「情報収集が苦手」「何から手を付けていいか分からない」という人こそ、「So what」「What if」を考えてみるといいかもしれません。「自分はその情報を得てどうしたいのか」までを考えてみると、情報の波におぼれず、収集疲れを起こすこともありません。一橋大学名誉教授の石倉洋子さんが、情報があふれる時代の取捨選択術を伝えます。連載第1回。
インプットしたらアウトプットまでする
長引く新型コロナウイルス禍にロシアのウクライナ侵攻と、まさにVUCA(先行きが不透明な状態)時代ともいえる毎日が続いています。そんななか、「どうやって時代の先を読む情報を集めていますか」「どこから信頼できる情報を得ればいいのですか」と聞かれることが増えてきました。
私の情報収集術は、自著の『 世界で活躍する人の小さな習慣 』(日経ビジネス人文庫)でも紹介しましたが、「完璧を目指さない」「まずやってみる」が基本です。毎日2時間30分くらい英語のポッドキャストを聞き、気になるニュースをチェックしています。
よく聞くのは海外のニュース、サイエンス、IT、テクノロジーに関連のあるコンテンツで、イギリスのBBCやNPR(米国公共ラジオ放送)の「Fresh Air」など。「Fresh Air」はテリー・グロスというホストが各界の人物にインタビューをしているので、旬の話題を耳にできますし、面白いですよ。こうした番組をジョギングするときなどに「ながら聞き」して情報をインプットしています。
情報源はポートフォリオを組み、北米やヨーロッパ、アジア圏など、日本以外の情報も幅広く取り入れるようにしています。友人や知人に「面白いコンテンツはある?」と聞くことも多いですね。
Twitterも便利です。毎日、興味関心のある分野には目を通しています。ただ、このときに大事なのは「情報はただ集めるだけでは意味がない」ということ。何かをインプットしたら、「自分のメッセージ」としてアウトプットまでしないと、本当の意味で情報を活用できたことにはならないと思います。だから、気になるツイートがあったら、必ず引用ツイートをして、短くてもいいので自分の意見を書くようにしています。
その点、「○○について講演してください」と言われたときはチャンス。インプットとアウトプットの機会が同時にやって来るわけですから。しかも締め切りがあるから、絶対に手を付けなくてはいけません。私は怠け者なので、強制的な締め切りがあったほうがやる気が出ます(笑)。仕事で何か調べないといけないときは、締め切りを最大限に活用するといいですね。
知りたい情報について一生懸命に調べて、それでも分からなかったら詳しい人に聞くのが早くて確実です。先日はクリプトクエストメタバース(NFT<非代替性トークン>ゲーム)について調べていましたが、これは専門家に聞いたほうが早いと思い、シリコンバレーにいる友人に話を聞きました。「何でも自分で」「完璧に」を目指すよりもスピード感が大事です。
もし「情報収集が苦手」「何から手を付けていいか分からない」という人がいたら、「So what」「What if」を考えてみましょう。だから何なのか。自分はその情報を得てどうしたいのか。アウトプットの部分まで考えてみると、情報の波におぼれず、収集疲れを起こすこともないと思いますよ。
毎日のルーティンが自分を育てる
情報のインプットとアウトプットは、ルーティンにすると自らの力となります。私は「アメリカとヨーロッパの気になるツイートを1つずつ見つけ、引用ツイートをする」と決め、毎日続けています。
それから英語の5分間スピーチ。語学を勉強したことのある人なら、「外国語を流暢(りゅうちょう)に話すためには音読が大事」と聞いたことがありますよね。でも、ひたすらテキストの音読をするのは大変だし、忍耐力を要します。ただ、自分の興味のある分野についてスピーチするのであれば、ハードルが下がります。
引用ツイートすると決めたツイートは、毎日音読しています。また、別途その日考えたことなどを「5分間のスピーチ」として話し、それを自分でビデオに撮っています。英語もいざというときに使えない(アウトプットできない)と意味がありませんから、ブラッシュアップは必須です。
人にもよると思いますが、私は締め切りがあったり、「毎日やる」と決めたルーティンがあったり、何か自分に「足かせ」があったほうがやる気が出るタイプ。情報のアウトプットのほかにも、ジョギングやストレッチも欠かさないようにしています。
何かを始めるときは、「これはやる価値があるのか」なんて深くは考えません。父がアコーディオンを弾いていたので、自分も始めてみたこともあったし、つい最近は女性専用のジムにも入会。ジムは1日に30分間のレッスンで通いやすいので、友人にも勧めたら4人くらい入会しました。おかげでジムから感謝されて、Tシャツをもらいました(笑)。
でも、そうやって勧めても、人によっては「時間の都合が…」「体調が…」と二の足を踏む人もいます。何か新しいことを始めるときに躊躇(ちゅうちょ)する人は、「ハードルを上げ過ぎている」のでしょうね。意味があるかないか、続くか続かないかは考えず、「まずやってみる」と初動が早くなります。
そして、やってみて「何か違う」と思ったら、すっぱりやめてもいいのです。私も、アコーディオンは早々に「これは歯が立たない」と分かったのでやめました。人は年齢とともにやることが増え、何かを始めるのが億劫(おっくう)になりがちです。そこに最初のハードルを上げ過ぎたり、やめてはいけないと自分を縛り過ぎたりすると、本当に何も身動きが取れなくなります。
何でも興味を持ったことは調べてみる。それをどう生かすか考える。でも、自分には合わない、必要ないと思ったら、どんどん次へと進む。そうしたフットワークの軽さが、今の時代には必要なのだと思います。
取材・文/三浦香代子 構成/雨宮百子 写真/小野さやか
『 世界で活躍する人の小さな習慣 』
「成果が出なければ、すっぱり見切る」「意識してつきあう人や場所を変える」「完璧は目指さない」――。数々の企業の社外取締役を務め、ダボス会議などで広く活躍する著者が、次世代のリーダーに向け、「世界標準」の働き方や考え方のコツを伝授します。
石倉洋子著/日本経済新聞出版/880円(税込み)