伝え方で、損をしていませんか? 脳科学者の中野信子さんによると、私たちには「つい、言い過ぎやすい」「相手の言い過ぎに過敏になりやすい」性質があるといいます。本連載で実施した、これらの性質が原因で起こる「コミュニケーションの悩み」アンケートには、たくさんのリアルな悩みが集まりました。引き続き、皆さんのアンケートを基に、お笑い芸人のブラックマヨネーズの小杉竜一さん・吉田敬さんと、より良いコミュニケーションの方法について考えます。鼎談(ていだん)第3回は、シーン別の言い返し方の続きと気持ちの切り替え方について(この鼎談を中野さん視点で読み解いた内容を新刊『 エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術 』に収録しています)。
いつも遅刻する、マウンティングされる…どう接する?
中野信子(以下、中野):今回実施したアンケートには、ビジネスシーンでの悩みも多く寄せられていたのですが、ご近所と同様、会社ももめ事は避けたい場所です。例えば、遅刻癖のある後輩に注意するときなどはどうでしょう。関係性を悪くできない相手に注意するときに何かいい言い方はないでしょうか?
小杉竜一氏(以下、小杉):僕なら冗談半分で「帰国子女?」とか「沖縄の人なん?」と聞いてみたりするかな(笑)。どっちも何となく時間にルーズなイメージがありますやん?
中野:うわあ、ユーモアがある、だけど毒もあっていいですね。吉田さんはどうでしょう?
吉田敬氏(以下、吉田):後輩の遅刻ですよね。それなら、例えば1時間待たされたとします。そしたら「俺の1時間、なんぼか分かる? 結構高いで」と言いますね。これは「あなたの1時間も高くなるように頑張りましょうね」という叱咤(しった)も含めています。
中野:確かに先輩からそういうふうに言われたら縮み上がっちゃいます。会社員でも使えそうな言い方ですね。
他に多かったのは、「マウンティングされて困る」という相談。これ、本当に多いんです。職場や学校でもありますし、ママ友付き合いでもとても多い。ご主人の職業に始まり、子どもの学校や洋服、持ち物まで。子ども同士の関係性もあるから反撃しちゃいけないけど、何とか留飲を下げたい。そんなとき、どうすればいいでしょうか? ちなみに私は、はっきり言ってしまうので、上から来られたら、「一流を見せびらかす人って、だいたい二流ですよね」とか言っちゃうんですよね(笑)。
小杉:それ、むちゃくちゃケンカになりますやん!
吉田:「今の二流って、私のこと?」と聞かれたら「はい」と言うんですか?
中野:はい。
吉田:えぇ~っ! まあ、でも、それいいかもしれませんね。そんなふうに言われたら、何日か心に刺さりますもん。
小杉:でも、言うのに根性いるよなあ(笑)。
中野:陰で「あの人はキツい」と言われてると思います。
吉田:俺、もし二流って言われたら、中野先生の本を燃やしてる動画を撮ってネットにアップするな(笑)。
マウンティングしてきた人の優越感のへし折り方
中野:ママ友の場合、もめると子どもにも影響が出るし、できれば穏便に何とかしたいものですよね。
吉田:例えばママ友のご主人が医者で、こっちが普通のサラリーマンやとします。「うちの主人は医者なんです」というのがマウンティングやと思うのであれば、次に会ったときに「ご主人、お仕事、何でしたっけ?」と聞くのはどうですか?
