感、どちらを優先するかを問う調査が行われた。(Qlik&Accenture「データリテラシーによる人への影響」)
この調査では、「自らの直感」を優先する割合が、下位管理職(ジュニアマネジャー)では41%であったのに対して、上位役職(最高責任者、シニアマネジャー、重役)では67%という結果が出た。
上位役職者の方が一般管理職より直感を優先する、しかもその割合は7割近くに達するというのだ。
つまり、現場よりも経営陣の方が、より直感を優先する傾向があることが示唆されている。これはある意味、理解できる結果かもしれない。成功体験をより多く蓄積してきた人が上位役職に就くので、自らの経験・直感に頼る傾向が高いのではないだろうか。
しかし、その成功体験の多くは、現時点より低いポジションで得られた経験、すなわち、自らの目が届く狭い範囲で積み上げられた成功体験であり、広範な〝直接目の届かない〞範囲も含めて統括する現在のポジションにおいては、直感での判断はリスクが高い。
さらに、過去の成功体験は、現在とは全く異なる環境で得た経験である場合が多い。ビジネス環境が急速に変化する中で、自らの直感をどこまで信じてよいのか、いま一度経営陣は考えてみてほしい。
客観的なデータはデータとしてしっかりと目を通し、AIによる解析結果も活用した上で、自らの経験も踏まえて総合的に判断することが望ましいのは言うまでもない。
「ベストプラクティス」よりも「正しい失敗」を
もちろん、手元にあるデータだけで全てが決まるわけではなく、優れた経営者の持つ、優れた〝直感〞も必要になる。ただ、本当に優れた経営者は、〝データ〞をしっかりと見た上で、そのデータと自らの〝直感〞をうまく組み合わせて総合的に経営判断を下しているという印象を筆者は持っている。
日本はまだ、アメリカと比べて経営陣の目線が社内に向いており、配下の部長陣等に〝忖度〞(そんたく)し、社内調和を重視しながら経営しているように見える。これはこれで良い面もあるが、客観的なデータに基づくべきところは基づいて経営判断をすべきだろう。
そして今後は、よりアメリカ型、すなわち外部メンバーも含めた取締役を意識した経営への転換が進むと予想されるが、その時に必須となるのがまさに、データドリブンな経営だ。
データや、さらに新しい技術であるAIを活用してどのように経営判断を行うべきか。また、AIのような新しい技術を活用する場合、何を自社で持ち、何をアウトソースするのか。それらの判断も経営陣の重要な意思決定ポイントだ。
いまの世の中において、高度なAI技術を全て自社で賄うことはあまり正しい選択とは言えない。一方で、外部に全て丸投げするのも正しい判断とは言えない。
どのような形で外部と協業するのか。言い方を変えるなら、いかに外部の組織と良い形で協業体制を築き、自社の力を高めるのか。その判断こそが、経営における極めて重要な意思決定ポイントと言えるだろう。
AI時代は、ありきたりなやり方が通じない。もはやリーディングカンパニーのベストプラクティスをまねる時代は終わりを迎えつつある。
変化が激しい世の中で、自らの組織に合ったやり方を、データやAI技術を使って見つけ出すことが求められる時代に突入している。
そこで重要なのは、新しいチャレンジを常にし続けることであり、世の中では「失敗を恐れるな」としばしば言われるが、経営層が心がけることは「失敗を推奨せよ」であるとさえ、考えている。
この考え方を身につける、文化として定着させることも、経営陣のリテラシーとして重要なポイントだ。
データを学習してはじめて効果が明らかになるAIの性質上、「小さな」失敗を繰り返しながら進化をすることは避けられないプロセスであり、時代から取り残される「大きな」失敗をする前に、「小さな」失敗から学び、適切に軌道修正を繰り返すことがゴールへの近道となる。
つまり、AI時代には成功体験のみならず、正しく失敗経験を積むことこそが重要だろう。
AI機能を備えた組織の構築を実現している企業はわずか16%。この16%の企業は、他の企業と比べて3倍近い投資対効果を得ている。データ・AIの活用を進める際に直面する8つの壁と、その突破法とは? アクセンチュアAI部門責任者による、実例ベースの組織変革方法。
保科学世著/日本経済新聞出版/2200円(税込み)