「言われてみれば当たり前のことばかり。でも、やっているかというと話は別で、全然できていなかった」。こんな感想が寄せられているのが、書籍『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)。本パートでは同書から抜粋して、職場で起こりがちなコミュニケーションのトラブルと解決策を認知科学の側面から見ていきます。4回目は、今井さんが「コミュニケーションの達人」だと思うビジネスパーソンから聞いた、感情に配慮したコミュニケーションのコツを紹介します。
感情を味方につけるコミュニケーションのコツ
優秀なビジネスパーソンの多くが、「自分は合理的に判断し、決定している」と考えています。
しかし、この連載でもお話ししてきたように、自分の感情にまったく左右されずに、何かを行うことは困難です。私たちが下す決定は、多かれ少なかれ感情の影響を受けているものです。
本当は大事だとわかっていても、イヤだという気持ちが起こってしまってきちんと対応できない、ということは誰にでもあることでしょう。
例えば新しくスマートフォンを契約するときなどはどうでしょう? 必ずといっていいほど、小さな文字がぎっしり詰まった書類を見せられて、ものすごく長い説明を聞かされます。
「お客様」としては、ちゃんと読んで話を聞かなければと思いつつも、拒否したい気持ちが起こるのも仕方がないものです。
一方、そうした契約の説明をする会社側はどうでしょうか? そもそも、そうした書類と説明が長くなりがちなのは、クレーマーによるリスクを避けるためという面が多いように思います。それでかえって、多くのお客様に大事なことが伝わらないとなると本末転倒ではありますが、会社の姿勢としては、いつ、どこから責められてもいいように、防御姿勢を取っている。お客様を「敵」とみなしているわけです。こうした接し方では、いいコミュニケーションは成り立ちません。
とはいえ、会社員としては、業務であれば我慢してできるのかもしれませんね。
ただし、こうしたお客様もイヤな気持ちになっていて、会社としても相手を敵のように扱っていては、コミュニケーションはうまくいきません。「言った・言わない」の問題が起きやすいのも、こうした場面でしょう。
では、感情に配慮したコミュニケーションとは、どういうものでしょうか。
普段のコミュニケーションに感情をプラスする
理由を伝える
前回
、理由が感情を大きく動かすということをお伝えしてきました。
報告してほしければ「なぜ報告してほしいのか」、ややこしい説明でも聞いてほしければ「なぜこの説明を聞いてほしいのか」という、「なぜ」の部分を伝えることが有効です。
ただし、これはもちろん、「知りたいから報告して」とか「説明したいから聞いて」のような、自分本位の「なぜ」ではその効力も薄まってしまいます。「相手の立場」が不可欠ということは、言うまでもありません。
相手の感情に寄り添う
感情というのは、自分でも自覚できないくらいの本当に些細なことで変化するものです。裏を返せば、相手の感情に配慮するということも、ちょっとしたことからできるということです。そのちょっとしたこととは、例えば服装です。
Fさんは、大手ゼネコンで勤務されている会社員です。彼自身の普段の仕事はジャケットが基本だそうですが、取引先を訪問する際には、なるべく相手の服装に合わせているとお話しされていました。工事現場や作業場に行く場合は作業着、相手が普段着なら普段着、スーツならスーツという具合です。
「お客様と同じような服装をするだけで、人間同士の付き合いができるようになる気がするんです」
とのことでした。Fさんのように形から入るのはいい方法かもしれません。
「悩み」こそ見過ごしてはいけない感情の宝庫
悩みを共有する
悩みは感情とワンセットです。そのため、悩みを共有できると、感情を味方につけやすいと、あるやり手のビジネスパーソンが教えてくれました。セールスの際には、
「現場でこういう工夫をしたらうまくいったので、同じことをしてみませんか?」
という言い方をしてみる。すると、
「この人も、同じ悩みを抱えていたんだな」
と、土俵が同じになるわけです。このときすでに感情は動いているでしょう。
例えば、帰国子女で英語を自在に話せる人が、新発売された教材を持ってきて、
「この教材を使えば、英語が話せるようになるよ」
と言ってきたとしても、あまり心は動かないはずです。同じ人でも、使い込まれた教材を持ってきて、
「全然英語が話せなくて、でもどうしても留学がしたくてこの教材を使ったら、英語が話せるようになったんだ」
と打ち明けられたら、「使ってみようかな」と思うのではないでしょうか。
教材のよさはわかりませんが、説得力があるのは後者です。それは、「英語が話せなかった」という、自分と同じ悩みを共有しているからです。
今井むつみ著/日経BP/1870円(税込み)
