トランプ大統領がイラン攻撃を決めた背景には、どのような考え方があったのでしょうか。米国を動かしている「ドンロー主義」について分かりやすく解説します。日本経済新聞記者が今押さえるべき45個のテーマを解説した新刊『Q&A日本経済のニュースがわかる! 2027年版』から抜粋、再構成。第3回のテーマはトランプ政権の政策哲学です。

Q. トランプ政権が掲げる「ドンロー主義」とは何か?
A. 19世紀の米国の外交方針「モンロー主義」を土台に、西半球を米国の勢力圏として再定義しようとするトランプ米政権の政策哲学です。2025年末にまとめた国家安全保障戦略で公表されました。

ドンロー主義とは何か

 米国のトランプ政権は2026年から、強硬な対外政策をとり始めました。ベネズエラやイランに武力行使し、キューバにも辞さない構えをみせています。

 こうした姿勢を表す言葉として、「ドンロー主義」があります。力による秩序を重視し、国際法やルールを軽視する米国の新しい世界との関わり方で、27年以降も続く見込みです。トランプ米大統領の名前である「ドナルド」と、南北アメリカ大陸を含む西半球から敵対勢力を排除しようとした19世紀の「モンロー主義」を掛け合わせ、「ドンロー主義(ドンロー・ドクトリン)」と名づけられました。

 本家のモンロー主義は1823年、モンロー大統領が提唱しました。米国は欧州の紛争に関わらず、欧州には米大陸へ干渉させないすみ分けを図りました。国際社会に介入しないだけでなく、独立して間もない中南米諸国に対する欧州列強の介入を排除し、南北米大陸の支配権を固める狙いがありました。武力を背景に中南米諸国を米国に追従させる外交方針を正当化する上で、モンロー主義が用いられたといえます。

 ドンロー主義も、西半球を米国の勢力圏と定義します。西半球からは中国やロシアなどの敵対勢力の排除も辞さないとしました。実際、26年1月のベネズエラ攻撃や、キューバへの圧力で具体化されています。

太平洋も勢力圏とみなす

 トランプ政権は太平洋も自身の勢力圏とみなしています。ドンロー主義について解説した国家安全保障戦略では、インド太平洋地域について「主要な経済的・地政学的な戦場であり続ける」と書きました。「国内が繁栄し続けるには、この地域での競争に勝利しなければならない」と説明しています。一方、太平洋のどの部分までを必ず守らなければならない勢力圏と見ているかははっきりしていません。

(出典)『Q&A日本経済のニュースがわかる! 2027年版』
(出典)『Q&A日本経済のニュースがわかる! 2027年版』
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 トランプ政権はドンロー主義を実現するために、世界に展開する米軍の配置を見直しています。西半球と太平洋に重点的に振り向けるためです。今後、欧州や中東、アフリカの駐留部隊や戦力配備が大幅に縮小されていく可能性があります。

イラン攻撃の位置づけ

 26年2月28日から始まったイラン攻撃をドンロー主義の中でどう位置づけたらよいでしょうか。トランプ氏は26年1月に「ドンロー・ドクトリン、稼働」と題するリポートをSNSに投稿しました。このリポートの著者、米保守系軍事専門家のマイケル・ウォーラー氏はイラン攻撃もドンロー・ドクトリンに関係していると説明します。

 米国は政情不安が続く中東に軍事資源を長年、割いてきました。反米一辺倒のイランの体制が切り替われば、中東からインド太平洋や西半球に資源を振り向けられるという算段があったというのです。トランプ政権に近い関係者は、ドンロー・ドクトリンを稼働させるための障害であるイランを変化させる必要があると説明します。

 ただ、イラン攻撃はトランプ政権が当初もくろんでいた短期間での戦闘で終わりませんでした。戦闘終結に向けてイランと交わした覚書は事実上、崩壊した状態に陥りました。迎撃ミサイルの多くを使い果たし、イランが本当に核兵器開発を断念するかも不透明です。

 トランプ政権は、イランがホルムズ海峡の開放や核兵器開発で譲歩すれば、イランの復興に多額の基金を投入していく算段でいます。イランとの経済的な関係が強まれば、軍事的な敵対関係が弱まるという未来図を描いています。

 米国の真の狙いは、ドンロー・ドクトリンに沿い、イランが反米姿勢を取り下げ、米国の中東への関与を抑えていくことですが、目標達成への道のりは険しそうです。

(出典)『Q&A日本経済のニュースがわかる! 2027年版』
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同盟国への圧力も

 ドンロー主義は、各地域の同盟国に自分の力で防衛を担うよう求めることも柱です。米国が西半球に重心をシフトさせるためです。対ロシアでは欧州に、対中国では日本やフィリピン、オーストラリアに防衛力の引き上げを求めています。米国防総省の当局者は日本の防衛費の水準に強い不満を持っています。今後も厳しい圧力がかかる可能性があります。

トランプ大統領は強硬な対外政策をとっている(写真はイメージ)(写真:Izanbar photos/stock.adobe.com)
トランプ大統領は強硬な対外政策をとっている(写真はイメージ)(写真:Izanbar photos/stock.adobe.com)
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