いつまでも上司や顧客のOKが出ない。やたらと仕事の手戻りが発生する。グダグダな議論が続く……職場でよくあるこんな悩みを解決するのが構造化思考アプローチ。MBAでも学ぶスキルで、問題解決のプロがやっている手法だ。今回は、書籍 『構造化思考トレーニング』 より、構造化思考アプローチの実際の進め方について、その概要をご紹介したい。

構造化思考のトライアングル

 構造化思考の実践は、大きく3つのステップで構成される。
 ステップ1 論点を分解する
 ステップ2 解き方を整理する
 ステップ3 解を整える

 これは「キークエスチョンから論点を分解して、ピラミッド構造を上から下へと作成するステップ」「ピラミッド構造の末端の内容をどのように解くかを整理するステップ」「実際に解いて結論を出し、その内容を伝えたい相手に対してわかりやすく整理するためのステップ」――をそれぞれ指す。

 これを図示すると、おおよそ次の図のようなトライアングルとして表現できる。これを「構造化思考のトライアングル」と呼ぶ。

構造化思考のトライアングル
構造化思考のトライアングル
(出所)『構造化思考トレーニング』
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 以下、ステップ1についての詳細と取り組む上でのポイントを記載していく。

キークエスチョンの背景を理解する

 ステップ1においてはキークエスチョンを分解することがメインの取り組みとなるが、まずはゴール・キークエスチョンを定義する際のポイントから述べたい。

 ここは構造化思考の出発点であり、ここでいかに具体的かつ筋の良いゴールが設定できるかで、構造化思考のクオリティも左右される。

 ポイントは自身が取り組もうとしている事柄について、「誰が」「(いつまでに)どのような状態になっている必要があるか」をできる限り詳細に定義することだ。そのためには、表面的に見えていることだけを踏まえるのではなく、今回解こうとしているキークエスチョンの背景をしっかり理解することが重要になる。

 具体的にご理解いただくために、1つのコンサルティングのプロジェクトを例に取って説明したい。

 事業の多角化を推進する大手企業A社が、新規事業候補として「サービス付き高齢者向け住宅(安否確認など、さまざまな高齢者向けの生活支援が受けられる賃貸住宅のこと。以降、サ高住)」事業への新規参入を検討し、その妥当性や有望性についてコンサルティング会社に検討を依頼してきたとしよう。

 この表面的な状況だけをみると、ゴールは「A社がサ高住事業に参入すべきかの是非が明らかになっている状態」で、キークエスチョンは「A社はサ高住事業に参入すべきか?」となる。

 一方で、この依頼の背景として以下のような内容があった場合、キークエスチョンの設定にどのような影響があるだろうか。

事業多角化を推進する大手企業A社の新規事業担当役員は、A社の新たな成長領域としてサービス付き高齢者向け住宅事業(サ高住事業)に着目している。そこで、サ高住事業の新規立ち上げの是非についてA社の新規事業部で検討するよう、新規事業部長に指示を出した。この新規事業部長は、A社にサ高住事業に関する知見が乏しいことから、コンサルティング会社B社に立ち上げの是非を検討するためのコンサルティングを依頼した。

 このような背景の場合、キークエスチョンは「A社はサ高住事業に参入すべきか?」に加えて、「新規事業担当役員に参入の是非について納得してもらうために、プロジェクト遂行上どのような点に留意すべきか?(コミュニケーション頻度・タイミングなど)」といったキークエスチョンも設定される。

 当然、このような観点からもキークエスチョンを設定しておき、必要な対応が実施されたほうが、クライアント(A社)の満足度が高まることはいうまでもない。

MECEであることに気をつける

 もう1つのポイントは、分解する際にはMECE(ミーシー)であることに留意するという点だ。これは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive の頭文字を取ったもので「モレがなく、ダブりがない」ということを意味する。

 当然、論点構造に漏れがあるのは望ましくなく、また、同じ階層の論点に概念的にダブりがあると、その上位の階層の論点に解を出そうとする際に、同一の判断軸を重く見すぎてしまうリスクがあるなど、いずれにしても論点構造として望ましくないものとなってしまう。

