有限なエネルギーを有効に使うには、「ハードルを低く」「合わないと思ったら、すっぱりやめる」ことが大切だ。自分の限界を超えているのであれば、やめることも選択肢の1つ。暗い情報も多いなか、振り回されないためにはどのようにすればよいのか。一橋大学名誉教授の石倉洋子さんが、先が見えない時代の仕事の習慣を伝える連載第2回。
日々をエネルギッシュに過ごすために
私は何かを始めるときには「ハードルを低く」「合わないと思ったら、すっぱりやめる」ことにしています。なぜなら、自分のエネルギーは有限だから。それをネガティブな方向に使っても何もいいことはありません。やはりポジティブな方向に使い、いかに活用できるかが重要です。
でも、まじめで頑張り屋な人ほど、「もっと頑張れば」「自分が悪いのかな」と悩み、思い詰めることもあるでしょう。
そんなときは、「しきい値(境目となる値)を超えているか」と考えてみるといいと思います。自分の限界を超えているのであれば、やめることも選択肢の1つです。私もコンサルティング会社から転職したのは、「頑張ってきたけれども、今の状況はおかしい」と感じたからでした。
私は何かを始めるときも、やめるときも、あれこれと思い悩まないタイプですが、「どうすれば迷惑をかけずにやめられるか」には注意を払います。例えば、誰かが引き立ててくれたおかげで役職に就いたときなどは、「期待に応えられずに申し訳ありませんが」と、まずその人に相談をし、跡をにごさずにやめる方法を考えます。
ここ数年はいろいろとありましたし、毎日2時間半ほど聞いているポッドキャストも、新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻など暗いニュースばかり。ふと気づくと、自分がネガティブな思考のスパイラルにはまり込んでいました。これではいけないと、ジョギングのときにBTSやレディー・ガガなどアップビートな音楽を聞くようにしたら、気分を持ち直しました。Spotifyは気分を上げる音楽が聞けるのでいいですね。
他にも、ネガティブスパイラルにはまらないよう、「エネルギーを奪われる人とは会わない」「時と場合に応じてカウンセリングを受ける」といったことに気をつけていますが、一番効果的なのは「不調の原因を書き出す」ですね。
人は忙しいと自分の心の声に耳を傾けなかったり、不調を無視したりしがちですが、違和感を見逃さないことは自分の身を守るすべでもあります。
どうしてうまくいかないのか。なぜ、自分の気分が落ち込んでいるのか。じっくり原因を探り、手を動かしながら書き出していくと、頭の中がクリアになります。
そして、それに対して、「自分はどうするのか」という決断まで書き出してしまえば、モヤモヤは「過去のこと」となり、「あれこれ思い悩んでも仕方ない」と気持ちを切り替えられるようになります。書き切ったら、後から見返す必要もありません。
不調やトラブルを放置しておいたら、いつまでも解決しません。何でもいいから自分で手を打つ。自分でアクションを起こすことに意味があり、自信にもなるはずです。
「何に時間を使っているか」も可視化
「書き出す」と言えば、自分が何にどのぐらい時間を使っているかも書き出します。毎日のタスクはEvernoteに入力していますが、時間を管理するために愛用しているのは、イー・ウーマン社長の佐々木かをりさんが考案した手帳「アクションプランナー」。
手帳で時間管理を始めたのは、日本学術会議の副会長をしていたときに、「その仕事にどのぐらい時間をかけているのですか」と聞かれ、自分でも答えられなかったからです。エネルギーと同じで、自分が持てる時間にも限りがあります。「これはファクトベースで管理していないとまずいな」と思い、アクションプランナーを使い始めました。
今はコンサルティング会社での経験を基準に、1日7時間をベースに働いています。もちろん、実際に細かく時間を計るわけではありませんが、基準を決めておくことは効率的に仕事をするのに役立ちます。
何に時間を使っているのかを書き込み、1週間、1カ月、年末には12カ月分を集計します。タスクごとに何パーセントを占めているのか、達成度はどうだったかの振り返りもします。もちろん、うまくいかなかったことに対しては対応策、解決策も考えます。
また、毎年秋ぐらいになると翌年のカレンダーに進行中のプロジェクトなども書き込み、早めに計画を立てるようにしています。
プロジェクト、セミナー、プライベートとカテゴリーごとに色分けして管理していますが、コツは「手帳で一元管理」と「厳密にやり過ぎない」こと。プロジェクトごとに書く場所を変えていると、繁忙期が重ならないかなど、全体像を把握できません。仕事を進める上でも思考を整理する上でも、全体像を可視化しておくのは大事です。
そして、コンサルタント時代に、「仕事とは時間をかけず楽にするもの」だと学びましたが、仕事を楽にするための時間管理術もざっくりでいい。手帳を完璧に書くことにこだわり過ぎると、時間を取られて、本末転倒になってしまいますから。
限りあるエネルギーと時間を自分のために使う。そうすれば充実した毎日が送れるはずです。
取材・文/三浦香代子 構成/雨宮百子 写真/小野さやか
『 世界で活躍する人の小さな習慣 』
「成果が出なければ、すっぱり見切る」「意識してつきあう人や場所を変える」「完璧は目指さない」――。数々の企業の社外取締役を務め、ダボス会議などで広く活躍する著者が、次世代のリーダーに向け、「世界標準」の働き方や考え方のコツを伝授します。
石倉洋子著/日本経済新聞出版/880円(税込み)