小杉:うははは。それええな。「覚えとらんのか、こいつ」となりますよね。
吉田:もうね、毎回、毎回、聞いたらええんですよ。
小杉:マウンティングのマウントに慣らすんやね。「ご主人、お仕事、何でしたっけ?」、「……医者ですけど」で、「あぁ」とか「へー」とかみたいな感じでな。
吉田:そのうち向こうも、「ほんまに何も思てへんのかな?」と不安になる。
小杉:「こんなに刺さらんもんなのか、医者って」と落ち込むかもしれませんね。
中野:それはいいですね。今度から取り入れたいです。
吉田:いや無理でしょ。中野先生はすぐに反撃せずにはおれんでしょ(笑)。
職場にはびこるハラスメント 攻めと守りの対処法
中野:続いて、パワハラ、セクハラを何とかうまく切り返すにはどうすればいいですかね。会社ではちょっとしたボディータッチが結構あるみたいなんです。アンケートでは、年上の女性に触られて困っているという男性や、「子どもはまだ?」や「まだ結婚しないの?」という投げかけに困っている女性の声が寄せられていました。
小杉:ええっ! 会社で触ってきたりするんですか? 信じられん。そのへんは、僕らのテレビ業界のほうが厳しいかもしれんなあ。だからといって監査部門には言えんのでしょうね。
中野:事を荒立てたりはしたくないそうです。やんわりとやめさせる方法はないでしょうか?
吉田:デスクに習近平の写真を置いておくとか? まあ、習近平は冗談ですけど、ガマンばっかりせんと、「この子は下手なこと言うたら何するか分からんな、怖いな」と思わせるのがええと思います。
中野: 前回 にもでてきた「鬼塚」の名札をつけましょうか(笑)。
小杉:表立って言えんのやったら、気持ちを切り替えるのもええと思いますよ。例えば、電車で子どもが靴を履いたまま座席に上がってることってありますよね。その靴が自分の膝に当たってる。
そんなとき僕は、「ああ、この子は将来、何の成功もない人生を送るんやろな。やりたくもないことばっかりやらされて、つまらん毎日を過ごすしかないやつや」と妄想するんです(笑)。
吉田:僕もそうやね。変なやつに遭遇したら「ああ、こいつは、ここでしかわがまま言えんのやろな。気の毒やな」と思う。すると腹も立たない。
中野:なるほど、そういうふうにマインドセットをつくるのも1つの解決策ですね。
「京都の人」を敵に回してはいけない
中野:今回は、お2人のコミュニケーションの素晴らしさの源が、どこかで京都とつながっているのではないかと、こうしてお話しする機会をいただきました。最後に、お2人が「ああ、やっぱり自分は京都人だな」と思うのはどんなときですか?
小杉:高校のとき、めちゃ仲の良かった友達がいるんですが、大人になってからケンカしたんです。それでバラエティー番組で「16からの親友と40超えて絶交した」とよう言うてたんです。共通の友人によると、それを見た本人がむちゃくちゃキレたらしいんです。「あいつと刺し違える!」くらいの勢いで怒っているらしい、と。それを聞いたとき、「うわ、京都人を敵に回してしもた」と思いました。怖いし、もうその親友の話はテレビで触れんようにしました。
その親友がブログやってるらしく、共通の友人が、「そんな意地張らんと、仲直りしろよ」と言うてきたんですが、1回も見てない。意地でもクリックせん。こっそり見ても分からんのに、絶対に見ない自分を「ああ、京都人やわ、俺」と思います(笑)。
吉田:僕ら京都府代表みたいにしゃべってますけど、小杉は京都の西の端の桂(かつら)、僕は伏見ですから、一緒にしてほしくないです(笑)。
中野:京都の人って洛中だけが京都である、といったような、住んでいるところのヒエラルキーみたいなものがありますよね。
小杉:俺ら2人で錦市場でロケしたことあるんですけど。「僕ら桂と伏見なんです」と言うたら、錦のおばちゃんに「そんなとこ京都ちゃうわ」と言われた(笑)。
中野:昔の京都の古地図に、伏見は「魔界」と書いてあったと聞いたことあります。確か、収録のときに吉田さんがおっしゃっていましたよね。
吉田:そんなこと言いますけど、伏見は『スクール☆ウォーズ』と『パッチギ!』の街やろという圧は感じてほしいなというのはありますね(笑)。
中野:最後にとても京都らしいお話を伺い、お2人はやっぱり京都の人なんだなぁと感じました(笑)。お2人の解決方法を活用して、言いたいことをガマンせず、相手にもうまく伝えられる人が増えればいいですね。今日はありがとうございました。
文/永浜敬子 写真/尾関祐治
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中野信子(著)、日経BP、1320円(税込み)