伝え方で、損をしていませんか? 脳科学者の中野信子さんによると、私たちには「つい、言い過ぎやすい」「相手の言い過ぎに過敏になりやすい」性質があるといいます。本連載で実施した、これらの性質が原因で起こる「コミュニケーションの悩み」アンケートには、たくさんのリアルな悩みが集まりました。前回に続き、皆さんのアンケートを基に、お笑い芸人のブラックマヨネーズの小杉竜一さん・吉田敬さんと、より良いコミュニケーションの方法について考えます。鼎談(ていだん)第2回は、自分自身がストレスをためず、人間関係も壊さない「言い返し方」を、シーン別に考えます(この鼎談を中野さん視点で読み解いた内容を新刊『 エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術 』に収録しています)。

(鼎談第1回から読む)

その飲み会、「行きたくない」のはいったいなぜ?

中野信子(以下、中野):この連載の1~3回で募集したアンケートでは、予想以上にたくさんの回答をいただきました。
 やっぱりコミュニケーションのことで悩んでいらっしゃる方は本当に多くて、皆さん苦労されているんだなということも改めて感じたのですが、全体的に、「相手に分かるように嫌みを言って、スカッとしたい」という人が多かったのが印象的でした。「もめ事は起こしたくないけど、自分の気持ちを大事にしたい。同時に相手との関係も維持したい」と。欲張りなのですが、ぜひお2人に、京都式の上手なコミュニケーション術を教えていただきたいです。

 例えばアンケートには、「気が乗らない飲み会をうまく断りたい」などとありましたが、そういうとき、吉田さんはどうされていますか?

吉田敬氏(以下、吉田):コミュニケーションやったら小杉でしょう(笑)。僕はほんまに、コミュニケーションは「なければないでいい」というタイプですから。

 行きたくない飲み会なら、「無理です」と3、4回くらい断ったら、相手も「あ、こいつ嫌がってんのやろな」と誘ってこなくなるでしょ。僕はそう思われてもええわと思うんです。でも、小杉はちゃいますよ。「そこまでされるんやったら、行かんでええんちゃう?」というような荒々しい飲み会にも参加してましたからね。

中野:ええ? 荒々しいってどんな飲み会なんですか?

小杉竜一氏(以下、小杉):酒癖の悪い先輩がいてね。酔うと殴られたりするんですよ(笑)。でも、芸人として、ここは学びたいな、という部分がある人やから行ってました。確かに、しばかれたりすると痛いんですけど、勉強にはなりました。

ブラックマヨネーズ<br>お笑い芸人(吉本興業所属)。ツッコミの小杉竜一氏(写真左)とボケの吉田敬氏(同右)からなるコンビ。1998年4月に結成してから「ABCお笑い新人グランプリ」(第23回/2002)優秀新人賞、「上方漫才大賞」(第37回/2002)新人賞などの賞レースを総なめにし、「M-1グランプリ2005」(第5回)優勝。主なレギュラー番組にはTBS『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』、CX『ホンマでっか!?TV』がある。コンビ名の略称は「ブラマヨ」。
ブラックマヨネーズ
お笑い芸人(吉本興業所属)。ツッコミの小杉竜一氏(写真左)とボケの吉田敬氏(同右)からなるコンビ。1998年4月に結成してから「ABCお笑い新人グランプリ」(第23回/2002)優秀新人賞、「上方漫才大賞」(第37回/2002)新人賞などの賞レースを総なめにし、「M-1グランプリ2005」(第5回)優勝。主なレギュラー番組にはTBS『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』、CX『ホンマでっか!?TV』がある。コンビ名の略称は「ブラマヨ」。
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中野:それはそれ、これはこれと割り切られたのですか?

