50代半ばのある女性は、長い間、特定健診(メタボ健診)で引っかかることはなかったのに、最近になって急に悪玉といわれるLDLコレステロールの値が上がってきました。「週に2日ジムに通うなど運動を欠かさず、太ってもいないのになぜ?」と本人は不思議に思っていますが、新刊『 健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと 』の著者である大阪大学特任准教授の野口緑氏は、「運動習慣や肥満の有無はLDLコレステロールと直接の関係はありません」と指摘します。いったいどういうことか、解説していただきました。

運動習慣や肥満と、LDLコレステロールの値には直接の関係はない
太ってもおらず、定期的に運動もしているのに、なぜLDLコレステロール値が上がってきたのか、ということですが、まず理解していただきたいのは、「運動習慣や肥満と、LDLコレステロールの値には直接の関係はない」ということです。
LDLコレステロールは、ブドウ糖や中性脂肪などを材料に肝臓で合成されるため、運動すると、筋肉でブドウ糖や中性脂肪が消費され、結果的にLDLコレステロール値を下げる間接的な効果はあります。しかし、そもそもコレステロールはエネルギー源として使われるものではないため、運動をしたからといって、その量に見合った分だけLDLコレステロール値が低下するとは限りません。
内臓脂肪とLDLコレステロールも直接は関係ありません。内臓脂肪が増えると、脂肪細胞から分泌される生理活性物質の作用などから、血糖や中性脂肪が増加しますが、LDLコレステロールに関連する作用はありません。また、内臓脂肪の増加とLDLコレステロール値の上昇とは別のメカニズムであるため、やせていてもLDLコレステロール値が高い人は珍しくないわけです。
メタボでLDLコレステロール値が高い、という方はたくさんいますが、メタボが原因でLDLコレステロール値が高くなっているわけではありません。だから、太っておらず、運動もしている方のLDLコレステロール値が高くなるのは、そう珍しいことではないのです。
ただ、この女性の場合に注目したいのは「50代半ばになって急にLDLコレステロール値だけが上がってきた」ということです。この方は年齢から考えて、卵巣機能の低下によりエストロゲン(女性ホルモン)の分泌量が減少してきた影響が大きいと考えられます。
コレステロールというと、悪者のイメージが強いですが、実は、さまざまなホルモンや全身の細胞膜の材料などとして使われる、生きるために必須のものです。しかし、閉経によってエストロゲンの分泌量が減少すると、その材料であるコレステロールが以前ほどは必要なくなるため血中に余り、LDLコレステロール値が上昇するのです。
また、加齢により、一部の細胞では入れ替わるサイクルが遅くなります。例えば、子どもの皮膚はみずみずしく張りがあって、つるつるですよね。これは皮膚の細胞の入れ替わるスピードが速いから。つまり、どんどん新しい細胞膜を作成する必要がある分、材料となるコレステロールがどんどん使われるわけです。でも、年をとり、細胞が入れ替わるスピードも落ちると、細胞膜をつくる材料も余ってきてしまうのです。その結果、コレステロールは余りがちになり、LDLコレステロールの上昇につながります。
卵や小魚など高コレステロール食品のとり過ぎに注意
では、このような場合、どのような対策をとればいいのでしょうか。
コレステロールの使い道が減っているのに今までと同じ生活をしていると、どんどんLDLコレステロール値が上がってきます。ですから、閉経してLDLコレステロールが上がってきたら、それに合わせて食べ方を変えていく必要があります。つまり、コレステロールが多い食品を食べ過ぎてはいけないのです。
体に必要なコレステロールの3分の2は肝臓で合成されています。そのため、「食事から少々余分にとり過ぎても、体内での合成を少し減らすといった調整を体がしてくれるので、それほど神経質にならなくてもいい」ともいわれますが、それはLDLコレステロール値が高くない、健康な人の場合です。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」では、高LDLコレステロール血症の人は、1日のコレステロール摂取量を200mg未満にすることを推奨しています。
