「頼み事が苦手で仕事を抱えがち。すぐにでも実践したい」。こんな感想が寄せられているのが、書籍『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)。本パートでは同書から抜粋して、職場で起こりがちなコミュニケーションのトラブルと解決策を認知科学の側面から見ていきます。3回目は、仕事上のコミュニケーションでの、感情の活用法について。
切り離せない感情を、仕事で生かす方法を考えよう
感情は、つねに私たちの中で働いている。人は感情で判断をしている。合理的な判断を曇らせることも多いが同時に不可欠な要素である。これは、
前回
お話しした通りです。
そうとわかれば、よりよいコミュニケーションを取り、的確な判断をするために、あるいは、プロジェクトをより大きな成功に導くためにも、今よりも感情に目を向ける必要があるとわかるはずです。
しかしもちろん、ここでいう「感情に目を向ける」というのは、「相手の感情に訴えかける提案をしましょう」というような狭義の話ではありません。そこでここでは、仕事上のコミュニケーションにおける、感情の扱い方について考えてみることにしましょう。
コピーの割り込み 許せるのはどの頼み方?
理由と感情の関係性を示した「コピーの割り込みをお願いする」というユニークな実験を紹介しましょう。米国ハーバード大学のエレン・ランガーらによって行われた、「割り込みの成功率の研究」です。頼み方によって、その成功率が変わることを示しています。
① Excuse me, I have 5 pages. May I use the xerox machine?
「すみません。5ページだけなんですが、コピー機を使わせてもらえませんか?」
② Excuse me, I have 5 pages. May I use the xerox machine, because I have to make copies?
「すみません。5ページだけなんですが、コピーをしなければならないので、コピー機を使わせてもらえませんか?」
③ Excuse me, I have 5 pages. May I use the xerox machine, because I'm in a rush?
「すみません。5ページだけなんですが、急いでいるので、コピー機を使わせてもらえませんか?」
これらのお願いに対する成功率は次の通りです。
① 60%
② 93%
③ 94%
①は、「because(〜ので)」というような「理由」を伴わないお願いの仕方でした。この場合は、60%の成功率で、割り込みをさせてもらえました。
一方、94%と一番成功率が高かったのは、「急いでいるので(because I'm in arush)」と理由を示した③のお願いです。
ただ、ここで注目したいのは、②のお願いです。このお願いには確かに「理由」と思われるものがありますが、それは、「コピーをしなければならないので(because I have to make copies)」。コピーをしている人も、並んでいる人も、誰もが同じです。本来ならば割り込む理由にはならないはずなのに、③とほぼ変わらない成功率だというのは、驚くべきことでしょう。
この実験から、いかに「理由を伝えること(because)」が大事かということがわかります。
「相手を感情的に納得させられるか」が仕事の成否を決める
禁止など、強い要求にはどうしても感情が動きがちです。そうした場合には、理由を添えるだけで、相手の納得を得られやすくなるというのは、覚えておいて損はないでしょう。
これは、人に何かをお願いする、というシチュエーションでも同様です。要望が聞き入れてもらいやすくなるだけでなく、不毛な対立も防げるはずです。
日本の組織、特に行政はしばしば感情を無視して、理由を示さずに一方的に通達をするケースが目立ちます。あるいは、「丁寧に説明する」と言いながら、決定の理由や背景をきちんと述べることなく、あらかじめ決めてある結論をただ繰り返すだけ、というケースも少なくありません。
「丁寧に説明する」というのは、聞き手の納得できる理由とその根拠をきちんと示すということ。同じことを繰り返して言うことではありません。そしてそれには、感情への配慮も欠かせないのです。
今井むつみ著/日経BP/1870円(税込み)