小杉:おそらく、皆さん、なぜ行きたくないか、その理由がはっきりしてないから悩むんやないですか? 僕は、この人のこの部分は学びたいなという目的があったからイヤやけど行ってました。何となく行きたくないというときは、自分の気持ちをはっきりさせたほうがええと思いますよ。

中野:相手と何をやりとりしたいのか、したくないのか。それは確かに、コミュニケーションの基本かもしれないですね。

「相手と何をやりとりしたいのかがコミュニケーションの基本」と語る中野氏
「相手と何をやりとりしたいのかがコミュニケーションの基本」と語る中野氏
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小杉:でも、そういう先輩とでも行きたくないときはありました。そういうときは、「ほんまは行きたかった」という空気を前面に出す(笑)。例えば「単独ライブの日と重なって」とか、「それやったらしょうがないな」という理由を用意するんです。そして「どこ行かはるんですか? うわ、ええな~。行きたかったですわ~。また誘ってください」と付け加える(笑)。

吉田:メールとかでの誘いでは、よく「すんません、今、石川県にいるんです」とか返します(笑)。絶対無理やろ、みたいな理由を言う。「嫁さんの実家に来てるんです」とかもええね。

中野:なるほど、それは諦めてくれますね。これから使わせていただきます!

失礼なタクシーでの接客、迷惑な隣人、どう伝える?

中野:「間違いを指摘するのはどうすればいい?」という質問もたくさんいただきました。相手の言動が間違っている、あるいは不愉快だ、という場合はどうしましょう。

吉田:タクシーなんかで、こっちは黙っていたいのにむちゃくちゃしゃべりかけてくる運転手さんっていますよね。そういう人には、不愉快そうな顔をして、「ああ?」「ふーん」で終わらせることはありますね。でも、それはみんなそうしてるんちゃうんかな?

小杉:タクシーというと、タメ口で話しかけてくる運転手さんがいるじゃないですか。でも、僕は客で向こうはそれを受け入れる側でしょ? タメ口はちゃうと思うんですよ。

 だからそういう場合は、相手が明らかに年上でも、途中から僕もタメ口でしゃべります。「あなたのしていることはおかしいよ」ということを伝えるためにね。そうすると勘のいい人は、途中から態度を改めてくれます。

中野:なるほど、言葉にせず、声の調子とか表情で伝えるのですね。

 アンケートでは、ご近所問題も多くありました。隣同士ってもめるんですよね、国同士もしかりです。京都の人は、お隣のピアノがうるさいときは「ピアノ、お上手ですね」と言ったり、隣の紅葉の枝が伸びてきてたら「紅葉がきれいですね」と言ったりすると聞きます。お2人は京都の出身ですが、実際はどうですか?

吉田:以前住んでいたマンションのベランダに、セミの抜け殻が落ちてたんですよ。それをポーンと隣のベランダに蹴ったんです。そしたら、次の日、また抜け殻がベランダにあったんです。僕はそこで抜け殻を拾って捨てました(笑)。やり返してくることに恐怖を感じたんですよ。向こうのベランダに抜け殻があったとしても、隣の人にしたら僕が蹴ったとは分からんわけでしょ? 向こうにあるものをこっちにやるということは、僕に対する敵意100%じゃないですか?

小杉:最初に蹴り出したんはどっちか分からんやんか。

吉田:そう、もしかしたら最初、抜け殻は隣にあったかもしれん。俺が蹴り返した時点で向こうは100%になったかもしれん。いずれにしても蹴り返してくるという時点で「あ、おかしいな」と(笑)。まあ、でも、1回はやってみるかな。

中野:おもしろい。1回は観測気球のようなものを上げて、相手の反応を見るのですね。そして「ヤバい!」と思ったらすぐ引く。素晴らしい危機管理ですね。

小杉:僕のやり方はベタなんですけど、マンションの隣の人がドアを開けて料理してて、廊下中にその匂いが充満してたことがあったんです。そのときはドアの隙間に向かって、中に聞こえるように「なんか炊いたはるんかなぁ~。ええ匂いするなぁ~」と、自分の子どもに話しかけましたね。まだ意味も分からん2歳の子どもに(笑)。

