デール・カーネギーが書いた名著『 人を動かす 』(山口博訳/創元社)では、「人を変える9原則」についても説明しています。人に頼みごとや注意をしたい場合に、快く受け入れてもらうためにはどうすればよいのか。PwC Japan合同会社執行役常務の森下幸典さんが読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔リーダーシップ編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。

人に望んだ成果を出してもらうには

 カーネギーは『人を動かす』を締めくくる第4章で、「人を変える9原則」について説明しています。そこでは、人に何か頼みごとや注意をしたい場合に、相手にそれを快く受け入れてもらい、望んだ成果を出してもらうためのポイントについて解説しています。具体例を交えながら見ていきましょう。

(1)まずほめる
 たとえ相手の仕事が満足のいくものでなかったとしても、それをいきなり非難してしまうと、相手の気分を損ね、その後の仕事ぶりにも影響してしまいます。これを回避するためには、まず、相手をほめることからコミュニケーションを始めることが重要です。そうすれば相手は気分よくこちらの要望に耳を傾けてくれるものです。

 部下などに仕事のやり方を直してほしいときや、注意をしなければならない場合、まず相手の普段の仕事ぶりをほめてから言うことで、相手は快くこちらの主張を受け入れる準備ができるでしょう。

(2)遠まわしに注意を与える
 人から批判されることに特に敏感な人たちには、まずほめることに加えて、もうひと工夫する必要があります。それは、ほめたあとに「しかし」ということばを使わないことです。ほめたあと「しかし」をはさんで批判的なことを言ってしまうと、最初のほめ言葉も「結局は批判するための前置きにすぎなかった」と思われ、かえって逆効果になってしまいます。

 カーネギーは「しかし」ということばを「そして」に変え、ほめると同時に遠まわしに注意を与えることが非常に効果的であると言っています。例えば、机の整理ができない部下に対して、「君はいつも仕事が早いね。だが、机まわりがとても汚い。ちゃんと片づけなさい」と言うよりも、「君はいつも仕事が早いね。机まわりをもう少し片づければもっと効率がよくなるんじゃないか」と言う方が効果的でしょう。

カーネギーは「しかし」ということばを「そして」に変え、ほめると同時に遠まわしに注意を与えることが非常に効果的であると言う(写真:shutterstock)
カーネギーは「しかし」ということばを「そして」に変え、ほめると同時に遠まわしに注意を与えることが非常に効果的であると言う(写真:shutterstock)
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(3)自分のあやまちを話す
 人に注意を与えるときには、過去に自分もいろいろな失敗をしてきたことを前置きすることでも相手の不快感を抑えることができます。また、自らの失敗談により、相手に自然と教訓を与えることもできるのです。誤字の多い部下に対しては、「私も昔誤字が多くて、上司によく怒られた。今でも必ず書類は一度印刷して見直してから上司に見せるようにしているよ」と言うだけで、その部下の誤字は減るかもしれません。

命令せず、問いかけて一緒に考える

(4)命令をしない
 人に指示を与える際には、一方的に上から命令するのではなく、意見を求め、相手に自主性を持たせることが肝要だとカーネギーは言っています。達成不可能と思われるような売り上げ目標が掲げられた際に、部下に対して「とにかく何がなんでも売り上げを伸ばせ」と叱咤(しった)するよりも、「どうすればこの目標を達成できるだろうか」と問いかけ、一緒に対策を考える方が、目標達成に近づくことができるでしょう。

(5)顔をつぶさない
 「たとえ自分が正しく、相手が絶対にまちがっていても、その顔をつぶすことは、相手の自尊心を傷つけるだけに終わる」とカーネギーは言います。相手の心情を察してやることで物事ははるかにうまくいくのです。

 A社では、顧客から「A社から送られてきた請求書の内容について、身に覚えがない」というクレームを受けました。請求内容については1カ月前に合意しており、その内容は電子メールにも残っています。このような場合、どのように対処するのが良いでしょうか。

イ 証拠の電子メールを顧客の上司に送り、A社が正しいことを主張する
ロ 顧客に電話で1カ月前の電子メールを確認してもらうようにお願いする

 スピーディーに結論を出そうとすると、イを選択したくなるかもしれません。しかし、先方の担当者は今後も引き続き取引をする大切な相手です。今後も気持ちよく取引をしてもらうためにはロの方が適切でしょう。

(6)わずかなことでもほめる
 『人を動かす』の中で再三繰り返されているように、人は誰しも「他人から評価され、認められたい願望」を持っていますが、「心のこもらないうわべだけのお世辞には、反発を覚える」ものです。逆に誠意のこもった言葉は、相手に自分でも気づいていなかったような能力に目覚めさせることもあるとカーネギーは言っています。

 なかなか新規顧客を獲得できず苦労していた営業部のBさんですが、上司はBさんが費用の集計については今まで一度も間違えたことがないことに気づいていました。「君は数字に関してはとても正確だね」という上司の言葉をきっかけに、Bさんは経理部への異動を決意し、自分の能力を存分に発揮できるようになりました。

相手が欲しているものを対価にする

(7)期待をかける
 相手に期待をかけてやることで、相手はその期待にこたえようと努力します。仕事の効率が悪く毎日深夜残業を続けている部下に対しては、効率が悪いことを指摘して叱るよりも、「毎日がんばっているね。来年からはもう1社担当してもらおうか」という方が効果的でしょう。声をかけられた部下は自ら業務効率を見直すようになるはずです。

(8)激励する
 相手をののしることは、その人の向上心の芽を摘み取ってしまうことになる、とカーネギーは言います。逆に、相手を励まし、こちらが相手の能力を信じていることを示すと、相手は「自分の優秀さを示そうと懸命にがんばる」のです。

 あるコンビニエンスストアで、顧客から「商品の札が正確でない」とのクレームが来ました。店長は店員たちに再三注意を促しましたが、改善されません。あるとき店長は、普段から仕事ぶりに問題があった店員を札係の責任者に指名しました。すると、以後札の間違いはなくなり、その店員の働きぶりは以前よりも格段に良くなりました。

(9)喜んで協力させる
 いささか単純な方法かもしれませんが、相手に喜んで協力させるためには、相手が何を欲しているかを見抜き、それを協力の対価とすることです。それは金銭的な報酬かもしれませんし、地位や名誉かもしれません。

 営業担当者のCさんが大きな仕事を受注しました。そのプロジェクトに参加するスタッフは、毎日のように遅くまでの残業を余儀なくされるでしょうし、休日出勤も必要となるかもしれません。このプロジェクトを成功させるためには、Cさんはスタッフたちにどのように呼びかければよいでしょうか。

 金銭的な報酬をモチベーションに仕事をしているスタッフに対しては、プロジェクトに参加することで多くの残業手当が支給されることを強調することが効果的でしょう。また、自己の成長を求めているスタッフに対しては、このプロジェクトに参加することによってさまざまなスキルや経験が得られることを強調することが効果的でしょう。重要なのは、それぞれの当事者が何を欲しているかを理解することなのです。

『人を動かす』の名言
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