起業、楽天イーグルスの立ち上げ、ヤフーでのPayPay立ち上げなど数々の事業を成功させてきた小澤隆生氏。スタートアップでも、大企業の新規事業立ち上げでも、投資家としても大きな成果を残してきた。その半生や事業のフレームワークを作家の北康利氏が新刊『 小澤隆生 起業の地図 』にまとめた。今回は発行記念の書き下ろし4回連載の1回目。
『小澤隆生 起業の地図』を世に問うた直後ということで、本書の冒頭に掲げた「おざーんの法則」にまつわる話を4回シリーズで書いてみたい。「おざーんの法則」とは、希代の起業家小澤隆生の生き方を見ていて、(きっと彼はこれらを起業成功の法則としているんだろうな) と感じたものを、筆者が18項目抽出したものだ。
・先人に学ぼう
・本を読み、人の話を聞こう
・日々面白いことを考えよう
・徹底的に事例研究をしよう
・友だちをつくろう
・成長する市場を選ぼう
・ゴールドラッシュにできるだけ早く飛び込もう
・市場の声に耳を傾けよう
・実現したいことを要素分解しよう
・物事の本質を考えよう
・センターピンを見極めよう
・仮説・検証を繰り返そう
・最初に打ち出す角度が大事
・失敗を恐れず、失敗から学ぼう
・何があってもやり抜く覚悟、執着心を持とう
・苦しい時でも笑おう
・自分の得た果実を次世代に託そう
そして、冒頭にあるのが「人生を動かすのは黒船(Hard things)だ」である。
小澤は『 HARD THINGS(ハード・シングス) 』(ベン・ホロウィッツ著、日経BP)にほれ込み、日本語版の序文を寄せている。「面白いこと」ばかりを選んだはずの小澤の人生にも、地獄のようなHard thingsが何度もやってきた。
小澤にとって最初のそれは20歳にやってきた。
父親からあらたまって、
「お前にうちの会社は継がせられない。実は60億円の借金があるんだ」
と告白されたのだ。この時には頭の中が真っ白になったそうだ。
Hard thingsは複数形だ。決して一度では終わらない。最初の起業で資金調達ができなかった時もつらかった。
ベンチャーキャピタル(VC)の人間から事業そのものを否定されるようなことを言われ、
(人生を懸けてはじめた起業が結局は失敗だったのか、それなら巻き込んだ友人はどうするのだ)
と眠れない日々を過ごした。今の若き起業家たちも、日々このHard thingsと格闘しているはずだ。
貧困、震災、戦争など伝説の起業家たちを困難が襲った
過去の伝説の起業家たちも、とんでもないHard thingsに直面している。現代とレベルが違うのは、人が簡単に死ぬことだ。
経営の神様・松下幸之助は8人兄姉の末っ子として和歌山の裕福な農家に生まれたが、父親が米相場に失敗して全財産を失い、食べるものにも困った。栄養状態が悪化すると免疫力が低下する。兄や姉は結核でバタバタと死んでいき、末っ子の彼が松下家の命運を託された。
シャープの創業者早川徳次は幼い頃、継母から虐待を受けて育ったが、丁稚(でっち)奉公の後に独立して手に入れた工場を関東大震災で失ったのみならず、猛火の中で妻子が死に、家庭が崩壊していく生き地獄を見た。それでも債権者は許してくれず、シャープペンシルの特許さえ売らざるをえなくなった。
戦争世代は言うに及ばない。ワコール創業者の塚本幸一は太平洋戦争の激戦の中でもとりわけ悲惨なものとして知られるインパール作戦の生き残りである。多くの戦友を失った心の傷は生涯消えず、毎晩悪夢にうなされ、「うぉーっ」と叫んでは夜中に飛び起きたという。
時として命を削る思いをするのが起業だが、我々にはそこまでのHard thingsはまず訪れない。だが覚悟は必要だ。
『小澤隆生 起業の地図』を読んで気づかれるであろうことは、Hard thingsを含めてゲーム感覚で楽しんでいく姿勢である。「迷ったら面白いほうを選べ」。起業は人生という時間を最高に楽しめるゲームなのかもしれない。
北康利 著/日経BP/1870円(税込み)