中野:ははは、2歳じゃ分からないですよね(笑)。

小杉:そこの家は、出前で取ったすしおけも廊下に置いてたんですよ。マンションの1階にデリバリーの空容器を置く場所があるのにね。しかも、ちゃんと洗ってないのかすごい酸っぱい匂いするんです。そういうときは、「おすし食べはったんかな~。ええな~」と腹式呼吸のええ声を張り上げました。

 事務所で発声の授業受けててよかったなあと思いましたよ(笑)。それからすしおけも廊下に出さんし、料理のときもドアを閉めてくれるようになりましたよ。

「腹式呼吸でわざと聞こえるようにつぶやくんです」と小杉氏
「腹式呼吸でわざと聞こえるようにつぶやくんです」と小杉氏
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トラブル回避術としての「自分は危険な人です」アピール

吉田:隣の人とのトラブルを避けるためには、窓のそばに血まみれのマネキンとか座らせて、ちょっとだけカーテン開けて見えるようにするのはどうですかね。「あ、隣の人、怖いな」と思わせる。

小杉:それやと、血まみれのマネキンと一緒に生活せなあかんやん。ワンルームやったらイヤやん。

吉田:ワンルームやったら首だけとかでええし。

小杉:なるほど、コンパクトにね(笑)。

中野:それはいいかもしれない。相手に引かせる。ヤバい人だと思わせる。

吉田:女性が一人暮らしするときに、よく男物のトランクスを干せばいいとかいわれますけど、そんなんあんまり意味ないと思うんですよ。どうせなら大工さんがはくようなニッカボッカを干すほうが効果があると思う。

小杉:いかつい彼氏がいると思われるな、それは。そういえば、吉田くんもやってましたよ、「自分は危険です」アピール。変なやつに家に来てほしくないって言って、表札に「鬼塚」と書いてました、「吉田」やのに(笑)。

吉田:ああ、あの頃住んでたんは、オートロックじゃないマンションだったのでね、防犯のためにそうしてました。押し込み強盗は「吉田」より「鬼塚」のほうが防げると思ったんですよ。

「自分の家に鬼塚の表札を出していた」と語る吉田氏
「自分の家に鬼塚の表札を出していた」と語る吉田氏
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吉田:でも、「鬼塚」でも気にせんと来るやついたら、それは怖過ぎるやろ、というので吉田に戻しました(笑)。

中野:おもしろ過ぎます! いやあ、さすがですね。とても参考になります。ただ者ではない感じを醸し出せれば、トラブル自体起こりにくくなりそうですね。アンケートでは、まだ多くの悩みが寄せられていました。次回はビジネスシーンを中心に、別のシチュエーションについてお聞きします。

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(鼎談第3回に続く)

文/永浜敬子 写真/尾関祐治

【6月10日開催】中野信子さんと考える 京都人に学ぶエレガントな毒の吐き方
「イヤだな、困ったなと思っても、うまく言えなかった」「言い方で失敗して、相手を怒らせてしまった」などの経験は、ありませんか? 脳科学者の中野信子さんは、「今こそ、京都のコミュニケーションに学ぶ必要があるのでは」と指摘します。私たちが身につけるべき「京都のコミュニケーション」とは? 中野さんと考えます。

■開催日時:2023年6月10日(土)16:45~17:25
■参加:事前登録制(無料)
■会場:渋谷ヒカリエ ヒカリエホール
■詳細・お申し込みはこちら  ⇒  WOMAN EXPO 2023
職場や家族、ママ友、ご近所さんの言動でイヤな気持ちになったとき、どうしていますか? 言い返したいけど、関係性は壊せない。頭をよぎる不安から、つい「自分が我慢すれば」と思ってしまうことがあります。そんなとき、聞き手によってはあたたかくやわらかに聞こえる言葉で、直接NOとは言わずにNOの気持ちを伝えることができれば――。脳科学者・中野信子が脳科学と京都人のコミュニケーションから、賢く自分の思いを伝える、大人の知的戦略を解き明かします。

中野信子(著)、日経BP、1320円(税込み)