コレステロールが多い食品といえば、まず思い浮かぶのが、たらこ、かずのこなどの魚卵や、白子、レバーなど。何といっても多いのは、鶏卵です。「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」によると、鶏卵(50g)1個に185mgも含まれていて、それだけで200mg近くになります。

鶏卵は、女性が好きなスイーツ類にもよく入っているので、意識しないとすぐにとり過ぎてしまいます。私もスイーツが好きなので、シュークリームなどの卵が豊富な食品を摂取する可能性があることを考えて、朝はなるべく卵を食べないようにしています。
鶏卵は、体内でつくることができない必須アミノ酸も摂取できるため、1日1個はとりたいもの。LDLコレステロール値が高い人は1日1個までにすることをお勧めします。
ちりめんじゃこやしらすなどの小魚も意外にコレステロールが多いので要注意です。
「コレステロールを多く含む食品を避けています」と言う方の話をよく聞いてみると、習慣的に小魚をとっていたというケースがしばしばあります。特に、50代以降の女性は骨粗しょう症が気になるので、カルシウムをとろうと思ってご飯の上にしらすを山盛りにして食べている人も多いようです。
でも、小魚をそれほどたくさん食べなくても、1日に緑黄色野菜を120g以上、それに淡色野菜も含めて合計350g以上の野菜を食べていれば必要なカルシウムは入ってきます。
コレステロールのほか、動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸もLDLコレステロール値を上げることがわかっています。特に牛乳、バター、チーズ、ヨーグルトといった乳製品は要注意です。
1日にとるべき乳製品は、牛乳200mLが基本の量です。牛乳を200mL飲んだら、その日はチーズやヨーグルトは控えるようにしましょう。チーズやヨーグルトを食べたいときは、牛乳の量を減らしたほうがいいでしょう。牛乳を飲まない場合、6ピース入りのプロセスチーズなら1日1個が目安です。
低脂肪乳や無脂肪乳は牛乳と比べて飽和脂肪酸の量が少ないため、牛乳200mLの代わりにするのもよいかもしれません。ただ、加工乳は、牛乳そのものの栄養成分を加工している食品です。私は、個人的には、普通の牛乳を飲んで、ほかの飽和脂肪酸やコレステロールのとり過ぎに注意したいと考えています。
もちろん、糖質や中性脂肪もとり過ぎはよくありません。コレステロールは肝臓でも合成されるので、コレステロールをとらなくても糖質や中性脂肪をたくさんとっていると、肝臓でコレステロールが合成されてしまいます。
LDLコレステロール値を下げるには食物繊維も大切です。コレステロールは各種ホルモンや細胞膜の材料になるほか、胆汁酸という消化液になって小腸に分泌されます。胆汁酸は脂肪を分解し、腸管での消化吸収を促進する働きがありますが、分泌された胆汁酸は、放っておくと再び腸から吸収されてしまい、肝臓でコレステロールを再合成する材料になってしまうのです。
ところが、食物繊維が多い食事をしていると、胆汁酸が食物繊維に絡みついて便として体外に排泄されることになります。つまり食物繊維の多い食事をとっていると、胆汁酸が再吸収されにくくなるので、LDLコレステロールを下げる効果があるのです。
生活改善で数値が下がらない場合は受診を
年齢を重ね、ホルモン分泌量が以前より減ったり、代謝が落ちて細胞膜が入れ替わるサイクル(細胞周期)が低下したりした場合、生活習慣を変えてもそれだけでは以前のLDLコレステロール値にはなかなか戻らないことも多いでしょう。更年期障害にはホルモン補充療法があり、LDLコレステロール値が改善したという研究報告もありますが、それだけでは十分な低下に至らないケースも少なくありません。
LDLコレステロール値が140mg/dLを超えて、食事に注意しても下がらないときは、動脈硬化を進めないためにも、薬に頼るのが重要です。医療機関を受診し、主治医と相談しましょう。高LDLコレステロール血症の治療薬は、一般に肝臓でのコレステロールの合成を抑えるスタチン製剤がよく使われますが、ほかに腸内での胆汁酸の排出を促す薬や、再吸収を抑制する薬もあります。
(図版制作:増田真一)
[日経Gooday(グッデイ) 2023年9月28日付の記事を転載/情報は掲載時点のものです]
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