γ-GTPやAST、ALTといった肝機能の数値が悪くても、痛みなどの症状がないことから、そのまま対策を打たず放置している方も少なくないと思います。しかし、新刊『 健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと 』の著者である大阪大学特任准教授の野口緑氏は、「自覚症状がないからこそ、健康診断で数値をしっかりチェックし、対策を打つ必要がある」と強調します。肝機能の数値が上がることの意味などについて解説していただきました。

(4コマ漫画:つぼい ひろき)
(4コマ漫画:つぼい ひろき)

肝機能の数値が上がることの意味

 肝臓は肝細胞の集まりで、1つ1つの肝細胞が小さな工場のように働いています。しかし、工場でやるべき仕事が多過ぎると、これらの肝細胞が壊れてしまいます。そうした肝細胞の状態を表す検査値がASTやALT、γ-GTPです。

 肝細胞が壊れると、その中にあるAST やALT などの酵素が血液の中に流れ出てくるため、これらの数値が上がります。

 AST は「急性炎症」など、急に肝臓の細胞が傷んだときに上がりやすいという特徴があります。例えば、体で処理しきれないアルコールや薬剤の解毒など、摂取したものの処理の負担が大き過ぎて肝細胞が壊れたときなどに上がるのです。

 一方、ALT は、慢性的な肝細胞のダメージがあるときに上がってきます。γ-GTP は肝細胞や胆管細胞に存在する酵素で、これも肝細胞が傷むと、血液中に漏れ出して数値が上がります。

 私が最近気になっているのはサプリメントなどの健康食品です。体に良いイメージがあるサプリメントですが、それが原因で肝機能が悪くなる人は珍しくありません。成分そのものが、過度にとった場合などに負担になることもあるし、栄養素を包む基剤になっている化学物質を無毒化する過程で肝臓を悪くすることもあります。良かれと思って飲んでいるサプリメントで、逆に体を壊してしまう、ということもあるのです。

 食べ過ぎなどで肝臓に脂肪がたまった「脂肪肝」になることでも、肝細胞が壊れ、肝機能の数値が高くなります。内臓脂肪の倉庫がいっぱいになると、あふれ出てきた脂肪を肝臓で備蓄しようとするのです。すると、本来は赤い肝臓が、まるでフォアグラのようにピンク色になってきます。

 1つ1つの肝細胞は小さな工場のようなものですが、その小さな空間に脂肪がたまると、スペースが狭くなって仕事がしにくくなります。そして、脂肪がたまると肝臓の負担が増して、肝細胞が壊れやすくなります。脂肪肝は慢性的な炎症なのでALT が上がることが多いですが、γ-GTPも上がります。

タフな肝細胞にも限界はある

 肝臓は、一部を切り取って移植しても元の大きさに戻るくらい再生能力が高いことが知られています。再生能力が高いので、お酒を飲み過ぎても、禁酒して肝臓を休ませれば、肝機能の数値は戻ります。

 肝細胞が壊れても、全体の仕事量が変わらなければ、残されたほかの肝細胞の仕事が増えることで肝臓は機能し続けます。しかし、そうやってオーバーワークになり、さらに肝細胞が壊れると、再生したばかりの肝細胞もすぐに働かなければならなくなります。まるでブラック企業のようです。

 いくら肝細胞がタフだといっても不死身ではありません。壊れて再生、壊れて再生を繰り返すうちに、肝細胞が再起不能になった状態が「肝硬変」で、肝細胞が線維化してしまい、働けなくなります。それでも体は壊れた肝細胞を再生しようとしますが、一定の回数以上に新しい細胞をつくろうとすると、遺伝子の設計ミスが起こるリスクが高まり、がん細胞ができます。それが、肝硬変から「肝がん」になるメカニズムです。

 肝臓には痛みを感じる神経が通っていないので、どんなに過酷な仕事をさせても黙って壊れていくだけで痛くはありません。文句も言わず、休みも取らずに働き続け、やがて力尽きて倒れてしまいます。自覚症状がないからこそ、健康診断で数値をしっかりチェックする必要があるわけです。

何が原因で数値が上がっているのかを考えよう

 γ-GTP はお酒を多く飲む人ほど数値が上がりやすいため、少し高くなっても、「お酒をたまたま飲み過ぎたせいだろう」「お酒を控えれば下がるだろう」と軽く見てしまいがちです。

 しかし、γ-GTP が上がるということは、肝細胞が壊れているサインなので、肝細胞の仕事を減らしてあげなければなりません。アルコールに限らず、薬や脂肪肝で肝細胞が壊れれば、γ-GTPは上がります。ASTやALTが正常値でγ-GTPだけが高い場合でも安心はできません。

 厚生労働省は、「節度ある適度な飲酒」の目安を、純アルコールで1日平均20g程度としています。これは、ビールなら500mL、日本酒なら1合、ワインなら200mL程度になります。これが肝細胞を傷つけない1つの目安だといえます。なお、これは男性の場合で、女性はこの半分の1日平均10g程度と考えてください。

 お酒には良い効果もあるので「飲んではいけない」とは言いませんが、肝臓に無理をさせないため適量を守るようにしましょう。

 肝機能が落ちると、糖代謝やコレステロールの合成がうまくできなくなることで、高血糖や脂質異常になりやすくなり、生活習慣病のリスクも高くなります。肝臓は「血液の税関」でもあるので、そこが悪くなると全身に送る血液の質も悪くなってしまいます。

 肝機能の数値が悪いときは、どれくらい肝臓に仕事をさせた結果なのか、原因を探ることが大切です。お酒や脂肪肝以外にも原因はあるかもしれません。

 食べたり飲んだりしていれば、必ず肝臓は働いています。暴飲暴食をしている人の肝臓は、ブラック企業で休みなく働かされているようなもの。肝臓を働かせ過ぎないよう、くれぐれも大事にしてあげてください。

日経Gooday(グッデイ) 2023年9月22日付の記事を転載/情報は掲載時点のものです]

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