 そこで、このMECEをできる限り実現するための論点分解手法を4つ紹介したい。

できる限りMECEな論点構造をつくることが第1歩になる(写真:Shutterstock)
できる限りMECEな論点構造をつくることが第1歩になる(写真:Shutterstock)
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文章を区切る

 まず1つ目は「文章区切り」である。
 その名の通り、文章を区切って論点を分解することを指す。これは特にキークエスチョンから1レイヤー目の論点を設定する際に使えることが多い。この際、キークエスチョン自体の内容に漏れのないことが前提となる。

 具体例を挙げると、仮にキークエスチョンが「新規事業の企画具体化のうえ、関係者間で企画がオーソライズされ、立ち上げ準備に向けた取り組みが整理された状態とは?」であったとする。

 この場合、次のレイヤーの論点を「新規事業のあるべき具体的な企画イメージとは?」「関係者間で具体的な企画内容をオーソライズするためには何が必要か?」「立ち上げ準備に向けた取り組みをどのような枠組みで整理すべきか?」などと分解するようなイメージとなる。

フレームワークを活用する

 2つ目は、「フレームワーク」を使って分解する手法だ。
 フレームワークとは、何らかの目的を実現しやすくするための「枠組み」や「観点」のことである。

 具体例を挙げながら少し説明をしたい。例えば、企業・事業の戦略設計のために活用するSWOT分析というフレームワークがある。
 これはStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)のアルファベットの頭文字を取ったものであり、企業戦略や事業戦略を設計する際に、当該企業・事業の強み/弱みや、当該企業・事業が直面する機会/脅威を踏まえて検討するというフレームワークである。

 マーケティング戦略検討の4Pというものもある。これはProduct(商品)、Price(価格)、Place(販売チャネル)、Promotion(プロモーション)という単語の頭文字を取ったものであり、企業の商品・サービス販売のターゲット層に対するマーケティングを検討する際の観点を表すものである。

 他にもさまざまなフレームワークが存在するが、このフレームワークとはMECEであることが前提になっているため、フレームワークを使って論点を分解することは1つの有用なやり方となる。

 このため、例えば「A社の顧客層Xに対するマーケティング戦略は?」という論点に対して、「自社の中で最も訴求する商材(Product)は?」「当該商材の望ましい価格帯(Price)は?」「顧客層Xにアプローチする際の活用すべき販路(Place)は?」「どのようなプロモーション(Promotion)を行うべきか?」といった形に設定できる。

前提条件で分解する

 3つ目は「前提条件」で分解していく手法である。

 例えば、「A社は新規に開拓するY市場で勝てるか?」という論点があったとする。このときに、「そもそもY市場での勝ち負けを決定付ける要因とは何か?」という“前提条件は何か”を探るための論点と、「その要因の観点でA社は他社と比較して優位性があるか?」という“(明らかになった)前提条件に鑑(かんが)みるとどう判断されるか”といった論点を設定するイメージである。

 この例での前者に当たる論点は、口語的に表現すると“そもそも”といえることが多いことから、筆者は「前提条件」による分解を「“そもそも”分解」と呼んでいる。

「通念的概念」を利用する

 4つ目が「通念的概念」を用いた分解である。

 これは(先に解説した)MECEであると通念的に考えられている概念を用いて分解する手法であり、例えば「未来・現在・過去」「ソフト・ハード」「企画・実行」「静的・動的」などが例として挙げられる。

 より具体的に分解イメージを示すと、「市場は規模の観点から魅力的か」という論点を「現時点の市場規模は(静的)?」と「市場規模の変化率は(動的)?」と分解する、といったことが挙げられる。

 これらの4つの手法などを活用しながら、キークエスチョンを分解し、論点の構造化を行っていく。

課題解決のプロがやっている思考法を解説。

いつまでも上司や顧客のOKが出ない。やたらと仕事の手戻りが発生する。グダグダな議論が続く……職場でよくあるこんな悩みを解決する、構造化思考アプローチについて解説。実践問題を解くことで、使いこなせるスキルが身につきます。

中島将貴著/日経BP/1760円(税込み)