小さい頃から本に囲まれて生活をしてきたマクアケ共同創業者/取締役の坊垣佳奈さん。年々忙しくなってきているので、せっかくなら「読む価値のある本」を読みたいと感じているそうです。価値観が似ている人や、「このジャンルではこの人」という第一人者の本を読むことが多いなか、今の時代の「最重要コンセプト」を紹介している本と感じたのが『パーパス 「意義化」する経済とその先』。坊垣さんが20代に薦める本を紹介する連載第3回。

利益至上主義に疑問を投げかける

 今回は、最近読んで感銘を受けた本を紹介します。 『パーパス 「意義化」する経済とその先』 (岩嵜博論、佐々木康裕著/NewsPicksパブリッシング)は、著書の佐々木康裕さんと一度対談し、勝手ながら「ビジネスへの根底にある考え方がすごく似ているな」と思わせていただいたことから、手に取りました。

 年々忙しくなってきているので、せっかくなら「読む価値のある本」を読みたいと感じています。佐々木さんのように価値観が似ている人や、「このジャンルではこの人」という第一人者の本を読むことが多いですね。「何が書いてあるか」よりも、「著者は誰か」「信頼できる情報か」をもとに本を選ぶことが多い。私のことをよく知っている人が薦めてくれた本も、期待外れがありません。

 さて、こちらの本は今の時代の「最重要コンセプト」ともいえる「パーパス(企業の社会的存在意義)」について書かれています。

 近年、SDGs(持続可能な開発目標)や気候変動、ESG(環境、社会、企業統治)投資、ジェンダーギャップの解消など、さまざまな社会課題をビジネス戦略の中心に据えるべきだという流れが出てきていますが、まさにこれがパーパスです。

パーパスのあるビジネスと今の時代における経済の変化、具体的な実例が数多く示されている『パーパス 「意義化」する経済とその先』
パーパスのあるビジネスと今の時代における経済の変化、具体的な実例が数多く示されている『パーパス 「意義化」する経済とその先』
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 ただ、私は、パーパス自体は昔からある考えで、名だたる経営者の方々も言っていることなので、それほど新しい概念だとは思っていませんでした。

 でも、なぜ今、改めて注目されているんだろう、と。この本は上位概念としてパーパスのあるビジネスと今の時代における経済の変化、具体的な実例が数多く示されていて、その疑問に答えてくれました。

 私も20代の頃には数字を追いかけるだけの苦しさとか、この一生懸命やっていることが誰のため、なんのためになるのかと悩んだことがありました。もちろん目の前の仕事は面白いし、自分を成長させてくれる。でも、どこか釈然としない。納得できない。何かが足りないという渇望感を抱えていました。その悩みが消えたのは、マクアケを立ち上げてからです。それはマクアケが「応援購入」という「人々の思い」に応える形でビジネスをしているからだと思います。

 これまでの時代は、基本的には「自己実現ありき」でしたが、今はその上の「自己超越欲求」が生まれ、「社会のために役に立ちたい」という思いが育ってきています。この本では分かりやすく、「ビジョン/ミッション」は「企業やブランドがどうなりたいかという一人称」、「パーパス」は「どんな社会をつくりたいのかという三人称的視点を包含したもの」と説明しています。

「パーパスは遠い国の出来事ではない」という坊垣さん
「パーパスは遠い国の出来事ではない」という坊垣さん
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 欧米のように社会が成熟した国や社会福祉が充実している国ほど、そうした考えが当たり前になってきていますが、日本ではまだ根づいているとは言い難いですよね。この本では、「なぜ、最近サステナビリティへの取り組みが一気に進んだのか」「なぜ、急速にESG投資の存在感が増しているのか」といった世界中の事例が示されているので、現状ではパーパスを遠い国の出来事のように感じている人にも納得感があると思います。

「理想」と「現実」の両立は可能か

 とはいえ、本当に「理想(社会的意義)」と「現実(利益)」の両立を実現できるのか。特に日本の現況を見ていると、「それは夢物語なのでは」と思う人もいるでしょう。

 しかし、資本主義が行き過ぎた結果、その負の遺産が気候変動やジェンダーギャップなどへの影響として現れてきています。資本主義社会で生き、それが当たり前だと思ってきた人ほど、目を背けたり、認めたくなかったりするかもしれません。

 その反面、本来の目的を深く考えずESG投資などにとりあえず手を出しておけばいい、と考えている企業も多く、本当の意味で社会的意義のための経営に乗り出している企業はまだまだ少ない。あるいは最初は志があったけれども、利益を追求するなかで、思いが薄れていってしまったケースもあるのかもしれません。

 でも、この本では、「理想(社会的意義)」と「現実(利益)」を両立する手立ては必ずあると説き、「社会課題を解決しようとしている企業ほど、高い評価を得ている」という実例も数多く示しています。もはや資本主義は行き着くところまで来ていて、社会的意義を問われているのです。

「もはや資本主義は行き着くところまで来ていて、社会的意義を問われている」と語る坊垣さん
「もはや資本主義は行き着くところまで来ていて、社会的意義を問われている」と語る坊垣さん
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 著者の佐々木さんは、「社会的意義のあるモノしか売れなくなり、そうした商品・サービスを扱う会社しか認められなくなる」といった趣旨のことを述べています。パーパスに関連した本はいろいろとありますが、ここまで言い切っている本は珍しい。痛快でもあります。そういう意味ではこの本はパーパスの入門書であり、未来提言の書ともいえます。

取材・文/三浦香代子 構成/雨宮百子 写真/小野さやか

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坊垣佳奈著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)